仕事は粗いけど、任せると結果を出す。口は悪いけど、自らの犠牲を厭わない。扱いは難しいけど、いないと困る。
そんな矛盾をはらむ戦力がいるとしたら、それは張飛タイプかもしれない。
張飛翼徳。その男、豪胆。短気。酒乱。現代なら一発アウトな言動も多い。それでも彼が歴史に名を残し、劉備に最後まで重用されたのには、はっきりとした理由がある。ひと言では表せない、誰よりも人間くさいその魅力を深堀りしよう。
張飛(ちょうひ)って? 三国志に登場する蜀(しょく)の猛将。短気で酒好き、豪快な言動から「脳筋キャラ」として語られがちだが、実は戦術眼にも優れた名将。劉備・関羽と義兄弟の契りを結び、数々の激戦で最前線に立った。扱いは難しいが、圧倒的な突破力で組織を動かす“熱血エースタイプ”です。
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怒鳴るだけの人間じゃない。“命を張る”からついてくる
張飛といえば、やはり長坂橋の一幕が有名だ。曹操軍に追われ、壊滅寸前の劉備軍。10万もの民衆を連れていたため足が遅く、完全に飲み込まれてしまう寸前だった。
そのとき殿(しんがり)を買って出た張飛は、わずか20騎で橋に立つ。そして敵軍に向け、いきなりボルテージをMAXに上げて怒号を飛ばす。
「ここを通ろうとするやつは、全員殺す」
エビデンスはないが、語彙や表現のバリエーションに富んだタイプとも思えないので、おそらくはこんな内容だったに違いない。
相手は大軍だ。普通なら確実に即終了。大した時間稼ぎにもならないだろう。だが、曹操軍は止まる。理由はシンプル。「あいつを抜くのは簡単じゃない」と全員が理解していたからだ。曹操本人すらも怯んだというのだから、張飛の武勇がいかに轟いていたのかがわかる。
結果、張飛はミッションを完璧にコンプリート。劉備と民衆は無事に逃げ切ることに成功した。もしここで張飛がいなければ、三国志そのものが終わっていたかもしれない。それほど紙一重の瀬戸際だったのだ。
張飛の強さは、腕力だけではない。「この人にならついていける」と思わせる説得力と、それに伴う安心感があった。仕事は粗く、口は悪い。扱いも難しい。が、“自分が一番危ない場所に立つ人間”に人はついていく。いつの時代も、それは変わらない。
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イラスト:井内愛
マネジメント能力に課題あり。だけど、“筋”は通っている
とはいえ、張飛が問題児であることは疑いようのない事実だ。酒に酔って暴れる。部下に厳しすぎる。キレると止まらない。実際、徐州では留守を任されたにもかかわらず、部下と対立し、そこを突かれて呂布に敗北している。
現代なら「マネジメント能力に難あり」と見做され、降格コース確定。だが一方で、彼には彼なりの正義もある。益州攻略の際、敵将・厳顔を捕らえたときの話が象徴的だ。
「さっさと斬れ」と降伏を拒む厳顔に対し、張飛は激怒する。普通ならそのまま処刑が妥当だろう。しかし、厳顔が「主君に忠義を尽くすのは当然」と言い切ると、張飛は一転して縄を解き、彼を厚遇する。
気まぐれではない。“筋の通った人間には敬意を払う”という、張飛なりの一貫した哲学があったのだ。
誰よりも人間くさい。だから張飛は嫌われきらない。粗暴で思慮にも欠けるし、多分、部下からは裏でめちゃくちゃ陰口を叩かれていたはずだが、常に筋だけは通っていた。故に、「あの人は、ちゃんと向き合えばわかってくれる」と思わせる人間力もあったのだろう。
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「張飛=脳筋」は半分間違い。実は“戦術家”というギャップ
「張飛=脳筋」というイメージは半分正解で、半分間違いだ。
漢中戦では、張郃の軍と対峙した際、あえて正面から戦わず、山道を使って側面を奇襲する。しかもただの奇襲ではなく、敵軍を前後に分断する形で叩く。結果、張郃軍は壊滅状態に陥り、命からがら撤退する。
張飛は、ただ「感情任せで突っ込む脳筋」ではない。考えるときは、ちゃんと考えている。ただし、その“考える力”より、“前に出る力”のほうが目立ちすぎるだけなのだ。プラマイで考えれば、張飛の生涯の功績はプラスだ。三国志でもトップクラスに頼れる存在である。
それでも組織で問題になる理由はひとつ。「感情のコントロールが効かないときが多々ある」。これに尽きる。
彼は部下に対して厳しく、ときに感情で罰を与えた。しかも、それをあまり気にしない。酒を飲めば忘れてしまうし、翌日は「おはよう! よく眠れた?」とか平気で言ってしまう、なんともリアクションに困る上司である。
その結果、最期は部下の張達と范彊に寝込みを襲われ、暗殺される。戦場では無敵だった男が、日々のマネジメントの致命的なミスで、文字通り命を落とす。これが張飛の弱点の帰結であり、避けがたき運命だったのだろう。
「熱血」は時代遅れなのか?
ここで改めて考えたいのは、「張飛のような人材は組織に不要なのか」という点だ。
結論は逆。張飛タイプは必要だ。
責任から逃げない。前線に立つ。結果を出す。こういう人間は、どの時代でも希少だ。
責任から逃げる。前線に立たない。結果を出さない。立ち回りが上手いだけで、どの時代にもこんな人間は山ほどいる。
張飛の問題は、「そのまま放置すれば、もろもろ壊れてしまう可能性がある」ことだろう。扱い方を間違えると、組織を乱す。だが、カチッとハマれば組織の突破力をグッと引き上げる。必要なのは、「矯正」ではなく「制御」なのだ。
もしあなたが張飛タイプなら、意識すべきはひとつ。「感情を消す」のではなく、「出し方を選ぶ」こと。怒りや熱さは武器だ。ただし、向ける先を間違えると味方を削ってしまう。
上司側に必要なのは“手綱”だ。張飛は放置し続けると、どうしても暴走してしまう。だが、信頼して任せつつ、要所でブレーキをかけ、軌道修正を図れれば、代えが効かない戦力になる。実際、張飛が機能していたのは、常に劉備という傑出した大器がいたからだ。
冷静で均質な人材で揃えれば、組織は安定する。だが、やがて訪れる停滞を突破するのは難しい。張飛は組織のノイズかもしれない。だけど、そのノイズが停滞をブチ壊す。
張飛を厄介者で終わらせるか、最前線のエンジンとして使い切るか。その分岐点は、本人の自制と、組織の受け止め方にある。世の中、だいたい三国志。張飛はある種、試金石。彼のポテンシャルと爆発力に疑いの余地はない。器が問われているのは、あなただ。

