北海道新聞8月20日付「長万部町、在来線『旅客廃止』を議論 広報誌で町民合意促進 利用少なく負担多額」によると、長万部町は北海道新幹線の並行在来線について、「旅客営業廃止の方向」で町民との合意形成に動き始めたという。

  • 北海道新幹線札幌延伸区間の並行在来線(地理院地図を加工)

北海道新幹線の札幌延伸にともない、並行在来線としてJR北海道から分離される区間は函館本線の函館~小樽間で、沿線自治体と合意している。その処遇について、長万部駅を境に南の渡島(おしま)ブロックと北の後志(しりべし)ブロックで分けて議論されている。

2区間に分けて議論する理由のひとつに貨物列車の有無が挙げられる。渡島ブロックは本州と北海道を結ぶ貨物列車が走るため、鉄道そのものの廃止は考えにくい。しかし、後志ブロックの長万部~小樽間は貨物列車の運行がなく、旅客列車をバス転換すれば鉄道線路そのものが廃止になる。長万部町は2つのブロックの要となっており、その意向はどちらの区間にも影響を与える。ちなみに、函館本線の長万部町内の駅は、渡島ブロックに国縫駅と中ノ沢駅、後志ブロックに二股駅があり、長万部駅を含めて計4駅となる。

■並行在来線に対する長万部町の考え方、広報誌を見ると…

長万部町の広報誌はネット上に公開されている。月1回ペースの発行で、ほぼ毎号に「北海道新幹線情報」が1ページある。2019~2020年度は、町内に造られる5つのトンネルの進捗と残土受入地の紹介が多かった。2020年11月号では、「北海道新幹線のおさらい」として、2030年度の開業予定と、長万部町の明かり区間が約22kmにわたり、延伸区間で景色の見える部分の半分が長万部町であることを紹介している。

並行在来線の話題は2020年4月号で紹介していた。基礎的な話として、北海道新幹線の札幌延伸に合わせ、函館本線(函館~小樽間)がJR北海道の経営から分離され、第三セクターやバス転換などさまざまな方法を検討しているとした上で、町民が困ることのないように「代わりとなる手段を慎重に考えてまいります」とまとめている。必ずしも鉄道にこだわっていないようにも見える。

今年5月以降、並行在来線に対する長万部町の考え方も紹介している。2021年5月号では、「鉄道貨物の現状とこれから」と題し、長万部を通過する貨物列車は1日約48本、輸送量は1列車あたり最大650トンと説明。これを海上輸送に置き換えた場合の利点と欠点を挙げ、「並行在来線を使用した貨物運搬は必要不可欠」との考えを示した。つまり、渡島ブロック側の鉄道存続には肯定的ということだろう。

2021年6月号では、「鉄道旅客のこれから」と題し、2つのブロックで新幹線の札幌延伸後30年間の「鉄道のみ」「鉄道+バス」の費用を比較している。函館~長万部間を鉄道で残すと944.2億円。函館~新函館北斗間を鉄道で残し、新函館北斗~長万部間をバス転換すると565.4億円。長万部~小樽間を鉄道で残すと926.9億円。長万部~余市間をバス転換し、余市~小樽間を鉄道で残すと311.7億円。この数字をもとに、長万部町のみの負担を試算すると、鉄道存続の場合は渡島ブロック側で年間約4.4億円、後志フロック側で約3.4億円。バス転換すると、それぞれ3,800万円、2,100万円になる。

ただし、この試算は単純に通過自治体数で割っているため、距離で案分すると異なる数字になるだろう。また、バス転換の場合は国や道からの補助制度が適用されるという。バス転換のほうが自治体の負担は少ない。

■バスが便利なれば、鉄道にはこだわらない?

2021年7月号では、町内の長万部駅を除く3駅で利用者に聞き取り調査を実施している。平日5日間の利用者数は、国縫駅が20名、中ノ沢駅が3名、二股駅が9名。用途は通勤と通院が多かった。このうち「鉄道がないと著しく困る」が8名、「既存バスの代替は不可能」が23名。ただし、これらの回答の真意は「いまのバスが不便だから」だった。つまり、バスが便利になれば、鉄道にはこだわらない、ということでもある。

この結果を受けて、長万部町は「並行在来線の旅客は廃止する方向で検討すべき」との考えに至った。あわせて町民から意見を募集し、その一部を8月号に掲載している。「鉄道を残すのは難しくても、国鉄の歴史は残してほしい」との意見には「検討する」、「他の自治体と足踏みを揃えて」には「北海道新幹線並行在来線対策協議会にて検討」と回答した。これは当然のことで、そのために町の意見をまとめたわけだ。

「新幹線では物流を支えられない」との意見に対しては、「国や道で議論が必要」と回答している。これも長万部町としては当然で、町内を通過するだけの貨物列車のために、町の予算で鉄道を維持する道理はない。この「通過需要を支える主体」については、貨物列車を通過させる第三セクター鉄道で共通の課題になっているはず。たとえば、青い森鉄道の場合、自社の需要だけで複線電化区間を維持すればオーバースペックだが、「単線で十分だから線路を1本返したい」は簡単にできない。その結果、貨物列車の線路使用料を上げることで決着した経緯がある。

  • 函館本線長万部~小樽間の普通列車。現在はH100形で運転されている

北海道新幹線並行在来線対策協議会でJR北海道が示した資料によると、長万部~小樽間の普通列車については、小樽寄りの利用者が多く、長万部駅へ向かうに従って減っている。函館~長万部間についても、函館寄りの利用者が多く、長万部駅へ向かうに従って減っている。つまり、長万部町内の区間は小樽側・函館側のどちらから見ても「末端区間」の様相となっている。長万部町の旅客列車に対する需要は小さい。

■どこまで線路が残るか、旅客列車はどこまで残せるか

他の自治体の動向を見ると、倶知安町が在来線の廃止を視野に入れている。当連載第184回(2019年8月掲載)で、倶知安町のまちづくりに在来線が障害になるとの懸念を紹介した。倶知安町は在来線の踏切を解消すべく、線路をまたぐために道路を高架化した。北海道新幹線が地上に敷かれることも見据えた仕様だった。しかし、新幹線の線路が地上に横たわると町が分断されるとして、新幹線は高架化されることになり、こんどは道路の高架が支障するため、在来線の踏切に戻すか、アンダーパスを造るかという話になっている。

2021年に倶知安町が立ち上げた「北海道新幹線倶知安駅周辺整備推進委員会」では、在来線の廃止案と存続案を検討している。掲載順は在来線廃止案が先で、在来線存続案では支障になる点が列挙された。北海道新幹線並行在来線対策協議会の記事録を読むと、新幹線駅ができる自治体と、在来線のみの自治体で温度差がある。現状では維持費の試算が出たところで、代替案とのコスト差などを検討する段階になっているようだ。また、貨物列車が走った場合のコスト負担については、今後、資料が提供されるようだ。

筆者の予想としては、貨物列車がある限り、函館~長万部間の線路は残るのではないかと思う。線路さえ残れば、イベント列車や観光列車が走る可能性は残る。長万部~小樽間については、余市~小樽間の存続の可能性は高いとして、長万部~余市間はどうするか。室蘭本線に支障があった場合の迂回ルートとしての機能も忘れてはならない。過去には有珠山噴火などによる迂回例があった。

ただし、小樽にも鉄道貨物の需要はあるものの、JR貨物は小樽にオフレールステーション(トラックターミナル)を置き、札幌方面のみトラック便を出している。長万部~余市間が貨物列車の迂回専用になるとして、維持コストをJR貨物が負担できるだろうか。国の物流政策として、国によるなんらかの支援が必要だろう。

どこまで線路が残るか。旅客列車はどこまで残せるか。北海道新幹線の並行在来線問題において、長万部町の意向が大きな節目となるに違いない。

鉄道ファンの望みとしては、長万部町民の「北海道にとって鉄道も観光資源」という意見が心強い。渡島ブロックは海の景色、後志ブロックは山の景色が素晴らしく、JR北海道は観光シーズンに特急「ニセコ」を走らせている。観光列車の可能性は大いにある。あとは年間の維持費を賄えるだけの収益があるか、赤字であっても地域の経済に貢献できるか、という判断になるだろう。

そもそも並行在来線の負担を沿線自治体に求めるという枠組みが問題だと感じる。新幹線の恩恵を受ける代償という意味があったと思うが、新幹線と在来線では担う役割が違う。西九州新幹線でも、並行在来線の列車運行をJR九州が継続する枠組みになった。そろそろ整備新幹線建設の枠組みそのものを考え直してほしいと思う。