いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。

今回は、阿佐ヶ谷の食堂「藤野家」をご紹介。

  • 青梅街道沿いの小さな食堂「藤野家」(阿佐ヶ谷)

「やっぱりカツ丼を食べなきゃいけないよなぁ」

位置的には阿佐ヶ谷に分類されると思うのですけれど、とはいえ地図上では荻窪との中間あたり。ましてや青梅街道沿いなので、最寄り駅は東京メトロ丸の内線の南阿佐ヶ谷ということになります。

ちなみに僕にとっては、すぐ近くの中央図書館へ行くときなどにしょっちゅう通る自転車エリアでもあります。

多くの車が行き交う青梅街道沿いでありながら、人通りはさほど多くないそんな場所で古くから営業を続ける食堂が、今回ご紹介する「藤野家」。

何度もお休みにあたってしまったのでなかなか伺えなかったのですが、たまたま通りかかったこの日は営業中です。

なら、入るしかないじゃないですか。

  • 強いメッセージを放つショーケース

ところで、ふと店頭のショーケースに目を向けると、たまたま目についてしまったのですよ、カツ丼が。

「そりゃそうだよなぁ、こういう昔ながらの食堂では、やっぱりカツ丼を食べなきゃいけないよなぁ」

なにが「そりゃそう」なのかわかりませんが、なぜか、そんなよくわからない使命感が湧き上がってきたのです。だから、もうこの時点で頭のなかはカツ丼のことでいっぱいです。

  • 店内は清潔な雰囲気

店内は広くはないもののゆったりとスペースがとられていて、入ってすぐ左側に1卓と、右側にも2卓の4人用テーブル。突き当たりのカウンターにも3席あり、その向こうが厨房になっています。

お邪魔したのは13時ごろでしたが、お客さんはひとりだけ。カウンターいちばん右の席に座るそのおじさんは常連らしく、この時間からジョッキでハイサワーっぽいものを飲んでおられます。

うらやましいなあ。平日の真っ昼間から飲むのって最高だよね。そのあと仕事にならないから、なかなかできないんだけど。

いつの日か、仕事のことなんか考えずにこういうところでダラダラ飲みたいものだなぁと思いつつ、ドアすぐ横の右側のテーブルへ。斜め上にあるテレビでは、昼のニュース番組が。

  • 時間が静かに流れていく

ほどなく、ひとりで切り盛りしていらっしゃるお母さんがお水を持ってきてくださったので、迷うことなく「カツ丼をください!」。

そんなに張り切って伝えんなよって感じですが、「カツ丼ね」といいながらお母さんは厨房へ。

  • メニューには気になるものがちらほらと

なお、改めてメニューを確認してみたら、チャーハンやオムライス、焼肉定食、焼魚定食など食堂の定番メニューはもちろんのこと、ラーメン類も充実しているようです。

「チャシュウメン」とか「トン汁」とか、ちょっとした表記にも味があるなぁ。

あと、ものすごく興味を惹かれたのが「並弁当」。どんなものが登場するのでしょうか?

それにしても驚かされたのは、座った席の真正面の壁一面を覆うパームツリーと海岸の写真が印刷された大きなパネルです。

  • パームツリーと夕日の意味は?

唐突感。

でも、こういう謎のセンスって嫌いじゃないですぜ。

さて、パームツリーを眺めつつ、厨房から聞こえてくる調理音に胸を躍らせながら待っていると、やがて待望のカツ丼が運ばれてきました

  • まさに正統派のカツ丼

丼の中央には、たまごでとじた肉厚のカツがでーんと。見た目にも柔らかそうな玉ねぎもたくさん入っているし、これはまさに正統派のカツ丼ですね。つけあわせにはワカメとネギの味噌汁と、そして漬物。

  • 肉厚のカツはたべごたえ抜群

さっそくいただいてみると、やけどしそうなくらいアツアツのカツ丼は、期待どおりの味。「こんなカツ丼、食べたことがない!」というように突出した個性はなく、いたってオーソドックスであるわけです。

すなわちそれは、求めていたカツ丼そのもの。

ってなわけで、無心にカツ丼の世界へと没入したのでした。

  • 漬物にはキムチも

  • 味噌汁も出汁がきいておいしい

いや~、うまったなあ。考えてみると外食でカツ丼を食べる機会ってそれほどないんだけど、だからなおさら満足できました。これは他のメニューにも挑戦してみなきゃね。まずは並弁当かな。

「うちは古いわよ。昭和の初めからだし、いま3代目だから」

帰りがけにお聞きしてみたら、お母さんからそんな返答が。駅から離れているのにそれだけ続けてこられたってことは、続けられるだけの理由があるからなのでしょうね。

●藤野家
住所:東京都杉並区成田東5-15-22
営業時間:10:00~14:30、17:00~20:00
定休日:日曜日、祝日