大容量のデータ通信が必要のなりがちなリモートワークでは、インターネットを使う際に十分な通信速度が確保できないと、それだけで大幅に作業効率が落ちることになります。そこで今回は、自宅のWi-Fiの通信速度を改善する方法について紹介します。
まずは、いま持っているWi-Fiルータを使って、お金をかけずに通信速度の改善にチャレンジしてみましょう。Wi-Fiの通信速度に強く影響を与える要素としては、設置場所と使用する周波数帯の2つが挙げられます。
これらのうち、設置場所は前回の記事で解説しているので、そちらを参照してください。今回はもうひとつの要素である周波数帯を取り上げます。
Wi-Fiの周波数帯と特徴を知っておこう
周波数帯とは、無線通信を行う際に使用する電波の周波数の範囲を示したものです。無線通信では、どの周波数でも自由に使ってよいというわけではなくて、通信機器の種類によって使える周波数の範囲が決まっています。現在Wi-Fi(無線LAN)で使用できるように割り当てられている周波数帯は2.4GHz帯、5GHz帯、そして60GHz帯の3つで、そのうち一般的な家庭用のWi-Fiルータで使用できるのは2.4GHz帯と5GHz帯の2つになります。
一般的に、周波数が大きいほうが最大の通信速度は高速になりますが、その一方で障害物の影響を受けやすいという弱点もあります。Wi-Fiの場合、2.4GHz帯と5GHz帯ではそれぞれ次のような特徴を持っています。
2.4GHz帯の特徴
2.4GHz帯の電波は、Wi-Fiだけでなく電子レンジやIHクッキングヒーター、Bluetooth機器、コードレス電話など、さまざまな機器で利用されています。広く普及している分だけWi-Fiルータにも対応機器が多く、比較的安価に購入できるというメリットがあります。また、壁や家具などといった障害物の影響を受けにくく、Wi-Fiルータと違う部屋でも安定して通信できるため、家庭内での利用に向いている周波数帯とも言えます。
その一方で、前述のように電子レンジなどをはじめとする家電製品も同じ周波数の電波やノイズを発生させているため、電波が干渉しやすいという特徴もあります。干渉が起こると、お互いの電波を打ち消しあってしまい、通信速度が落ちたり通信が不安定になったりすることがあるため、近い場所に置かないなどの注意が必要です。
5GHz帯の特徴
5GHz帯の電波は、2.4GHz帯に比べると通信速度が高速で、PCやスマートフォンのような大量のデータ通信を行う機器に向いています。また、2.4GHz帯と違って同じ周波数帯を利用する機器が少ないので、電波の干渉を受けにくいというメリットもあります。
デメリットとしては、2.4GHz帯とは逆に壁や家具などの障害物の影響を受けやすく、隣の部屋や家具の陰になるような場所では極端に通信速度が落ちる可能性があることが挙げられます。これは、周波数が高いほど壁などの裏側に回り込んでいく「回折」が起こりにくいという波の性質によるものです。したがって5GHz帯は、電波を妨げる障害物が少ない開けた空間のほうが使用に適していると言えます。
対応する機器が2.4GHz帯に比べて少なく、値段が高価になりやすいことも5GHz帯のデメリットです。ただし、最近では5GHz帯に対応するWi-Fiルータも十分に普及しており、値段も下がってきているので、これからWi-Fiルータを買うのであれば、5GHz帯にも対応したものを選んだほうがよいでしょう。
どちらの周波数帯を使えばいいか?
以上の話をまとめると、2.4GHz帯と5GHz帯の両方の周波数帯が利用できるのであれば、基本的には5GHz帯を使ったほうが高速な通信が見込めるということになります。特に仕事をする場所とWi-Fiルータとの間に障害物がない環境であれば、5GHz帯のほうがより安定した通信を期待できるでしょう。
一方で、壁や扉などの障害物があって電波が届きにくいような環境では、2.4GHz帯が適している場合があります。そして2.4GHz帯を使用する場合は、電波の干渉を避けるため、Wi-Fiルータを他の家電製品から離れた場所に設置するようにしましょう。
自分のWi-Fiルータで使える周波数帯は?
自分の持っているWi-Fiルータでどの周波数帯が使えるかを知りたい場合は、Wi-Fiルータの説明書などに記載されている対応通信規格を調べましょう。Wi-Fiの通信規格はWi-Fi Allianceという団体が定めています。本稿執筆時点では次の表のような規格があり、それぞれで対応する周波数帯や最大通信速度などが決まっています。
規格 | 周波数帯 | 公称最大速度 |
---|---|---|
IEEE 802.11b | 2.4GHz | 11Mbps / 22Mbps |
IEEE 802.11a | 5GHz | 54Mbps |
IEEE 802.11g | 2.4GHz | 54Mbps |
IEEE 802.11n | 2.4GHz / 5GHz | 65Mbps ~ 600Mbps |
IEEE 802.11ac | 5GHz | 290Mbps ~ 6.9Gbps |
IEEE 802.11ad | 60GHz | 6.7Gbps |
IEEE 802.11ax | 2.4GHz / 5GHz | 9.6Gbps |
上記のうち、現在はIEEE 802.11nやIEEE 802.11acが広く普及しています。この2つの規格に対応したWi-Fiルータであれば2.4GHzと5GHzの両方の周波数帯が両方使えるため、自宅の環境に合わせて適切なほうを選択することができます。特に11nは1つの規格で両方の周波数帯をサポートしており、自動的に周波数帯を切り替えて接続できるという特徴があります。
IEEE 802.11axは2019年に認証が始まったばかりの新しい規格で、理論上の最大通信速度は他の規格に比べて最速ですが、対応している機器はあまり多くありません。Wi-Fiルータが対応していても、接続するPCやスマートフォンが対応していなければ接続できないので、注意が必要です。
2.4GHz帯と5GHz帯の両方をサポートしている家庭用のWi-Fiルータでは、周波数帯ごとに異なるSSIDが割り当てられており、接続するクライアント側でどちらを使用するかを選択できるようになっていることが多いです。
その場合、両方の周波数帯を使ってみて、速度が速く通信が安定しているほうを選ぶとよいでしょう。PCやスマートフォンでは接続するSSIDの優先度を設定できるので、常用するほうを高い優先度に設定しておきましょう。
Wi-Fiルータによっては、クライアント側では使用する周波数帯を選択できず、ルータ側で自動設定されるタイプのものもあります。その場合は、原則として通信が安定しているほうが選ばれるはずなので、基本的にはルータ側に任せておけば問題ないでしょう。