2016年第24週(6月6~12日)は、大井川鐵道の話題が豊富だった。「きかんしゃトーマス」、JR北海道から14系座席車を譲受、奥大井湖上駅に「奥大井恋錠駅」の愛称が加わった。NHKの朝ドラ『とと姉ちゃん』では、旧型客車と電気機関車の組み合わせで出演した。

大井川鐵道にバスの「バーティー」もやって来た

6月11日、大井川鐵道の「トーマスフェア」が始まった。青い機関車「トーマス」と赤い機関車「ジェームス」が走っている。10月10日まで大井川鐵道で働く契約のようだ。彼らはイギリスのソドー島から、かつてソドー鉄道で働いていた日本製機関車「ヒロ」に会うためにやって来た。昨年からは「パーシー」も遊びに来ている。「パーシー」は働かない。「トーマス」「ジェームス」が働いている間、「ヒロ」の話し相手になっている。

今年はさらに仲間が増えた。バスの「バーティー」と「いたずら貨車」「いじわる貨車」だ。鉱山鉄道の機関車「ラスティー」は、昨年までは井川線の駅でのんびりしていたけれど、今年は千頭駅構内で貨車をつないで遊覧運転しているそうだ。大井川鐵道のトーマスフェアは、もはや日本の夏の風物詩だ。

大井川鐵道に14系客車もやって来た!

その大井川鐵道で、鉄道ファンをびっくりさせるニュースがもうひとつあった。14系客車の導入だ。同社の公式Twitterによると、6月9日と6月11日に「オハ14 511」「オハ14 535」「スハフ14 502」「スハフ14 557」が到着し、11日に大井川鐵道の線路に載せられた。これら4両はJR北海道からの譲渡車両で、札幌駅と青森駅を結んだ夜行急行列車「はまなす」に使われていた。

14系客車は、国鉄が昭和45年度から昭和52年度まで製造した車両だ。14系客車は、照明や冷房に使う電源を床下のディーゼル発電機でまかなう。この発電機は編成の端に使うスハフ14に搭載されているため、初代ブルートレインの20系客車や、寝台特急「北斗星」に使われた24系客車のような電源専用車が不要だ。複数の行先の列車を連結する場合にも都合が良かった。

14系には寝台車と座席車があり、寝台車は3段式、後に14系15形という2段式寝台車も作られた。おもに東京・大阪発の九州方面行寝台特急で活躍した。長崎・佐世保行「さくら」「あかつき」など、途中駅で分割する列車に都合が良く、ブルートレインブームの立役者のひとつだった。

座席車のほうは臨時特急列車や団体列車向けに製造された。その後、夜行急行列車の指定席や自由席として連結されるようになった。「北海道ワイド周遊券」があった頃、札幌駅発着の夜行急行に乗り、14系の座席を向かい合わせにして宿代わりにした「乗り鉄」も多かったと思う。筆者もその1人だ。

300両以上もあった14系客車は、時が進むにつれて廃車やジョイフルトレインへの改造が進んだ。「はまなす」の14系座席車も、外観こそ登場時に近いものの、座席は改良された。おもに自由席に使われる簡易リクライニングシートと、指定席「ドリームカー」に使われる特急列車グリーン車用リクライニングシートの2種類があった。

大井川鐵道に搬入された4両はすべて簡易リクライニングシート仕様だ。簡易リクライニングシートとは、倒れる角度が1段階で浅く、利用者の体の重みで倒れるしくみ。利用者が体を起こすと戻るため、姿勢を変えるたびにガチャガチャとうるさかった。14系座席車の製造時はすべてこのタイプ。もっとも、「はまなす」に使われた簡易リクライニングシートは、背もたれが戻らないように改良されたと聞く。

大井川鐵道は14系客車をSL急行に使うという。この決定は、おそらく「トーマス」をきっかけとして、大井川鐵道の客層の変化を示している。

大井川鐵道のSL列車は国鉄時代からの旧型客車を使用しており、SLの現役時代の編成を再現している。それが鉄道ファンにとっては、他の地域のSL列車にはない魅力だった。しかし、旧型客車は冷房がなく、最高気温の高い静岡の夏は蒸し風呂状態。トンネル内では機関車からの煙が室内に入るため、窓を閉めるか風を入れるかで悩む。

それも含めて往年の旅を体験できたわけだけど、若いファミリー層にとっては苦行ともいえる。各地のSL列車は旧型客車に比べるとかなり快適だ。大井川鐵道は14系客車の導入によって、リクライニングシートで冷房完備という、新しいSL列車ファンに対応できる。

大井川鐵道は14系客車を1年後の2017年6月から運行するという。その間、どのような仕様変更が行われるか興味深い。かつて14系客車を宿代わりにした「乗り鉄」、そして急行「はまなす」のファンとしては、どうかこの雰囲気を維持していただきたい。

他にも大井川鐵道は、6月12日から井川線奥大井湖上駅に「奥大井恋錠駅」の愛称を付けて、恋人同士や夫婦向けにアピールしている。これも大井川鐵道がいままでになかった客層を取り込もうとする施策のひとつといえる。

大井川鐵道E10型。昭和の風景はSLだけではない

蛇足ながら、NHKの連続テレビ小説『とと姉ちゃん』でも、6月11日に大井川鐵道が登場した。主人公に結婚の申し込みを断られた東大生が大阪へ旅立つ場面だ。大井川鐵道は古い時代の鉄道風景のロケ地として人気だ。しかし今回はSL列車ではなく、旧型客車を茶色の電気機関車が牽引した。東京~沼津間が電化されていた頃だから、蒸気機関車より電気機関車がふさわしいという判断だったのだろう。SL列車の補助役で裏方だったE10型が列車の先頭に立つ。車両の運用としてもロケ撮影としても珍しい場面だった。