4月14日21時26分、熊本地方を震源とする最大震度7の地震が発生した。鉄道の被害としては、九州新幹線の回送列車が脱線し、九州新幹線は全線で運行できなくなった。16日未明の本震では、豊肥本線で脱線や土砂崩れが発生し、一部区間では復旧見込みが立たない。その他のJR九州の路線、熊本電気鉄道や南阿蘇鉄道、熊本市交通局なども被災した。鉄道は地域交通の要である。関係者の復旧に向けた努力が続いている。

九州新幹線は4月20日に新水俣~鹿児島中央間で運転再開したが、熊本県内を中心に復旧のめどが立たない区間も

政治家の「良いタイミング」発言が物議を醸しているけれど、いつだって大地震が起きれば、その時点で最悪のタイミングである。とくにJR九州にとっては災難だった。昨年6月3日に「JR会社法」の改正が成立し、JR九州は同法の対象からの離脱が決まった。その実施日が2016年4月1日。JR九州は国の規制から解き放たれた代わりに、国の庇護も受けられなくなった。それから13日後の被災である。

東日本大震災では、JR東日本の路線に対して国からの支援はほとんどなかった。黒字企業に対する復興支援はできないという建前があるからだ。JR九州は近年の業績が認められ、「JR会社法」から離脱して2016年秋の上場へ向けて準備中だった。JR九州の鉄道部門は厳しい状況だ。しかし会社全体としては好調だ。連結売上高の6割以上が不動産や飲食など鉄道・運輸事業以外となっている。被災前の2016年度の目標売上高は3,700億円、そこから算出された営業利益は250億円である。

もし、東日本大震災と同じ考え方だとすると、JR東日本と同じように、JR九州は国の支援が得られない。九州新幹線はどうなるのか、豊肥本線は復旧できるか。そもそも予定通り上場できるだろうか。長期的にも心配になる。

国の「精神的支援」は継続

JR九州にとって不幸中の幸いといえるのは、脱線した車両が回送列車だったため、人的被害が少なかったこと。生命の補償はお金に換えにくく長期化しやすい。その負担が避けられた。次に、最も被害の大きな九州新幹線について、線路設備そのものはJR九州の所有ではないこと。整備新幹線は鉄道建設・運輸施設整備支援機構が所有し、鉄道事業者は設備を借り受けて運行している。

JR九州にとっては、営業できない期間の売上は失うものの、100カ所以上ともいわれる修復箇所の負担は少ないと思われる。JR九州の意向で独自に設置した設備があれば、その修理負担はあるだろう。しかし、最もお金のかかる構造物の補修費用はほとんどない。

「JR会社法」の離脱に関してはどうか。「JR会社法」は正しくは「旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社に関する法律」という。国鉄をJRに移行したとき、国が全株を保有する特殊会社となった。そのため、国がJR旅客会社やJR貨物の事業を監督するために作られた法律だ。民営化されたとはいえ、「鉄道事業をおろそかにしてはいけない。民間企業を圧迫しないように」という配慮がある。

この法律の下、会社経営に関して、鉄道以外の事業進出、新株発行、社債、長期借入れ、代表取締役などの選任、各年度の事業計画、重要財産の譲渡などは国土交通大臣の認可事項となっていた。規制だけではなく、経営の厳しさが予想されるJR北海道、JR四国、JR九州については、経営安定化基金を設立し、経営を援助するしくみになっている。

JR九州が「JR会社法」から離脱するにあたり、経営安定基金は国に返納しないと決められた。経営安定化基金は生活保護のような性格で、自立できるなら返納すべきという意見もあった。しかし、同法改正の審議にあたって、経営安定基金はJR九州の資産であるという基本的な考え方が示された。

ただし、運用基金のままにはできない。そこで、上場するにあたって、経営を安定化するための投資に振り向ける。具体的には「九州新幹線の貸付料の一括前払い」「鉄道資産取得のために鉄道・運輸機構から借り入れた無利子借入金の償還財源」「鉄道ネットワークの維持・向上に必要な鉄道資産への振替」である。

九州新幹線を修復する鉄道・運輸機構は資金が必要だ。地震保険料があるとしても満額ではないだろうから、「九州新幹線の貸付料の一括前払い」は頼りになるはずだ。そうなると、JR九州は予定通り上場してくれたほうが都合がいい、となる。

被災路線の復旧については、2016年の第189回国会参議院国土交通委員会において、国土交通省が「今後、大規模な被害を受けた場合に、治水事業など他の事業との連携による復旧が円滑に進むよう必要な助言をする」という見解を示している。補助制度は適用されないとしても、被災地域一帯の復旧に合わせて調整、支援してくれるようだ。

JR九州は現在、災害復旧に全力を注いでいる。上場に対する判断、見解はしばらく先に示されることになるだろう。たいへん厳しい状況とはいえ、九州の経済復興の観点からも、予定通り2016年秋の上場へ向けて進むべきだと思われる。