今日は百人町へ。新宿区、JR総武線「大久保」駅を下車したところ。この街の歴史はここで多くを語ることは難しいが、山手線の新大久保駅前が賑やかな繁華街を形成しているのに対し、ここでは裏寂れた昭和の景色をほのかに残した生活感が強く漂っている。並ぶ店は、アジアを中心にまさに多国籍。そんな飲食店街の中、突如現れる真っ白な「うどんそば」の暖簾の店が「長寿庵」である。大久保駅南口から徒歩1分。

  • 「天玉そば」(340円)

シンプルかつ格安なメニューに驚き

開け放たれた入口から店内が見える。カウンターの座席が1列のみ。午前10時過ぎに伺ったこともあり、先客はいなかった。ガラス戸には献立が貼られている。かけ、もり、たぬき、月見、きつね、わかめ、天ぷら、天玉のうどん・そば。それにおにぎり。メニューは超シンプルにこちらのみだが、値段が信じられないほど安い。かけそばは、なんと220円。昨今、自販機のペットボトルでも高いものは190円くらいするのに、色々と大丈夫なのだろうか。何はともあれ、暑い日だ。さっさと中に入ろう。

大将の「いらっしゃいませ!」の声。適当な席にカバンを下ろし、せっかくだからと最高値の天玉そば(340円)を注文した。早速つくり始める大将。代金引換式なので、座りつつ小銭を準備していると「すぐできますんで」との言葉。さり気ない接客の温かさと、外から流れ込む風の涼しさが心地良い。AMラジオが流れる店内。ふと壁を見ると「薬味(ネギ)の増量サービスは終了しました」の張り紙。この値段でネギマシにも対応していたのか……と驚愕。間もなく、天玉そばが目の前に置かれた。

ひと口でわかる、ハイレベルな一杯

まずはひと口麺をすする。茹でておきながらここまで風味が残るか! 中太で、パツパツとした歯切れもよく、モッチリした食感のかなりハイレベルなそばだ。

  • JR総武線「大久保」駅から徒歩1分の「長寿庵」

天ぷら(かき揚げ)だが、もちろん揚げ置きで、結構カチカチ。具はぼんやりと、玉ねぎが入っているかな? くらいのイメージで、小麦粉に衣をつけて揚げたような感触。ジャブジャブとツユに浸しまくって溶かしながら食べるのが正解なので、あまり野暮なツッコミは入れないように。そして忘れてならない生玉子。これを箸で崩すと、ツユが一段とまろやかに。元々尖った塩気は少なく、旨味がじんわりと口の中に広がる。

ごちそうさまでしたと声をかけると、「お忘れ物ないように」とのお返事。額面の何倍もの満足感を得られた一杯であった。その店名の通り、ぜひこの味を末永くお願いしたい。

筆者プロフィール: 高山 洋介(たかやま ようすけ)

1981年生まれ。三重県出身、東京都在住。同人サークル「ENGELERS」にて、主に銭湯を紹介する同人誌『東京銭湯』『三重銭湯』『尼崎銭湯』などをこれまでに制作。