福島民友新聞電子版は8月4日、「会津若松 - 喜多方間『非電力化』 磐越西線でJR東日本が計画」と報じた。河北新報も8月14日、「JR磐越西線の16・6キロ非電化計画浮上 直通消滅の恐れ、喜多方市見直し要望へ」と報じている。どちらも喜多方市議会で8月3日に開催された「全員協議会」を情報源としている。「全員協議会」は議会の円滑な運営のために開催されるという。

  • 電気式気動車GV-E400系で運転される会津若松行の快速「あがの」。磐越西線会津若松~喜多方間は現在、大半の列車が気動車による運転となっている

喜多方市企画調整課の報告「磐越西線会津若松駅・喜多方間の非電化に対する市の対応について」によると、JR東日本は7月までに、喜多方市に対し、「喜多方~会津若松間の非電化計画」を説明したという。早ければ2022年3月ダイヤ改正で電車の運転を終了し、架線や架線柱を順次撤去する。

福島民友新聞によると、喜多方市は「非電力化によって郡山~喜多方間の直通列車が廃止され、会津若松駅で電車から気動車への乗り換えが増えて利便性が低下する」として、JR東日本に計画見直しを要望する方針だという。河北新報では、「喜多方市は関係団体と連携して、JR、国土交通省に見直しを要望する」と、少し大きな動きを伝えている。

市販の時刻表を確認すると、磐越西線はたしかに会津若松駅を境に運転系統が分かれており、東側の郡山方面は電車、西側の新津方面はほとんど気動車で運行されている。会津若松~喜多方間の電車は上下計4本しかなく、例外的な扱いに見える。

  • 磐越西線郡山~喜多方間の列車ダイヤ。会津若松~喜多方間の電車を赤線で示した。黒線は普通列車と列車名のない快速列車。青線は列車名のある快速列車(列車ダイヤ描画ソフト「OuDia」で筆者作成)

ダイヤを追ってみると、会津若松~喜多方間では喜多方駅6時10分発・郡山駅7時30分着の上り普通列車、会津若松駅17時23分発・喜多方駅17時38分着の下り普通列車、その折返しとなる喜多方駅17時45分発・郡山駅19時31分着の上り普通列車、郡山発21時55分発・喜多方駅23時21分着の下り普通列車が電車による運転となっている。夜間に運転される下り普通列車が喜多方駅で留置され、翌朝に郡山行として運転される。ちなみに、喜多方駅の夜間留置もこの列車のみ。冬期は寒冷地対策で会津若松駅まで回送しているとのこと。直通列車を廃止すれば、この夜間留置も解消できる。経費削減効果は高そうだ。

■郡山~喜多方間の直通列車がなくなるとは限らない

喜多方駅発着の電車は1日4本、しかも郡山駅への直通列車は3本だけ。しかし、喜多方市にとっては重要な列車なのだろう。2017(平成29)年に発表した「喜多方市地域公共交通網形成計画」によると、喜多方市民の多くは市内の移動にとどまり、自家用車・バス・予約型乗合タクシーを利用する一方、鉄道利用者のほとんどが通学・通勤者だという。つまり朝の喜多方駅始発、夕夜間の喜多方行は通学・通勤者向けの列車だ。乗換えなしで、着席できれば眠って行ける。存続してほしい気持ちはよくわかる。

ただし、「電化区間が非電化になる」と「直通列車がなくなる」を同列では語れない。電車が非電化区間を走ることはできないが、気動車が電化区間を走ることは可能。気動車であれば直通列車を運行できる。東日本大震災の復興支援のため、磐越西線を迂回して石油輸送列車が走った際も、ディーゼル機関車DD51形の重連だった。JR東日本では、ハイブリッド気動車(キハE200形、HB-E210系など)や蓄電池電車(EV-E301系、EV-E801系)、電気式気動車(GV-E400系)が実用化されており、直通列車に使える車両の選択肢は多い。

喜多方市は「観光列車の乗り入れもできない」と心配する。これは「フルーティア ふくしま」を指していると思われる。「フルーティア ふくしま」は福島産のフルーツを使ったケーキなどのメニューを楽しむ列車で、車両は近郊形電車719系を改造している。ただし、719系は製造から約30年が経過しており、いずれ新たな車両に交換するか、列車ごとなくなる運命だろう。ハイブリッド型の観光車両でリニューアルする可能性もある。さらに、磐越西線は観光列車だけでなく、「TRAIN SUITE 四季島」も走っている。

筆者の見立てでは、直通列車の廃止については喜多方市の考えすぎのような気がする。河北新報の記事では、JR東日本が直通廃止も含めて喜多方市に説明したようにも読み取れるが、JR東日本仙台支社のコメントとして「協議中なので答えられない」と締めくくっている。福島民友新聞は、JR担当者の「直通列車が廃止されるとは限らない」というコメントを報じている。とはいえ、危機感を持って対応を求めていく姿勢は必要。なにもしなければ、「直通列車も観光列車も要らないんだな」と思われてしまう。

■水素燃料電池車両投入の可能性も?

電化区間を非電化とし、架線や架線柱、受電変電設備を撤去すると聞けば、JR東日本のコスト削減と思うだろう。COVID-19による乗客減で、JR東日本も大変な状況だ。JR東日本は2021年3月期の決算説明会資料で、「電車をハイブリッド車両等に置き換え、電化設備を撤去」そして「複線区間の単線化による信号設備の簡素化」を記載している。列車の運行本数が少ない路線では、過剰な設備を見直して維持費を削減したい。

しかし、磐越西線が選ばれた理由は後ろ向きな理由だけではないと筆者は考える。理由として、福島県が水素エネルギーに関して先進的な取組みを実施していること、JR東日本がCO2削減目標を掲げ、新しいエネルギーを推進していることが挙げられる。

昨年5月、JR東日本は2050年度のCO2排出量「ゼロ」をめざす「ゼロカーボン・チャレンジ 2050」を発表した。取組みは着々と進行しており、2021年6月8日の報道資料では、「6月1日に自営発電所の川崎火力発電所1号機の燃料を灯油から天然ガスに切り替えた」と報告している。この天然ガスはカーボンフリーLNGとして、発生するCO2と同量のCO2を吸収するための植林費用を購入費に上乗せしている。2号機、3号機では水素燃料なども検討中だという。

福島県浪江町では、昨年2月に世界最大級の水素製造施設「福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R : Fukushima Hydrogen Energy Research Field)」が稼働した。再生可能エネルギーから水素を製造し、その水素を使った燃料電池で発電する。自然エネルギーは供給が不安定だから、いったん水素に変換して貯めておくという考え方だ。トヨタ自動車は水素エンジンを搭載したレーシングカーを開発し、FH2Rで製造した水素を使って「富士 SUPER TEC 24時間レース」を完走させた。

福島県とトヨタ自動車は6月4日、「水素を活用した新たな未来のまちづくり」の実現に向けた検討を開始した。コンビニ各社などと連携し、県内の配送車両に燃料電池車を導入する社会実験の取組みを始める。JR東日本はいまのところ参画していないが、トヨタ自動車とは鶴見線・南武線支線に燃料電池車両の試験車両FV-E991系を走らせる社会実験で提携関係にある。

また、JR東日本は独自に福島県と連携し、福島県内各駅に定置式燃料電池を設置していく。駅で使うエネルギーのうち、照明と空調を燃料電池でまかなう。このことから、いずれJR東日本も「水素を活用した新たな未来のまちづくり」に関わっていくのではないか。

現在、JR東日本の電化路線のほとんどは火力発電を利用している。ローカル線の電化区間をハイブリッド車両や燃料電池車両に置き換えると、コストとCO2の両方を削減できる。磐越西線会津若松~喜多方間はその第1歩になるかもしれない。鶴見線・南武線支線に続いて燃料電池車両が投入される可能性もある。

電化区間の解消は後退ではない。鉄道とエネルギーの進化だ。