引退した鉄道車両の保存活動が各地で展開される中、ひたちなか海浜鉄道を応援するボランティア団体が「鐡道神社」の取組みを開始。クラウドファンディングサイト「READYFOR」で資金獲得に成功した。廃車して劣化が進むディーゼルカーを補修、再塗装する。廃レールで鳥居も作り、2021年7月以降に公開予定だ。
御神体となる鉄道車両は、ひたちなか海浜鉄道で2015年まで稼働していた「キハ222」。北海道の羽幌炭礦鉄道が1962(昭和37)年に新車で購入した車両で、富士重工(現・SUBARU)が製造した。国鉄形気動車キハ22形とほぼ同じ仕様で、羽幌炭礦鉄道の廃止後、ひたちなか海浜鉄道の前身である茨城交通に譲渡され、2015(平成27)年まで活躍した。引退後も解体されず、現在は阿字ヶ浦駅に留置されている。
鉄道ファンにとって、国鉄形気動車の面影を残すキハ222の動向に関心が寄せられた。キハ222は解体を逃れたとはいえ、潮風による錆や、風雨による塗装の劣化が酷く、このまま朽ちていくかもしれないと心配されていた。そこで、車体修復・保存のため、鉄道ファン有志が立ち上がった。それがクラウドファンディング「名車キハ222の塗装と鐡道神社化プロジェクトで延伸応援したい」だ。
発起人はボランティア団体「三鉄ものがたり実行委員会」の佐藤久彰氏。三鉄ものがたりの三鉄とは、「ひたちなか海浜“鉄”道に乗って」「“鉄”道模型を楽しめるサロンで鉄道談義や交遊を楽しみ」「那珂湊焼きそばの“鉄”板で懇親会、共食信仰で仲良くなる」という趣旨で活動しているという。これまでに商店街の空き店舗で鉄道模型運転会、鉄道界の著名人を招いたお茶会などのイベントを実施し、ひたちなか海浜鉄道と地域を応援してきた。
キハ222の修復には多額の費用がかかり、ボランティア団体には資金がない。そこでクラウドファンディングで寄付を募った。ここまでは車両保存系のクラウドファンディングによくある話だ。しかし、「産業遺産ともいうべき車輛を再塗装、展示だけでいいものか?」という問いかけから、活用法、街と鉄道の活性化に寄与する方法を議論した。
そして到達したアイデアが、「保存車両を御神体とした神社を作り、観光資源にしよう」だった。一時的に資金を得ても、保存した車両を維持する費用がかかる。そこで、イベントの催行で地域ごと活性化し、お土産の開発販売などで維持費用をまかなう。
■鉄道車両は御神体になるか?
神社、御神体には「由緒」が必要だ。キハ222とひたちなか海浜鉄道には、由緒にふさわしい要素がいくつかある。
- 鉄道車両として53年間もの長期で活躍した「長寿縁起」
- ひたちなか海浜鉄道の運行区間の駅「勝田(勝利)」「金上(金運)」「殿山(出世)」
- 赤字路線、廃止危機、震災からの「復活」「勇気の源泉」
- どん底の経営状態から復活、延伸に結びついた「経営の神様」
- 鉄道車両全般に言える連結が「縁を結ぶ」につながる
- 延伸が実現すると阿字ヶ浦駅は「終着駅」から「始発駅」になり「未来への希望」の象徴となる
「三鉄ものがたり実行委員会」のメンバーには神職がいるため、神事も可能とのこと。
こうして、全国初の「車両を御神体とした神社」設立に向けてクラウドファンディングが始まった。11月5日に開始し、12月14日までに380万円の目標額をクリアしてファンド成立。さらに45万円を追加するネクストゴールを設定し、12月18日に達成した。追加の45万円の使途は、古レールを溶接加工した鳥居の製作、車内へのお社の設置、御朱印帳とスタンプのデザイン、しめ縄など備品購入費とのこと。ますます神社の体裁が整う。
阿字ヶ浦駅では、2019年11月23日に「ほしいも神社」が建立された。沿線の特産品「干し芋」にかけて、「ほしいものが手に入る」御利益があるという。他にも350年以上の由緒があり、水戸光圀も参拝した掘出神社、平安時代創建で宝くじ高額当選の御利益という酒列磯前神社などがある。キハ222は大先輩の神々に見守られる新参者となる。
クラウドファンディングは12月20日まで実施する。返礼品は、地元特産の干し芋のほか、開運お守り、公式サイトの奉納者ご芳名掲載、御神体内のご祈祷、奉納幟など、神社らしいアイテムもある。現役の国鉄形気動車キハ20で参拝するツアーもあった。
鉄道ファンなら1度は訪れたい「鐡道神社」。建立が楽しみだ。