アートディンクは3月12日、鉄道会社経営シミュレーションゲーム『A列車で行こう はじまる観光計画』を発売する。シリーズ初の「Nintendo switch」版だ。2020年10月28日の制作発表から、ゲーム内容が公式Twitter・YouTubeで次々に公開され、『A列車で行こう』シリーズのファンを中心に盛り上がっている。その後も2021年1月7日の発売日決定、1月29日のオープニングムービー公開と、話題は続いている。しかし、もともと奥の深い作品シリーズだけに、今作も実際に遊び始めるまで全容をとらえきれない。
『A列車で行こう』シリーズは1985年の初期作品こそパズル風だったが、1990年発売の第3作以降は「鉄道と都市開発」がテーマとなった。線路を敷き、列車が駅に到着するたびに周辺が発展する。その結果として乗客が増えて鉄道が儲かり、また新たな路線、駅、街を作っていく。この好循環を維持して地域を大都市に発展させる。
しかし、なんらかの原因で悪循環に陥ると、街は寂れていく。列車の種類が増えたり、バスやトラックが登場したり、建物(子会社)の種類が増えてグラフィックが向上しても、ゲームの基本は変わらない。阪急電鉄を発展させた小林一三イズム、渋沢栄一の多摩田園都市構想を東急電鉄で実現した五島慶太たちが描いた夢を再現する経営ゲームでもある。
こんな風に紹介すると、「ビジネスゲーム」「仕事ゲーム」と思われそうだ。たしかに「ナンバーシリーズ」と呼ばれる「A列車で行こう+数字」の系統はそんな側面がある。現在の最新作は『A列車で行こう9』(Windows版)で、精緻な列車ダイヤ設定と実物に近い姿の車両が登場する。
一方で、2009年に発売された『A列車で行こうDS』のように、リアリティよりもゲーム性を高めた系統もある。マップに明確なゴールが設定され、社員キャラクターを登場させて親しみやすくするとともに、アドベンチャーゲーム風の物語性もある。『A列車で行こう はじまる観光計画』はこちらの系統だ。チュートリアル機能もあってわかりやすい。
本作ではイラストレーターの日向悠二氏が登場人物を手がけ、ビジネスの世界を楽しく演出している。日向氏はファンタジー小説の挿絵や、ゲーム『世界樹の迷宮』シリーズで人気がある。グラフィックも「立体的2D」から「フル3D」になった。建物を配置するときは真上からの地図視点、スティックを倒すとそのまま3Dグラフィックの街になる。ズームイン・アウトも自由自在で、臨場感が増している。
■子会社のひとつから「観光ルート開発」へ大進化
『A列車で行こう はじまる観光計画』で特筆すべきは、「観光開発」という新たな要素だ。鉄道は産業と住宅、生活の地域を結ぶだけではない。小田急電鉄の箱根、東武鉄道の日光・鬼怒川など、観光という新たな需要も創出してきた。寺社参拝のレジャー輸送を当て込んで成立した鉄道もある。京成電鉄(成田山)、京急電鉄(川崎大師)、南海電鉄(高野山)、近畿日本鉄道(伊勢神宮)は、前身の鉄道会社が参詣目的で建設している。
この「鉄道と観光」というリアルな要素が、ついに『A列車で行こう』シリーズに加わった。ただし、いままでも『A列車で行こう』シリーズには、子会社として温泉旅館、遊園地、神社仏閣などの建物があって、ユーザーが観光路線に見立てた路線を建設できた。それと今回の観光計画はどう違うのだろう。アートディンクに聞いた。
「古く日本の鉄道には観光客輸送のために開業されたものが多く存在し、都市の開発だけではなく、観光地をもとにした街づくりも楽しめるものとして考えました。また企画時点では、訪日外国旅行者が右肩上がりの状況だったりしたのも影響しています。交通網を効率よく整備した『観光ルート』を敷いていかに捌いていくかを楽しんでください。せっかく訪れてくれた観光客の方たちが、不満のないよう輸送してあげましょう」(アートディンク)
古くは観光目的で建設された路線があった。観光目的の路線ではなくても、現在のローカル線とその沿線の自治体は観光客を誘致して地域を活性化させようとする動きがある。『A列車で行こう はじまる観光計画』の前身というべき『A列車で行こう3D』(ニンテンドー3DS版)と『みんなのA列車で行こうPC』(Windows版)は、自治体から第三セクター鉄道を託されるという設定だった。ここに観光開発の要素が加わる。
■隣町との連携要素も重要に
観光要素を盛り上げるため、隣町との連携がいっそう重要になったそうだ。観光客はどこから来るかといえば、隣町に接続した線路から列車でやって来る。前作では列車を隣町(マップの外)に送り出せば、客を乗せて戻ってきた。隣町の規模と時間帯によって乗客数が変わったが、その降車客が町の発展を助けていた。本作では乗客数の増減がマップ内の観光施策によって変わる。
「過去のA列車とは違い、今作では観光客が隣町から大挙押して寄せて来るでしょう。観光地への観光客輸送の流れが可視化できますので、効率化が進めやすくなっています。また子会社の拡張によって、集客力が変わって来ますので、周辺に何を建設したら相性がよいか考えるのも楽しいと思います」(アートディンク)
乗客だけでなく、貨物輸送も変わった。前作は需要があれば売れ、需要がなければ売れなかった。今回、資源の売買は「ミッション制」となっている。隣町や海外と「売買契約」を結び、その条件に従って資源を売買する。資源は建設資材・農産・水産・木材・石油・石炭。それぞれ専用の貨車が用意される。前作では貨車の色の濃淡で積荷の有無を再現していたが、今回はマークで確認できるようだ。
■観光列車も作れる? 車両カスタマイズ機能
鉄道ファンにとってうれしい機能は「車両カスタマイズ」だろう。旅客車両として通勤型、近郊型、特急型があり、機関車も電気機関車、ディーゼル機関車、蒸気機関車などがある。これらの車両は色だけでなく、窓、ドア、スカート(排障器)、パンタグラフ、空調装置などのパーツも選択できる。運転台の窓やライトの位置も変えられる。ステッカー機能で車体にロゴやイラストを描ける。
「車種やパーツなど豊富なバリエーションに、自由な配置、カラーリングを施せば、みなさんが思い描くあの車両!? が作れるかも知れません」(アートディンク)
意味深な言葉だが、雛形とカラー、パーツによっては実物に似た車両も作れそうだ。ネット上では、「車両カスタマイズだけでずっと遊べそう」という声もあった。
「観光計画」というゲームのテーマに沿うなら、展望室付き車両やハイデッカー、2階建ての観光特急は欲しいところ。また、普通列車用の車体に特別な塗装を施すことで、「中古車両の観光列車改造車」の再現もできそうだ。「車両カスタマイズ」機能もまた、観光計画にとって切り離せない機能である。列車ダイヤは1分刻みで作れるようで、こちらはダイヤ派を喜ばせている。
バスもカスタマイズ可能。JR九州の「ななつ星 in 九州」、JR西日本の「TWILIGHT EXPRESS 瑞風」のツアーのように、列車と同じカラーで接続バスを設定できるだろう。前作までのバスは道路の旅客交通手段にすぎなかったが、本作では「観光ルート」の設定で重要な役割を担う。バスのルート設定は道路タイルでルートを指定する方式となり、前作の交差点進路設定を続けるよりも簡略化された。
まだ詳細を公開されていない新要素として、「フェリー」がある。離島の観光開発に使えるそうだ。前作まではサブキャラクターだった乗り物や建物が、本作では「観光計画」のもとで主役になるかもしれない。
発売まであと1カ月と少し。今後の情報発信にも期待しつつ、楽しみに待ちたい。