当連載で前にも書いたことがありますが、筆者は小学生の頃、3年間だけ和歌山県の紀勢本線沿線の町に住んでいました。ただし、その間も祖母が兵庫県内に住んでいたため、たまに戻ることがありました。当時の紀勢本線はまだ電化されていなくて、キハ28・58系の急行「きのくに」だと、地元の町から天王寺駅まで約2時間の旅でした。

かつて全国各地で見られたキハ28・58系。いまや現役で活躍する姿はごく一部の路線で見られるのみとなった

キハ28・58系の塗装は国鉄らしい品位を感じさせるものだった

キハ28・58系をはじめとするディーゼルカーは、電車とはまた違った風情がありました。蒸気機関車のような派手さはもちろんありませんが、「ガガガガ……」というエンジンの音、排気のにおい、そして鼓動をともないながらの加速。それらすべてが、「これから遠くへ旅立つんだ」という気持ちを大いに盛り上げていたような気がします。

「バラバラバラバラッ! ガガガッ! ガララララ! ゴワァーン!」という轟音とともに、ゆっくり動き出すディーゼルカー。4人がけのボックス席は、背中が垂直になりそうなくらい真四角な印象がありました。車窓の景色がゆっくり流れていき、窓辺にはお茶とお弁当と冷凍みかん。国鉄時代の鉄道旅行は、なんともいえないノスタルジーがありますね。

キハ28・58系といえば、朱色とクリーム色のツートンカラー。国鉄急行形ならではの塗装で、これもなかなかに良いものでした。「ブルドッグ」と呼ばれたキハ81系や、貫通扉の付いたキハ82系のような特急形気動車に比べると、高級感では劣るかもしれません。でもキハ28・58系のカラーもまた、国鉄らしい品位を感じさせるものだったと思います。

あと、電化されていない線路は当然、架線もないので、列車の写真を撮るときに邪魔にならない、というのもうれしいですね。架線からの電気で走るのではなく、自力で走れるというのもいいじゃないですか。もし仮に線路がなくても、「鉄の車輪でどこでも走ったるで!」的なガッツを感じさせるというか(走れへん走れへん!)。

架け替えられる前の餘部鉄橋を渡るキハ181系の特急「はまかぜ」とキハ40形。国鉄時代のディーゼルカーも、JR発足以降はそれぞれの地域のオリジナル塗装に変更されていった

JR発足から四半世紀、国鉄時代の車両は少なくなる一方…

いま、大阪近辺で昔ながらのディーゼルカーを見かけることはほとんどなくなりました。智頭急行を経由して鳥取方面へ向かう「スーパーはくと」をはじめ、ディーゼルカー自体は走っていますが、これがじつにハイカラというか現代的な車両でして、シュッとしていて、あまりディーゼルカーという感じがしないんですよね。

数年前から、東海道・山陽本線でまた新たなディーゼルカーが走り始めました。キハ189系です。朝9時45分頃、武庫川の橋を高速で通過するディーゼルカーがいて、あまり乗客がいる様子もなく、「あの列車は一体何? 今度調べてみよう」と思ったのですが、そのままほったらかしになっていました。特急「はまかぜ1号」だったみたいです。

キハ28・58系も、この10年くらいでまったくと言っていいほど見かけなくなりました。たまに地方で見つけても、現代風の塗装に変更されていて、全盛期を知る筆者としては寂しい限りでした。この春に姿を消した183系(元485系)といい、国鉄色の車両は少なくなる一方ですね。まあ、JRになって四半世紀も経つのですから、むしろ「いままでよく残っていたな」と言うべきなのかもしれません。

日本の原風景には、やっぱり国鉄色の列車がよく似合うと思うんですけどね……。