今回も引き続き、リモートワークの作業環境を快適にするために、Wi-Fiの通信速度の改善にチャレンジしていきます。第9回で、Wi-Fiの通信速度は部屋の構造や家具の配置などに大きく影響すると説明しました。

特に通信速度が速い5GHz帯を利用したい場合、Wi-FiルータとPCの間には極力障害物がないほうが安定した通信を期待できます。しかし、広いフロアに机を並べているオフィスとは違って、一般の家庭で障害物の少ない電波環境を作るのは難しいでしょう。Wi-Fiルータを設置していない部屋が仕事部屋であるため、Wi-Fiの電波状態が悪いというのはよくあるシチュエーションです。もし一戸建てで、Wi-Fiルータが1階にあり、仕事部屋が2階や3階というような状況だとしたら、満足な通信速度を望むのは難しいと言えるでしょう。

そんな場合にお勧めしたいのが、Wi-Fi中継器やメッシュWi-Fiの導入です。新しい機材が必要にはなりますが、障害物の影響を受けずに快適な通信環境を手に入れることができます。

Wi-Fi中継器とは

Wi-Fiルータとの距離や障害物の影響で電波が弱くなってしまう場合の対策として、間にWi-Fi中継器を設置するという方法があります。

Wi-Fi中継器とは、Wi-FiルータとPC/スマホとの中間地点に設置し、Wi-Fiの電波を増強する役割を果たす装置です。電波が弱くなる前に中継機が受信し、それを再発信することで、これまで電波が届きにくかった場所でも安定した通信が行えるようになります。

  • Wi-Fi中継器のイメージ ー 電波を中継して通信できる距離を延ばす

    Wi-Fi中継器のイメージ。電波を中継して通信できる距離を延ばす

メッシュWi-Fiとは

家の隅々までWi-Fiの電波を届かせる方法としては、メッシュWi-Fiを構築するという選択肢もあります。メッシュWi-Fiは、メインのWi-Fiルータの他に「サテライトルータ」と呼ばれるルータを複数設置することで、電波の届かない死角をなくして広い範囲で安定した通信を実現する技術です。

メインルータとサテライトルータは、お互いに協調して動作することで電波の届く範囲を補完します。サテライトルータはメインルータと同じ働きをするため、メインルータから離れた場所でも、サテライトルータが近くにあれば電波が弱まることなく安定した通信が可能になります。

  • メッシュWi-Fiのイメージ ー 複数のルーターを連携させて電波の死角をなくす

    メッシュWi-Fiのイメージ。複数のルータを連携させて電波の死角をなくす

Wi-Fi中継器とメッシュWi-Fiの違い

Wi-Fi中継器とメッシュWi-Fiは何が違うのでしょうか。Wi-Fi中継器は、電波を中継することでWi-Fiが通じる距離を延ばしてくれますが、あくまでも中継するだけの役割であり、メインルータと同じ働きをしてくれるわけではありません。

PCやスマートフォンから接続する場合、中継器とメインルータでは接続先のSSIDが異なり、どちらにつなぐのかは自分で指定する必要があります。例えば、仕事部屋でWi-Fi中継器につないでいて、その後メインルータが設置されているリビングに移動した場合でも、自動で接続先をメインルータに切り替えてくれるわけではないということです。

対するメッシュWi-Fiは、メインルータとサテライトルータは同じSSIDが割り当てられており、端末側からはあたかも1台のルータのように見えます。電波や通信状態が良いルータを自動で検出して接続先を切り替えてくれるため、ユーザ側はどのルータにつながっているのかを意識しなくてもいいようになっています。

これは1台のルータに接続が集中しないように自動調整する効果もあるため、家電製品などを含めてたくさんの端末がWi-Fiを利用している場合でも安定した通信状態を維持することができます。

メッシュWi-Fiの選び方

メッシュWi-Fiを導入するには、対応するメインのWi-Fiルータと、サテライトルータが必要になります。それぞれ異なるメーカーの製品を使うこともできますが、同じメーカーの、それも同じシリーズの製品で統一した方が設定が簡単で問題が発生しにくいため、セットで購入することをお勧めします。

Amazonや楽天市場などのECサイトで「メッシュWi-Fi」で検索してみてください。メインルータ1台とサテライトルータ1~3台という構成で、さまざまな製品を見つけることができると思います。ここでは、家庭で導入するという観点で、メッシュWi-Fiを選ぶ際のポイントを紹介します。

間取りに合わせて台数を選ぶ

メッシュWi-Fiを選ぶ際にまず迷うのが、メインルータを含めて何台のルータを設置すればいいのかということです。台数が増えればそれだけ通信環境は良くなりますが、それだけ購入価格が上がってしまうという問題があります。したがって、ルータの台数は自宅の間取りに合わせて選ぶのがいいでしょう。

2階建や3階建の戸建て住宅の場合、最低でも1フロアに1台のルータを設置するのが理想的です。もし、配線の都合などでフロアの端の方に設置する必要がある場合は、そのフロアには追加でもう一台設置すると死角がなくなります。

マンションのように1フロアのみで部屋が複数に分かれているような環境では、一般的にはメイン1台+サテライト1台の2台構成で十分だと思います。ただし、壁の素材が鉄筋コンクリートのの場合には電波が極端に届きにくくなるため、部屋数や全体の面積によってサテライトルータを増やす必要があるかもしれません。サテライトルータのみを追加で購入することもできるので、まずは少ない数で始めて、必要に応じて増やしていくのがいいでしょう

Wi-Fiを使う機器が多い場合は最大同時接続数にも注意

家電製品なども含めてたくさんの機器がWi-Fiを利用している場合は、サテライトルータ1台あたりの最大同時接続数にも注目しましょう。家電製品や電灯をスマホアプリで操作できるようにスマートホーム化していると、多くの機器の通信が1台のルータに集中することになるので特に注意が必要です。

もし、1台のルータに極端に通信が集中してしまうような場合は、その部屋に同じ部屋にもう1台サテライトルータを追加するという手段もあります。前述のように、メッシュWi-Fiは通信環境が最適になるように自動で接続先を切り替えてくれるため、1台のルータに負荷が集中するのを防ぐことができます。

対応する通信規格と周波数帯域は?

第10回で紹介したように、Wi-Fiの通信速度と安定性は、対応する通信規格と周波数帯域にも強く依存しています。

まず通信規格ですが、メッシュWi-Fi用のルータの場合、そのほとんどがIEEE 802.11ac/n/a/g/bの各規格をサポートしています。それに加えて、最近ではIEEE 802.11axをサポートした製品も増えてきています。「WiFi -6対応」と記載されているものが、11axをサポートしたルータになります。最大通信速度は11acが6.9Gbpsなのに対して11axは9.6Gbpsと約1.4倍高速になっています。

周波数帯域も、2.4GHz帯と5GHz帯の両方をサポートしている製品がほとんどなので一般的な用途であればあまり気にする必要はありません。2.4GHz帯と5GHz帯の2種類の電波を同時に使える製品は「デュアルバンド対応」とうたわれています。

それに対して、より高性能な製品では「トライバンド対応」と書かれているものがあります。トライバンド対応ルータとは、2.4GHz帯と5GHz帯の2つに加えて、さらに、もうひとつ5GHz帯の電波を同時に使えるタイプのルータを指します。5GHz帯が2系統になることで、同時に接続される端末の台数が増えても安定した通信が確保できるという強みがあります。

家庭で使う場合、一般的にはデュアルバンドの11ac対応ルータで十分だとは思いますが、接続する端末が多い場合や、より高速な通信を確保したい場合には、高性能なタイプの製品を選ぶのがいいでしょう。

有線LANコネクタが必要か

有線LANはWi-Fiよりも高速な通信を確保しやすいという強みがあります。特にオンラインゲームでインターネットを利用するようなケースでは、通信量が膨大になりがちなため、有線LANコネクタが付いたWi-Fiルータを選ぶのがいいかもしれません。自分が使う以外に、家族がゲームをしている間に安定した無線の電波状態を維持するという意味でも、ゲーム機やゲーム用PCを有線LANでつなぐのは有効です。

簡単にセットアップできるか

メッシュWi-Fiが便利と聞いても、設定が難しいのではないかと思って躊躇している人もいるかもしれません。しかし実際には、各メーカーが簡単にメッシュWi-Fiをセットアップするためのさまざまな方法を提供しているため、導入の敷居はそれほど高くありません。

特に家庭向けをうたっている製品では、設定のための専用スマホアプリなどが用意されているものも多く、専門知識がなくてもわずか1時間足らずで設置が完了できます。ルータの性能だけにとらわれずに、いかに簡単に設置できるかもチェックしておくといいでしょう。

メッシュWi-Fiで電波の死角をなくそう

筆者の場合、自宅は2LDKのマンションなので面積的には1台のWi-Fiルータで十分なのですが、間取りの関係で仕事に使っている部屋では通信速度が極端に落ちるという問題がありました。そこでメッシュWi-Fiを導入して仕事部屋の近くにサテライトルータを設定したところ、メインルータの近くにいるのと遜色ない通信速度を得られるようになりました。

メッシュWi-Fiの導入は、普通のWi-Fiルータに比べると高価な機器が必要になるので、少しハードルが高いかもしれません。しかし、もし部屋の間取りや家具の配置などが原因で仕事場所でのWi-Fiの電波状況に問題が発生している場合は、十分に投資する価値はあると思います。