近年、なにかと話題の「SDGs(エスディージーズ)」。山形・庄内には「持続可能な社会」に向けて活動する企業や若者たちがたくさんいます。この連載では、そんな庄内での暮らしに夢を持って、あえて地方で働くことを選んだ若手社会人を取材。SDGsに取り組む企業で働く人たちの活躍をお伝えしていきます。

初めまして。山形を中心にライターとして活動している伊藤秀和です。2018年関東から庄内地方へIターンで移住をして、現在はフリーランスライターとして地域の魅力を発信しています。山形の日本海側でSDGsに取り組む若者を紹介するこちらの連載記事を担当していきますので、どうぞよろしくお願いします!

連載第1回目は、グリーンエネルギー事業に取り組む「チェンジ・ザ・ワールド」のプログラマー、青木謙太さんを紹介します。

Vol.1 チェンジ・ザ・ワールド プログラマー 青木謙太さん

  • 青木謙太さん

東京での過酷な勤務から一転、縁もゆかりもない山形に来た理由

現在は、営業チームが使う社内ツールを作るなど、自社サービスや業務全般の開発に奮闘されている青木さん。移住前は、都内の企業で、客先常駐型の受託開発を行っていたといいます。

顧客の開発納期に合わせて仕事をする日々、青木さんは当時の生活をこう振り返ります。

「東京にいたときはお風呂セットと着替えを会社の机に置いておき、"今日は何日泊まるかな?"という生活をしてました。クッションを床に並べて、そのまま会社で寝ることも多かったです」

顧客の意向や予算、期間などを色々汲み取って開発を進めていくため、自分が思うものを作れず、モヤモヤしたこともあったそう。

また、千葉の自宅から勤務先の池袋まで、満員電車にゆられながら往復3時間かけて通勤するなど、かなりハードな生活を送っていました。

そんな青木さんが、縁もゆかりもない山形県酒田市に来るきっかけとなったのは、前職の上司であり、現在勤務する会社のCTOである玉置龍範さんに「こっちに遊びにきてみなよ」と声を掛けられたことから。

  • 山形に来るきっかけとなった玉置さんは前の席

山形県についてあまり知らなかった青木さんでしたが、「楯野川」という日本酒が好きで、その蔵元があるということで訪れる機会も増えていきました。

山形県と秋田県にまたがる、日本百名山の一つ「鳥海山」からの眺望にもすっかり魅了され、自然と日本酒、そして歴史的建造物も多い酒田市の地域の魅力にどっぷりとはまっていきます。

「こういう環境で仕事ができるっていいな」、そんな素直な気持ちから、2019年7月、千葉県から山形県酒田市への移住を決めました。

  • 日本海の海も臨める酒田市。撮りたいものが庄内にはたくさんあるといいます

コロナ禍の仕事がきっかけで、"地域に貢献したい"思いがより鮮明に

チェンジ・ザ・ワールドでさまざまな開発業務に携わりながらも、青木さんがここ最近力を入れていた仕事があります。それが、新型コロナウイルスの影響で打撃を受けた地元飲食店を応援する、先払い型オンラインチケットサービス「もっけ玉」のシステム管理です。

「もっけ玉」は、チェンジ・ザ・ワールドが、IT企業としての経験を活かして地域のために何か貢献できないかという想いから非営利で開発したサービス。

登録店舗のチケットを先払いで購入することで、店舗に来客がない状況でも、店舗のオーナーが資金を受け取れるシステムになっています。

システムリリース1カ月後には、チケット購入者に対し自治体が金額の2割を助成することも決定。地域の店舗の消費を促し、大きな話題となりました。

「システム管理に携わる前から、お世話になっている地元の飲食店さんやケーキ屋さんが『明日冷蔵庫の電気が切れるかもしれない』と不安に思っていらっしゃるのを聞いていたので、使いやすいサービスになるよう、力を尽くしました」

青木さん自身ももっけ玉チケットを買ったり、お店の人と話したり、アプリの使いづらさについて聞き取りをしたり……。

お店の人と話すことでより地域と深く関わり、酒田で働くことの意味ややりがいを感じるようになったと言います。

環境問題に興味を持ってもらうために、自分の技術を活かしたい

  • 一緒に働くメンバーと

青木さんが働く会社、チェンジ・ザ・ワールドは、誰でも1ワット(200円~300円)から太陽光発電所のオーナーになれる「スマホで買える太陽光発電所CHANGE(チェンジ)」というサービスを運営しています。

「たくさんのひとりが世界を変える」という会社のスローガンにもあるように、みんなが少しずつお金を出して、多くの人たちがこのサービスに参加することで、環境問題を自分事として捉えてもらい、結果的に大きく世界に広げていきたいというもの。

  • チェンジ・ザ・ワールドでは、耕作放棄地の上に太陽光パネルを設置して、農業を続けながら太陽光発電も一緒に行うソーラーシェアリング方式の太陽光発電所に取り組んでいる

「地球温暖化や海面上昇、風力・火力・原子力発電という言葉の意味は知っていたけれど、何が良いとかどう地球に影響して悪いのかといったことは、これまで理解できていませんでした。でも、自社で太陽光発電事業を扱っていることがきっかけで、エネルギーのことを考えるようになりました。これから先の2030年頃の未来を考えるようになったときに、再生可能エネルギーに転換させていかないと日本に未来がないなと今は考えています」

青木さんがSDGsや環境問題について興味をもつようになったのは、この会社に入社してから。でも今では、自分がプログラマーとして培ってきた技術を、この地域に、そして環境問題を解決するための一助として、活かしていきたいと考えています。

「一人一人が正しい知識を持って、身近な環境の変化を意識できるようになることが大切だと思っています。CHANGE(チェンジ)を始めることで環境への意識を高め、少しずつ再生可能エネルギー普及に参加してくれる人たちを増やしていきたいです」

取材を終えて

青木謙太さんがプログラマーを志したのは、大手自動車メーカーHondaの創業者・本田宗一郎氏のように"人の生活のために技術を活かしていきたい"と考えたから。お話を聞いていると、確かに青木さんからは「自分の技術を活かしてサービスをより使いやすいものに、そして人の生活をよりよくしていきたい」というこだわりが感じられるように思いました。

実はこの取材の1カ月前に、こちらの地域に住む方とご結婚をされたとのこと! 公私ともに順風満帆な日々を送っていらっしゃるようです。

最後に、移住を考える人へ向けてのメッセージを伺いました。

「都会では近所に誰が住んでいるのか興味もありませんでしたが、酒田に来てからはちょっと近所を見渡すと、雪かきをしている知人が外にいたり、人のつながりを感じることができます。精神的にゆたかな生活をすることが出来ていると感じるので、そんな暮らしを求めている方はぜひ、移住を検討してみてくださいね」

先輩に誘われてふらっと来てみて、その土地のことや好きなお酒を飲んだり、会社の仲間や地域の人とのつながりを大事にしながら過ごしていたら、奥さんまで見つけてしまった青木さん。

移住先で自分らしく暮らしながら、「持続可能な社会」を目指し自社サービスの開発に奮闘する青木さんの今後に期待です。

著者プロフィール:伊藤秀和

1984年神奈川横浜市出身。2018年5月に三川町地域おこし協力隊として妻と2人の子どもと一緒に山形県庄内地方に移住。WEBライターとして外部メディア寄稿経験多数、ローカルメディア「家族4人、山形暮らしはじめました。」運営。