近年、なにかと話題の「SDGs(エスディージーズ)」。山形・庄内には「持続可能な社会」に向けて活動する企業や若者たちがたくさんいます。この連載では、そんな庄内での暮らしに夢を持って、あえて地方で働くことを選んだ若手社会人を取材。SDGsに取り組む企業で働く人たちの活躍をお伝えしていきます。
連載3回目は、山形県唯一の離島・飛島で合同会社「とびしま」を立ち上げ、地域課題に取り組む松本友哉さんを紹介します。
平均年齢約70歳、人口約200人、過疎化が進み「20年後には人口がほぼゼロになる可能性がある」とされている飛島。そんな離島に移住したのはなぜなのか、島で行っているユニークな活動についても取材しました。
Vol.3 合同会社とびしま 役員 松本友哉さん(32才)
被災地ボランティアへの参加が東北での暮らしの原点
高校までを地元・山口で過ごし、大阪の大学で建築・デザインを専攻していた松本さん。就職活動を始めようとしていた大学3年生のときに東日本大震災が起こり、被災地ボランティアに参加したことが、地方で暮らすきっかけとなりました。
「被災地ボランティアに参加した際、そこに住む方たちが力強く思いをもって生きようとしているのを目の当たりにしました。日本の未来がどうなるかわからない状況のときに、このまま大阪でデザインの仕事をするより、地方ですべきことがあるんじゃないかって」
地方での生活を模索していたところ、松本さんが見つけたのが「緑のふるさと協力隊」。少子化に悩む過疎地で1年間、若者が地域活動を行うプログラムです。
松本さんは、このプログラムに参加することを決意。派遣先として選んだのが、約200人の島民が暮らす山形県・酒田市の離島、飛島でした。
飛島で会社を立ち上げようと思った理由
トビウオやゴドイモ(特産じゃがいも)、グッチョ(貝)と呼ばれる島ならではの珍味などを主な特産品としている飛島。
食だけではなく、海岸沿いの美しい風景や、地元漁師さんとの方言を交えたおもしろいやりとりなど、たくさんの島の魅力に松本さんはひかれていきます。
しかし、漁業や草刈りなど、島のことをお手伝いしているうちに、あっという間に1年が経過……もう少し島で暮らしたいけれど、島に残るには仕事がない、そう思って仲間と立ち上げたのが、合同会社「とびしま」だったのです。
初めは、島内の写真を展示するギャラリーづくりや、カフェ「しまかへ」の運営、草刈りなど、行政の委託事業を行っていましたが、その後、漁業の手伝いや食品の加工、商品開発やガイド、さらには宿泊業も開始し、徐々に活動の幅を広げていきます。
島ならではの魅力を際立たせる工夫
「島にはたくさんの魅力があるのに、対外的な発信が積極的に行われていないのはもったいない」そんな思いで、松本さんは次々とユニークな発信を行っていきます。
その代表的な事例が、合同会社とびしまの『有給休暇3カ月』制度。海が荒れて来島者がほとんどいなくなる冬にお休みすることは、島民にとって当たり前の働き方だったそうですが、『閑散期の10~3月の間、3カ月有給休暇を取得できます』と発信したところ、全国的なニュースサイトで紹介され、若者の移住を促すことに成功したのです。
「会社を作ることはどこでもできますが、飛島にある会社ならではの制度ができないかなと思って創設・発信したんです。すると、思わぬ反響があって。島だからこそ発信できるものがあるのだなということがわかってきました」
昨年は、テントサウナ・ドラム缶風呂・BBQなど島ならではのマインドフルネスな体験を行う少人数限定のモニターツアー「タラソテラピー体験モニターツアー」や、オンラインのアイデアソン※「島キャンプオンライン」なども実施。
島の魅力をコロナ禍という状況の中でどう伝えていくか、今も模索されています。
※アイデアとマラソンを掛け合わせて造られた造語。特定のテーマを決めて、そのテーマについてグループ単位でアイデアを出し合う、その結果を競う
先進技術を持続可能な地域づくりに活用する「テックアイランド構想」
また、斬新な方法で持続可能な地域づくりにも取り組んでいます。それが、最先端の技術と機器を使って、島の暮らしを守っていくことを目指す「テックアイランド構想」。県内の企業・工業高校と合同で行っているプロジェクトです。
例えば、海岸にたまった漂着ごみや流木などは、小型無人機・ドローンで状況を把握し、自動運転ロボットで回収するなど、人手が少なく清掃が行き届きにくい島ならではの課題解決に最新技術を役立てています。
さらに「空飛ぶカレー」と称して、海岸沿いで観光を楽しんでいる人たちに、ドローンでカレーを運ぶ取り組みも。観光客が昼食をとれるお店が限られている中、好評なのだそうです。
「海岸で観光を楽しんでいる方たちが、何か食べたり、キャンプ用品が欲しいと思ったりした時に、スマホ一つで注文できたら良いなと思いはじめたのがきっかけで、カレーはそのプロトタイプの一つです」。
人がいなければロボットに活躍してもらう、最先端技術を取り入れた暮らしを通して、新たな価値観を島から発信する……松本さんのアイデアが光る施策ですね。
コミュニティづくりを通して島の関係人口を増やしたい
そんな松本さんが今力を入れているのが、島内外の人たちが飛島について考えるコミュニティ「とびしま未来協議会」のアップデートです。
「これまでとびしま未来協議会のコミュニティ作りは島内で行われていました。これを、オンライン上に移すことで、全国どこからでもいろんな人がプロジェクトを立ち上げて、飛島の地域づくりに関われるようにしたんです」
そんな経緯で作られたのが、Slack(オンラインコミュニケーションツール)上にあるコミュニティ「Cloud Island(クラウドアイランド)」。島のイベントに参加してくれた人や、その友人、酒田市の方、全国で暮らしている離島の関係者など120名弱のメンバーが、活発にコミュニケーションを行っているそうです。
最近ではコミュニティのWEBメディアも完成し、島のいろんな生物や物を擬人化してオリジナルアニメを作る「擬人化アイランド」、上質な暮らしを目指す拠点整備を行う「グッドライフアイランド」など、地域づくりに向けた複数のプロジェクトが実際に動き出しています。
「今は複数の仕事を行うマルチワークや、場所にとらわれずに仕事を行うのが当たり前になっていて、仕事場と住む場所がシームレスになってきていると思います。ですから、住んでいる場所に関係なく、飛島の地域づくりの活動に関わってくれる"しまびと"を増やしていきたいです」
関係人口を広げていくために、底なしの企画力を発揮しつづけている松本さん。今後も目が離せませんね。
取材を終えて
私も一昨年の夏、とびしまさんの仕事に関わらせてもらい、初めて飛島に行くことができました。これまで、なかなか行くきっかけがつかめませんでしたが、実際に訪れてみると、シュノーケリングや、釣り、島内サイクリングなど、まるでリゾート地のような観光資源の充実さに驚いた記憶があります。
そんなきっかけを頂いたのもたまたま私と同じ庄内で活動していた元地域おこし協力隊の方がご紹介してくれたことから。こうして人から人が繋いでくれる島へのご縁ってあるなと思いますし、それこそ関係人口の重要性なのだなと思います。
世界的なパンデミックが起こっているこんな時代だからこそ、関係人口を作ることは、離島だけでなく地方で地域づくりを行う人の共通のミッションだと思います。本島で暮らす私にもよい刺激となりました! もっけでございました!(庄内弁で「ありがとうございました!」)
著者プロフィール:伊藤秀和
1984年神奈川横浜市出身。2018年5月に三川町地域おこし協力隊として妻と2人の子どもと一緒に山形県庄内地方に移住。WEBライターとして外部メディア寄稿経験多数、ローカルメディア「家族4人、山形暮らしはじめました。」運営。