中国の経済発展はすさまじい。中でも、五輪が終わった首都の北京や2010年の万博開催に向けて整備の進む上海は、非常に発展していて、日本にいるのと変わらないという印象を受けるぐらい、何でもある便利な街だ。

だが、一方で、急激な成長による、排ガスなどの公害の影響は、まるで1960~70年代高度成長期の日本を見ているようだ。実際、北京の空を見ていると、朝は晴れていたはずが、雲が出てきたわけでもないのに、どんどんと排ガスが空を覆い、夕方にはまるで曇っているかのように感じる(五輪期間中は緩和されていたようだが)。そのせいなのか、現地の人は、痰やツバはペッペッとよく吐く。外国人から見ると、この行為は行儀悪く感じるのだが、乾燥していてほこりっぽい排ガスまみれの北京市内を歩いていると、痰やツバを吐きたくなる気持ちもわからなくもない。

北京の午後は、晴れている日でもなんとなく、空がよどんでいる。外を歩く現地の人たち、車の排気ガスやホコリを避けるために、ハンカチで手を塞ぎながら歩いている人も多い

上海経済の中心、浦東地区のビル群。中国を見ていると、急激な経済成長に、環境対策などその他の施策がまったく追いついていないのが見てとれる

だが、北京や上海、あるいは海側にある大都市から少し内陸に入ると、そこはまだまだ未開の地。空気の澄んだ美しい大自然が残っているのも、中国の魅力だ。小さな島国日本に育った我々の目には、広大な中国の大地は、本当にうらやましく感じる。そして、中国の田舎に残っている古い村を見ると、昔の中国が大自然と共生してきたことがよくわかる。今回は、そんな中国の古い村を紹介しよう。

以前、中国・黄山の旅を紹介した。上海から内陸に400kmほど入った安徽省に残る、山水画のような景観を持つ山々である。中国でも有数の景勝地として知られる黄山は、自然保護のために、自動車の通行や木々の伐採を制限するなど、自然を残すためのさまざまな工夫がなされている。

標高1700m級の山々が連なる黄山は、豊かな自然が残っている中国有数の景勝地。観光地として整備を進める一方で、自動車の通行を制限するなど、自然を残す努力も行われている

この黄山から、車で1時間ほどのところにあるのが、「宏村」を始めとする800年ほど前に作られた村々だ。「安徽省の古民居群」として世界遺産に登録されているこれらの村々は、宋、明代の旧家をそのまま残しており、古くからの中国の文化に触れられるだけでなく、昔の中国の人たちが自然と共生してきたことを見てとれる、貴重な文化遺産である。

安徽省の古民居群に指定された村々を訪ねるのに、拠点となるのが安徽省南部の中心都市、黄山市である。黄山市へは、上海などから飛行機で行くことができる。自動車ならば、上海から4、5時間ほど、杭州からなら2、3時間ほど、高速道路を走って行くこともできる。さらに、上海や杭州から夜行列車で向かうこともできる。

黄山市の一画、屯渓(黄山市の古い地名)の老街は、宋、明代の古い建物が残る趣のある通り。茶店や書道道具の店などが建ち並んでおり、買い物も楽しい

安徽省は、筆、硯といった書道の道具の産地。格安で良質の筆や硯が手に入る。また、ダージリン、ウヴァと並ぶ世界三大紅茶の1つ、キームン紅茶の産地でもある。ただし、何を買うにも、いい物を買いたければ、しっかり見極める目を養っておこう

安徽省の古民居群へ向かうには、この黄山市からバスやタクシーで向かうことになる。多くの村へは車で小一時間で行くことができる。だが、村の多くは「不対外開放」(外国人未開放地区)となっている。これらの村では、外国人の入村を制限しており、通行許可書などが必要だ。中には、外国人だけの入村を拒否する村も多い。

そのため、よほど中国語に堪能でない限り、黄山市にいくつかある旅行会社でガイドを手配したほうが無難だ。料金はさまざまだが、日本語ガイドと運転手付きの専用車で、1日1万円も出せば、お釣りが来る。この程度なら、安心料と考えたほうがいいだろう。

さて、黄山市でお願いしたガイドとともに、僕は安徽省の古民居群の中でも、わりと行きやすいといわれる「宏村」へと向かうことにした。