東京都は4月1日、京浜急行本線の連続立体交差事業に着手すると発表した。事業期間(工期)は2020年度から2029年度まで。品川駅周辺の南北を通る線路のうち、港区高輪二丁目から品川区北品川二丁目までの1,744mが対象となる。この区間内にある北品川駅は地上駅から高架化され、品川駅は高架駅から地平化される。
現在、品川~北品川間はほぼ水平だが、工事完成後は北品川駅が高くなり、品川駅が低くなる。品川~北品川間にある踏切3カ所を除却するため、高架区間は北品川駅から品川駅寄りまで続き、そこから品川駅まで降りていく。品川駅は現在の高架駅のままで良いのではないかと思うかもしれない。しかし、品川駅は地平化が最適となった。
鉄道と道路の立体交差事業は、駅や踏切などの鉄道部分を地下にするか、高架にするかがおもな選択肢となる。京急線の品川駅付近立体交差事業では、高架の品川駅を地平に降ろす。検討段階では、品川駅を高架のままにする案や地下化する案もあった。地平案に決定した理由には3つの事情がある。「勾配の最適化」「品川駅西口再開発計画」「事業費」だ。
京急線の立体交差事業は、第1の目的として北品川駅周辺にある踏切の解消がある。駅の北側に「品川第一踏切」「品川第二踏切」、南側に「北品川第一踏切」があり、このうち「品川第一踏切」は線路と「八ツ山通り(東京都市計画道路幹線街路補助線街路第149号線)」が交差している。八ツ山通りは国道15号から分岐し、東京湾側の「元なぎさ通り」「海岸通り」「大井埠頭方面」へ連絡するため、自動車交通量が多い。
「品川第二踏切」「北品川第一踏切」は北品川駅に隣接している。北品川駅の改札口は1カ所のみ、西側の上り線ホームにある。そのため、北品川駅の東側地域の利用者にとって立体交差化は重要だった。とくに下り線ホームと駅の東側地域を行き来する際、跨線橋を渡り、上り線ホーム側の改札口を出て踏切を経由する回り道を強いられてきた。
これら3カ所の踏切を除却する方法として、「北品川駅と品川駅を地下化」「北品川駅と品川駅を高架」「北品川駅を高架、品川駅を地平化」の3案が検討された。
このうち、北品川駅の地下化は最初に除外された。北品川駅を地下化するには、交差するJR線の線路群のさらに下にする必要がある。そのためには、北品川駅の南側、新馬場駅の高架から勾配で降ろす。急勾配を避けるため、緩やかな長い勾配にする必要がある。そうなると、今度は北品川~新馬場間の3つの区道で高さ制限が生じ、事実上、トラックやハイルーフ自動車が通行できない。踏切を除却しても、別の道路に支障する。
高架となった北品川駅から品川駅への急勾配を緩めるため、品川駅は現在の駅より北側に移転する。これは「高架」「地平」のどちらの案も同じ。ただし、高架駅として移転した場合、品川駅と泉岳寺駅の間が詰まり、地下区間のほとんどが作り直しになってしまう。品川駅を地平にすれば、泉岳寺駅への勾配を緩めることができ、地下部分の改良費用も安く済む。「品川駅地上化、北側移動」は「勾配」と「予算」で決まった。
そしてもうひとつの要素が「品川駅西口再開発計画」だった。京急線の品川駅が地平化されると、線路とホームがJR線の線路群と同じ高さになる。そこで京急線の駅も橋上駅舎とし、JR線の橋上駅舎から続くコンコースを高輪口へ延伸する。さらに国道15号を覆う形でペデストリアンデッキを建設し、品川駅西口広場を作る。
現在の品川駅はJR線が地平ホームで橋上駅舎、京急線が高架駅で高架下改札口となっている。JR線の橋上駅舎は高輪口側で京急線の線路に突き当たるため、手前で駅前広場へ降りる構造になっている。
JR線から京急線の下り線ホームへは連絡改札口があって便利だが、上り線ホームからJR線へ乗り換える場合、京急線のホーム上にある跨線橋を利用して連絡改札へ行くか、京急線の高架下改札口を出て、JR線の橋上駅舎へ上がる必要があった。
京急線のホームが地平化され、橋上駅舎になると、JR線の在来線や東海道新幹線への乗換えがスムーズになる。東西自由通路と高輪口、港南口の往来も便利だ。
京急線は羽田空港へのアクセス路線でもあるから、大きな荷物を持った羽田空港利用者にとっても乗り換えやすい駅になるだろう。高輪ゲートウェイ駅周辺の新しい街「グローバルゲートウェイ品川」にも寄与する。品川駅西口広場の北側は高輪ゲートウェイ駅に続く歩行空間と接続するほか、セグウェイのような小型次世代モビリティのターミナルになる。その階下の国道15号では、両側に路線バスのりばが再配置される。
品川駅西口広場の南側はにぎわい広場になる。国道15号の向こう側、現在の「ウィング高輪WEST」には、新たに「4丁目開発ビル(仮称)」が建設される構想で、タクシーのりばや高速路線バスのターミナルを想定している。京急電鉄が泉岳寺寄りに設置している品川バスターミナルはこちらに移転することになりそうだ。
京急線の品川駅は地平化を機に、現在の2面3線(うち1線は行き止まり式)から2面4線の構造に拡張される。これはJR東日本の高輪ゲートウェイ駅設置、「グローバルゲートウェイ品川」開発に関連して、品川駅にあった山手線の留置線が廃止されたためだ。この空いた部分を使い、京急線の駅を拡張する。
このように、京急線の立体交差化と品川駅の地平化は、東京都などが進める品川駅西口再開発の重要な要素となっている。その品川駅西口再開発は、もっと広範囲な構想「品川駅・田町駅周辺まちづくりガイドライン 2014」の一部。つまり、高輪ゲートウェイ駅開業と京急線品川駅の大改造は一体となって効果を発揮する。新しい京急線品川駅が稼働する2029年度までに、リニア中央新幹線品川駅の開業も予定されている。
品川駅周辺は、1998(平成10)年に港南口の貨物操車場が品川インターシティとなって以来の大改造となる。リニア中央新幹線と接続する品川駅の今後も興味深い。六本木方面から地下鉄を延伸する構想もある。京急線品川駅が変貌する品川地区の新たな顔となる。2面4線化によって京急線のダイヤがどう変わるかも楽しみだ。