あおなみ線を中部国際空港方面へ延伸する構想が、実現に向けて動き出しそうだ。中日新聞の9月21日付の記事「あおなみ線、空港延伸構想 名古屋市、アクセス強化」によると、同日の名古屋市議会で「中部国際空港に2本目の滑走路を建設するにあたり、交通アクセスの強化を検討すべきだ」との議員の質問に対し、副市長から「19年度早々に調査検討組織が立ち上がるよう県はじめ関係者に働き掛ける」と回答。市長も「来年度の初めには新しい組織を間に合わせる」と意気込みを示したという。

  • あおなみ線はリニア・鉄道館やポートメッセなごやへのアクセス路線としても知られる

あおなみ線は名古屋市が過半数の株式を保有する第三セクター鉄道、名古屋臨海高速鉄道が運行する路線。旧東海道本線貨物支線を改良したルートで、名古屋駅を起点に、関西本線や近鉄名古屋線と並走した後、南下して名古屋港地区の金城ふ頭駅まで約15kmを結んでいる。延伸構想はこの路線をさらに南下させ、トンネルまたは高架橋で海を渡り、東側の工業地帯で上陸。中日新聞の記事によれば、名鉄常滑線の新舞子駅付近に接続する案が有力とのことだ。

名古屋市中心部と中部国際空港を結ぶアクセス鉄道は現在、名鉄常滑線・空港線が担っている。全席指定席の空港アクセス特急「ミュースカイ」をほぼ30分おきに運行するほか、一部座席指定の特急が補完的な役割を果たす。あおなみ線は2本目の空港アクセス路線として期待されているようだ。

その背景には、先に挙げた中部国際空港の滑走路増設構想のほかに、2027年に予定されるリニア中央新幹線の開業もある。名古屋鉄道の「2018年3月期決算 名鉄グループ中期経営計画 説明会資料」によると、「リニア中央新幹線の開業により、名古屋からの2時間移動圏内人口が、東京を逆転し日本一となる」という。これにより、観光・出張など交流人口の増加、移住増による定住人口の増加などが期待できる。つまり、あおなみ線の起点となる名古屋駅、延伸構想の目的地となる中部国際空港の双方で需要増が見込まれる。

名古屋市長はあおなみ線の延伸に前向きだ。2014年10月の定例記者会見で「セントレア(中部国際空港)の延伸計画は(市長選)マニフェストにもある」と認め、「ベリーグッド、金城ふ頭駅は延伸を前提として、埠頭の端から距離を取っている」と質問に答えている。また、SL運転計画に関連して「あおなみ線は名古屋駅の新幹線の隣にホームがある」という利点を挙げた。

問題は事業費だ。中日新聞の記事で構想ルートとして報じられた新舞子駅付近での接続について、名古屋市は金城ふ頭駅からの建設費を約800億円と試算していた。名古屋臨海高速鉄道の年間利益は2億円を少し上回る程度だから、運賃収入で賄うには厳しい。主要株主の名古屋市と愛知県などの政治的判断で新たな枠組みを作る必要がある。

  • あおなみ線、名鉄常滑線・空港線、中部国際空港の位置(国土地理院地図を加工)

名古屋鉄道との競合についても懸念材料となる。有力案となっている「新舞子駅付近の接続」は、「新舞子駅で名鉄常滑線に乗り換える」「新舞子駅から名鉄常滑線に乗り入れ、中部国際空港に直通する」のどちらにも取れる。利用者としては、常滑線に直通運転して、名古屋~中部国際空港間を乗換えなしで結んでほしい。名古屋鉄道もあおなみ線も軌間は同じ1,067mm、直流1,500Vで電化されている。

この報道に対して、名古屋鉄道側の反応はみられない。しかし、考え方としては賛否両方がある。名古屋鉄道としては、新舞子駅から常滑線に乗り換えてくれる利用者が増える分については異存はないだろう。しかし、直通運転となれば話は別。単純に考えると反対すると思われる。名鉄空港線は訪日外国人の増加にともない、2017年度は前期比で+4.0%と堅調に推移している。名古屋~中部国際空港間で競合となるあおなみ線の直通列車を通せば、みすみすライバルに線路を貸す形になる。

しかし、見方を変えれば常滑線の収益を上げることにつながる。常滑線は太田川駅から河和線が分岐しており、こちらも名古屋方面へ直通する列車の運行本数が多い。ゆえに太田川~常滑間の運行本数を増やせない。全線複線であるけれども、現在はその設備をフルに使えていない。名古屋鉄道は大半の路線で名鉄名古屋駅へ直通運転しており、名鉄名古屋駅付近は過密ダイヤで知られる。現在のミュースカイ、特急、準急の他に名鉄名古屋~中部国際空港間の直通列車を増やしにくい。

  • 名古屋鉄道の名鉄名古屋~中部国際空港間のダイヤ。常滑線の太田川駅から空港線の中部国際空港駅までは運行本数が少ない。全区間複線のため、まだ運行本数には余裕がある。しかし、名鉄名古屋駅へ直通する列車は設定しにくい。(列車ダイヤ描画ツール「OuDia」で作成)

新舞子駅からあおなみ線が乗り入れた場合、旅客の奪い合いにならず、全体的に乗客が増加すると考えるならば、常滑線の旅客も増加し、収入が増える可能性もある。ならば、あおなみ線直通に便宜をはかり、敵に塩を送っても勝機はある。

ところで、名鉄空港線は上下分離方式の路線だ。線路設備は中部国際空港連絡鉄道が保有し、名古屋鉄道が線路を借りている。ここはあおなみ線が乗り入れても問題はないだろう。関空連絡橋にJR西日本と南海電鉄が乗り入れる形と同じだ。そうなると、名鉄常滑線の新舞子~常滑間で名古屋鉄道があおなみ線の乗入れを認めるか否かが焦点になる。

名古屋鉄道が直通を嫌った場合は新舞子駅乗換えになるけれども、じつは3番目の選択案もある。あおなみ線が独自に線路を建設し、常滑駅に接続する方式だ。たとえば金城ふ頭駅からトンネルまたは高架橋で海を渡った後、名鉄常滑線と交差して知多半島の内陸方面に新線を建設し、常滑駅で中部国際空港連絡鉄道に乗り入れる。

この場合は名鉄常滑線経由より遠回りになってしまうし、建設費も莫大になると予想されるけれども、知多半島内陸部の開発には寄与する。リニア中央新幹線の開通、中部国際空港の滑走路増設によって名古屋近郊の人口が増えるというならば、大規模開発も可能となり、大きな経済効果を期待できる。

もうひとつ、妄想を膨らますとするならば、あおなみ線が中部国際空港側に乗り入れることで、名古屋貨物ターミナル~中部国際空港間の貨物コンテナ輸送も可能になる。日本国内の貨物鉄道ネットワークが、中部国際空港で世界の物流ネットワークとつながる。これも名古屋市、愛知県の経済に寄与するかもしれない。

先日の台風21号の影響で関空連絡橋にタンカーが衝突し、空港機能が麻痺したことから、関西国際空港のバックアップ機能としても中部国際空港の第二滑走路整備が注目されている。さまざまな思惑が絡む中、来年度からの検討に向けた新組織や経済界、そして今後の名古屋鉄道の動きに注目したい。