9月に入った。子どもの夏はとうに過ぎ、気象予報でじわじわと伝えられる秋の訪れ。ファッションやグルメも徐々に秋仕様で、9月を夏気分で過ごせるのは大学生くらいのものである。最高気温も30度を割り込んだこの日、未だそんな現実を受け入れられず、Tシャツ短パンで街に繰り出した。人の流れと逆行するように渋谷駅から京王井の頭線に乗り込み、降りた「明大前」駅。いや、正確には駅を出ていないので、降りてはいないのかもしれない。中央口改札のすぐ向かいにあるのが今回の「高幡そば」である。

  • 「冷しおろしそば」(480円)

明大前駅の駅ナカ立ち食いそば

いわゆる、一般的な駅併設の立ち食いそば。明大前駅はなぜだか知らないが駅ナカの店が豊富で、カレースタンドや和菓子屋などもみられる。出入口に2台の券売機。駅内なので、交通系ICカードが利用できる。上段には写真入りでオススメの4点が並ぶ。「肉そば」「田舎そば」に力を入れているようで、赤文字になっていた。ほか、気になったのは「鳥中華」か。夏季限定で「冷たい鳥中華」というメニューもあった。特にお目当てを決めていなかったので、上段の中から「冷しおろしそば」(480円)を選ぶ。「夏の定番」とのこと、8月の名残だ。それに、たまにはと単品の「いなり」(70円)もつけた。

店内はオールスタンディング。中央にドデンと厨房があり、その周囲に申し訳なくカウンターが並んでいるような印象だ。広くはない。「そば」の旨を伝え、出入口の給水器で水をくむ。午前10時頃、相客は3人。全員男性。店内は音楽もなく、静かだ。1分ほどでそばは完成する。

冷たいそばの上に多彩な薬味がたっぷり

冷たく〆られたそばの上にのるのは、おろし、水菜、削り節、わかめ、ねぎと、薬味大好きの自分にとっては実に気持ちが高まるラインナップ。これに脇に添えられたわさびを混ぜ溶かし、大雑把にかき混ぜながら口へ運ぶ。シャキシャキだったり、ツーンとしたり、さっぱりしたり、旨かったり。色んな刺激を口内で感じる。そんな口に、この上なくシンプルないなりずしがホッと落ち着きを与えてくれる。甘くてやさしい味だ。欲を言えば、そばにキリッとしたコシがあれば一段上の味だったかもしれないが、そこは好みだろう。

  • 京王井の頭線「明大前」駅の駅構内にある「高幡そば」

食べ終わった時分には、すっかり気持ちは夏だった。8月31日に夏が終わり、9月1日から秋が始まるとか、季節はそういう単純なものではない。冷しそばを食べたくなるうちは、夏だ。

著者:高山洋介

1981年生まれ。三重県出身、東京都在住。同人サークル「ENGELERS」にて、主に銭湯を紹介する同人誌『東京銭湯』『三重銭湯』『尼崎銭湯』などをこれまでに制作