北陸新幹線の車両水没、箱根登山鉄道の壊滅、上田電鉄やJR水郡線の鉄橋破壊など、令和元年台風19号が鉄道に及ぼした被害は大きかった。沿線の人々は大変お困りのことと思う。鉄道ファンにとっても被災路線の復旧を待ち望むところだ。

  • 北陸新幹線車両基地が水没(地理院地図より10月13日の航空写真)

  • 3日後、水は引いたけれども車両は動かない(地理院地図より10月16日の航空写真)

一方で地方のローカル線、とくに自治体が援助している鉄道が心配だ。高額な費用で復旧しても、その路線は赤字で今後も資金援助が必要となる。自治体の被災は鉄道だけではない。緊急車両が通行できる道路をはじめ、水道など公共施設の復旧にもお金がかかる。鉄道を復旧させるよりバス転換したほうがいいとの意見が出るかもしれない。

10月23日現在、台風19号関連の不通区間と復旧見通しについては下表の通り。

JR東日本 不通区間 運行再開予定
北陸新幹線 長野~上越妙高間 10月25日
東北本線 新白河~矢吹間 10月24日
東北本線 矢吹~安積永盛間 10月29日
東北本線 本宮~松川間 10月26日
八戸線 階上~久慈間 2カ月程度
磐越東線 郡山~小野新町間 11月上旬
磐越東線 小野新町~いわき間 11月中旬
両毛線 岩舟~栃木間 河川堤防工事終了から1カ月程度
水郡線 常陸大宮~西金官 11月1日
水郡線 西金~常陸大子間 未定
水郡線 常陸大子~安積永盛(郡山)間 11月1日
吾妻線 長野原草津口~大前間 未定
八高線 寄居~北藤岡間 未定
小海線 小海~野辺山間 11月上旬
飯山線 森宮野原~豊野間 11月下旬
三陸鉄道 不通区間 運行再開予定
リアス線 釜石~宮古間 未定
リアス線 田老~久慈間 未定
阿武隈急行 不通区間 運行再開予定
阿武隈急行線 富野~槻木間 未定
しなの鉄道 不通区間 運行再開予定
しなの鉄道線 上田~田中間 未定
上田電鉄 不通区間 運行再開予定
別所線 上田~下之郷間 未定
東武鉄道 不通区間 運行再開予定
佐野線 佐野~葛生 10月24日
日光線 新鹿沼~下今市間 10月24日
箱根登山鉄道 不通区間 運行再開予定
鉄道線 箱根湯本~強羅間 未定

JR東日本は北陸新幹線の車両水没が大きく報じられた。E7系8編成とW7系2編成、合計120両が被災しており、廃車または修理としても復旧に時間がかかる。ただし、JR東日本は上越新幹線で活躍するE4系を置き換えるためにE7系を増備中で、2020年度までに11編成投入する予定としていた。一部はすでに上越新幹線で運用を開始しており、工場から納品された車両の試運転も始まっている。これらの車両を北陸新幹線に充当するなどにより、10月25日から東京~金沢間の全線で運転再開する予定となった。

■ローカル線の被災は存続問題がつきまとう

現在も運転再開の見通しが立っていない区間は、水郡線の西金~常陸大子間、吾妻線の長野原草津口~大前間、八高線の寄居~北藤岡間など。このうち水郡線と八高線の不通区間は路線の中途区間であり、ここが途切れると路線のネットワークが機能しない。復旧の見込みは高いといえる。

一方、吾妻線の不通区間は末端区間で、2018年の平均通過人員は364人/日。渋川~長野原草津口間の2,949人/日に比べると極端に少ない。復旧にあたり、JR東日本は国や自治体の支援を求めるかもしれない。平均通過人員がわずか96人/日の久留里線久留里~上総亀山間は復旧させたから、おそらく復旧されるだろう。

三陸鉄道の被害も深刻だ。リアス線釜石~宮古間55.4kmは、東日本大震災で被災したJR山田線の一部だった区間。JR東日本が復旧し、三陸鉄道に移管するという枠組みで、今年3月23日に運転再開したばかり。わずか半年あまりで再び壊滅的な被害となった。旧北リアス線の田老~久慈間58.3kmも被災しており、全路線163kmの約7割が不通となった。

上田電鉄別所線の鉄橋崩落も衝撃的な映像だった。この鉄橋は千曲川橋梁といって、別所線の起点、上田駅と次の城下駅の間にある。上田駅は北陸新幹線としなの鉄道に乗換え可能な交通の要となる駅。別所線利用者の大半が上田駅から各駅へ行き来するわけで、ここが破断されると別所線の根元を切られた格好になる。別所線は現在、下之郷~別所温泉間で運転を再開しているけれども、上田駅に通じるまで、経営的にも沿線の生活も不安定な状況のままだ。

箱根登山鉄道も壊滅的な状況となってしまった。報道映像を見ると絶望的で、どこから手を付けていいかわからないという印象さえ受ける。しかし、箱根はいまや国際的観光地である。その上、周辺道路は細く、観光バスをこれ以上増やすわけにはいかない。観光的にも実用的にも箱根登山鉄道は必要な路線である。箱根登山鉄道、小田急グループ、地域の総力戦で復旧させる必要がある。

箱根登山鉄道は梅雨時期のあじさいで知られているけれども、これは線路際の法面にあじさいの根を這わせて固めるためだった。それが今回の大雨では耐えられなかった。復旧にあたり、法面をコンクリートで固めるなどの対策が必要になるかもしれず、名物だったあじさいがどのように維持されるかも気になるところだ。現状では楽観的すぎるかもしれないけれど、箱根登山鉄道にとって「あじさい電車」も重要な収益源だったはず。あじさい復活へ、なんとか折り合いを付けてほしい。

水郡線の常陸大子~安積永盛間は11月1日に復旧予定となった。しかし、沿線の福島県矢祭町は対応に追われる形になった。同町の高地原地区と国道118号の間に久慈川があり、地区の唯一の出入口である高地原橋が流された。橋に併設された水道も消えたため、同地区の人々は列車が走らない水郡線の鉄橋を利用して行き来し、水や食糧を確保するという状況になっていた。

  • 高地原地区と高地原橋と水郡線鉄橋の位置(地理院地図を加工)

水郡線が運転再開すると、この鉄橋が使えなくなる。高地原橋の復旧は半年以上と報じられており、どうなるかと案じていたら、矢祭町が今月末までに仮設橋を建設するという。鉄道の復旧を急ぎたいけれども、鉄道だけの都合では救われない地区もある。考えさせられる事例だった。

■復旧前・復旧後も応援できる方法がある

鉄道は沿線の人々の移動手段である。自然災害が発生した場合、人々の生活の復旧が優先されるべきであり、鉄道好きとしては地域の選択を尊重し、見守るしかない。復旧したらまた乗りに行き、観光消費などで支援しつつ、その沿線の風景、食べ物などを発信して呼びかけたい。そのくらいしか支援の方法がない。

大きな被害を受けた三陸鉄道では、支援したいという人々の問い合わせが多いようだ。三陸鉄道は要望に応えるため、銀行に寄付用口座を開設し、義援金を受け付けている。三陸鉄道の義援金受付口座は次の通り。

  • 岩手銀行 宮古中央支店 普通口座 2105683 口座名義 三陸鉄道株式会社 代表取締役社長 中村一郎

このような施策はもっと広がっていいと思う。他の被災した鉄道でも、ぜひ検討してほしい。JR東日本のような大きな会社に義援金はどうかとも思うけれど、被災路線の駅関連設備は自治体が保有する事例も多い。沿線自治体か、たとえばふるさと納税のしくみなどを使って、鉄道周辺設備への義援金を募ってもいいだろう。

ところで、ひとたび自然災害が起きると、それ以前に発生した災害の被災は忘れられがちだ。2016年の熊本地震で被災し、現在も一部区間が不通となっている南阿蘇鉄道にも義援金口座がある。

  • 肥後銀行 高森支店 普通口座 1406905 口座名義 ミナミアソテツドウ(カ

2011年7月の新潟・福島豪雨で被災したJR只見線では、福島県がふるさと納税制度による寄付金を募集している。2,000円以上の寄付で只見線応援団に入会できる。詳しくは「企業版ふるさと納税(地方創生応援税制)」のウェブサイトを参照してほしい。

その他、鉄道事業者の公認グッズを購入する、イベント列車に参加するなど、日頃から鉄道を応援する方法はある。むしろ、普段から鉄道ファンに支えられる鉄道は国や自治体、地域から「残す価値が高い」と判断されると期待できる。