2015年6月に東海道新幹線で車内放火事件が発生した。乗客が持ち込んだガソリンをまき、火をつけた。当時、ガソリンや灯油、軽油などは容器を含めて3kg以内なら持ち込めた。乗客が赤いポリタンクやガソリン缶を持っていてもとがめられなかったし、規定内の量なら違反ではなかった。鉄道の営業運用を定めた旅客営業規則には「中身が漏れることを防ぐための適当な方法で保護してあるものに限る」と但し書きがある。つまり、容器のふたを開けた時点で規則違反となった。

東海道新幹線N700系

東海道新幹線の事件をきっかけに、車内に持ち込めるもの(手回り品)、持ち込めないもの(持込禁制品)の規則について見直しが行われた。その結果、JRグループほか鉄道事業者各社は持込禁制品に関する規則を改正した。可燃性液体は持込み禁止。ただし、ライターなど可燃性液体を含む物品は2kgまたは2リットル以内まで可能となる。

規則改正はJRグループが4月28日から。その他の事業者も4月28日以降、各社それぞれの日程で実施する。JR東日本のウェブサイトでは、2016年4月1日現在として、すでに新規則が掲載されていた。旅客営業規則第10章「手回り品」第307条以降だ。日本民営鉄道協会、日本地下鉄協会加盟各社もプレスリリースを発行している。

東急電鉄の旅客営業規則も4月1日改正版が公式サイトに掲載されている。JRの旅客営業規則に準じた構成で、第9章第307条以降が該当部分。近畿日本鉄道は4月5日現在、まだ平成27年4月1日付。該当部分は第9章第200条以降だ。各社によって規則の構成が異なっている。JRの場合、持込禁制品が発覚すると、以降の乗車ができない他に「重量に応じた小荷物運賃の10倍」、危険物の場合はさらに「1kgあたりの増運賃」を支払わなくてはいけない。他の鉄道事業者もほぼ同様だ。

今回の持込禁制品の改正は可燃性液体のみだった。しかし、旅客営業規則では他にも持込禁制品を定めている。うっかり持込禁制品を持ち込まないように規則をチェックしよう。鉄道事業者によってはウェブ上で公開されていなかったり、別紙一覧表が省略されていたりする。旅客営業規則は原則として各駅に備えられている。最寄りの駅で確認しよう。

手回り品は2個まで - 大きさに制限がある

持込禁制品を紹介する前に、持ち込めるもの(手回り品)を確認しよう。JR東日本の旅客営業規則第308条にはこう書いてある。


列車の状況により、運輸上支障を生ずるおそれがないと認められるときに限り、3辺の最大の和が、250センチメートル以内のもので、その重量が30キログラム以内のものを無料で車内に2個まで持ち込むことができる。ただし、長さ2メートルを超える物品は車内に持ち込むことができない

なんと、無料で持ち込める手荷物は2個までだった。旅行鞄など3個目以上は1回の乗車ごとに280円の料金がかかる。持込区間や持込日などを申し出る必要もある。実際には、3~4個程度の荷物を持ち込んでも駅員に呼び止められる機会は少ないようだが、じつは航空機と同じような個数制限、割増運賃制度があった。電気街で爆買いしたら要注意だ。

なお、自己の身の回り品として携帯する傘・つえ・ハンドバッグ・ショルダーバッグなどは数えなくていい。盲導犬も無料。ただし、ペットの犬や猫は鞄に入れた上で、1個あたり280円の手回り品料金が必要だ。持込区間や持込日などを申し出る必要がある。

長さが2mを超えてもダメ。たとえば竿竹などはダメだ。3辺の和が250cm以内ということは、大きめのベビーカーはダメかもしれないから、乳幼児の保護者は要確認だ。例外としては、自転車は折りたたみ、または解体して輪行袋に入れると手回り品として認められる。サーフボードも袋に入れたら持ち込み可能である。

死体はダメ、日本酒1升瓶もダメ、銃弾はOK

持込禁制品は多岐にわたり、意外と種類が多い。JR東日本の旅客営業規則第307条によると、車内に持ち込めないものは「別表第4号に掲げるもの(危険品)」「暖炉及び焜炉」「死体」「動物(鞄に入る小動物以外)」「不潔または臭気で他の乗客に迷惑をかけるおそれがあるもの」「車両を破損するおそれがあるもの」となっている。

暖炉と焜炉は、購入時のように、箱に入っているなど稼働できない状態であればOK。また、金属製懐炉もOK。懐炉の燃料のベンジンは小売店で購入できる製品のため、容器を含めて2kg、2リットルまでOKだ。

死体はダメ。高倉健主演の映画『鉄道員(ぽっぽや)』で、駅長の遺体を列車で運ぶ場面がある。鉄道を愛した人を鉄道で弔うという名場面だけど、規則上はダメだった。また、アニメ『銀河鉄道999』の公式グッズ「銀河鉄道大時刻表」では、「死体・死ぬ人」と書いてあった。銀河鉄道は機械化人間の乗り物。機械の体にならない人は乗車できなかった。鉄郎は「機械の体をもらいに行く」という目的だから「死ぬ人」ではない。

鞄に入らない動物はダメ。これは近畿日本鉄道でも定められているけれど、年に数回、「ペンギン列車」が走っている。車内をペンギンが歩く姿がかわいい……けど、あれは超法規的措置のようだ。「不潔または臭気」については主観的な要素があるから難しい。今年2月7日、関西本線長島~弥富間の普通列車で異臭騒ぎがあった。原因は中華料理素材の「臭豆腐」だった。においの強いものはダメ。某ファストフードのフライドチキンはギリギリセーフだろうか。

「車両を破損するおそれがあるもの」も運用が難しい規則。座席のシートが切られたり、吊り手が盗まれたりするなどの犯罪では工具や刃物が使われる。カッターや十徳ナイフをポケットに入れたまま街に出て、銃刀法違反になった人もいる。車両を破損するおそれがないように、工具箱にしまっておこう。

「別表第4号に掲げるもの(危険品)」の「別表第4号」では、今回の改正点となった「可燃制液体」「可燃性固体」の他に「火薬類」「農薬」など多岐にわたる。この別表は例外規定も合わせて読むと興味深い。

たとえば、お酒は可燃制液体だけど、「日常の用途に使用する小売店等で通常購入可能な可燃性液体を含む製品」は「2リツトル以内のもの又は容器・荷造ともの重量が2キログラム以内」であれば持込み可能とある。日本酒1升瓶は約1kgで、中身の酒は1.8リットル。容量はOKでも、重量としてはダメ。「中身が漏れることを防ぐための適当な方法で保護してあるものに限る」とあるから、車内で1升瓶を開けちゃダメだ。あれ、そうなると、車内ではカップ酒の容器のフタを開けてはいけないことになる? 列車内飲酒禁止かも。「漏れることを防ぐ」の解釈の問題かもしれない。放置しないで飲めばOKか。

「火薬類」はダメだけど、例外として「銃用実包又は銃用空包で、弾帯又は薬ごうにそう入し、又は振動・衝撃等によつて発火するおそれのない容器に収納した200個以内のもの」はOK。実包とは火薬を詰めていない弾のこと。銃用の火薬は容器とも1kgまでは持ち込める。猟銃の免許を持った人が列車で猟に行く状況に配慮している。また、花火は玩具用の1kgまではOK。大量に持ち運ぶと玩具用花火でもアウトだ。

ほとんどの危険物には例外があり、少量なら車内に持ち込める。しかし唯一、例外がない分類があった。核燃料物質、放射性同位元素(ラジオ・アイソトープ)だ。そもそも持ち歩いてはいけないものだけど、ちゃんと禁止されていた。