1974年に公開された同作品は乗り物パニック映画の傑作だ。同時期にはロサンゼルスを舞台にした『大地震』、ビル火災を扱った『タワーリング・インフェルノ』、航空機の遭難を描く『エアポート'75』などがあり、パニック映画ブームだったといえる。『サブウェイ・パニック』は、都市の生活者にとって身近な地下鉄が舞台であり、実際にニューヨークの地下鉄でロケが行われただけあって、観客を驚かせただろう。ちなみに2009年公開の『サブウェイ123激突』はこの作品のリメイク版である。
『サブウェイ・パニック』FOX&MGMカルト・コレクション第9弾(20世紀フォックス ホームエンターテイメント ジャパン)。DVD発売中。価格は3,990円 |
乗務も犯罪も体調がいいときに実行しよう!?
舞台は冬の午後のニューヨーク。新米車掌が先輩車掌から指導を受けている。その列車に風邪気味の男(マーティン・バルサム)が乗り込んできた。辺りを見回し、運転席のそばの席に陣取った。前方が見える窓では男の子の兄弟がはしゃぐ。日本もアメリカも、乗り物好きの子供の行動は同じだ。次の51丁目駅で、帽子、コート、黒縁メガネの男が乗り込む。風邪気味の男と同じようないでたち。その1人(ロバート・ショウ)がホームから運転台に近づき、運転士にピストルを見せた。列車ジャックが始まった。
ニューヨーク地下鉄公安局勤務のガーバー(ウォルター・マッソー)は、日本から来た見学客に手を焼いていた。そんなとき、6号線の電車「ペラム123」の不穏な動きを知らされる。列車ジャックだ。犯人はニューヨーク市に100万ドルを要求する。期限は1時間。その知らせは支持率低下に悩むニューヨーク市長に届けられる。彼もまた、犯人の1人と同様、風邪でダウンしていた。
一方、犯人グループのうち1人は地下鉄の運転士経験者と判明。ガーバーは、咳き込む犯人を気遣いながら交渉を続ける。しかし交渉のさなか、管制職員と新米車掌は殺されてしまう。緊迫する状況下、ガーバーや他の警察官たちがいる地上と、犯人グループの地下の状況が互いに見えない。犯人はどこから脱出するのか……。
実際のニューヨーク地下鉄で撮影というリアリティ
パニック映画では実際の地名が登場しても、ロケ地を変えたり会社名を変えたりする。これは舞台となる会社の評判に配慮したり、模倣犯を防ぐためだ。だがこの作品では、原作小説の通り、実際のニューヨーク地下鉄でロケが行われた。交渉は難航し、多額の保険もかけられたというが、ニューヨーク地下鉄は英断だった。映画エンターテイメントに理解のある国・都市ならではのことだろう。
2009年のリメイク作品『サブウェイ123 激突』も、ニューヨーク地下鉄で撮影された。ただし、その前に作られたTV版リメイク『サブウェイ・パニック 1:23PM』はカナダ・トロントの地下鉄だったそうだ。なお、邦題は3作とも異なるものの、原題はすべて『The Taking of Pelham One Two Three』である。
実物でのロケだけに、ニューヨークの地下鉄風景が垣間見られて面白い。冒頭の部分ではホームに自転車を押して歩く若者がいて、「ニューヨーク地下鉄は自転車持込みOKなんだな」と思うし、「地下鉄は右側通行だな」「第3軌条式の古い電車だから、一瞬だけ車内が暗くなるな」とか、司令室の路線パネルを見て「複々線があるんだ」などと、鉄道ファンの知識欲も大いに満たされる。
ハイジャックされた「ペラム123」は、ニューヨーク地下鉄6号線の列車だ。6号線はニューヨーク市北部の「ペラム・ベイパーク」とニューヨーク市の中心マンハッタンの市庁舎を結ぶ路線だ。所要時間は60分。事件が起きる28丁目駅はペラムから数えて31番目の駅で、ダウンタウンのパークアベニューにある。ここで乗っ取られた列車は少し走って停車し、先頭車両を切り離す。犯人たちが乗っ取る列車はこの1両のみで、後部車両の乗客たちは解放される。
筆者は同作品をかなり昔にテレビ放送で見た。DVDであらためて見ると、放送ではカットされた部分が興味深い。古い映画のDVD版は、吹き替え音声にテレビ放送版が使われている。だからカットされた部分は音声がなく字幕になるわけだ。
同作品では東京の地下鉄会社、おそらくは当時の営団地下鉄の重役4人が登場する。彼らは「英語がわからずニコニコしているだけ」という、典型的な日本人として描かれている。これがテレビ放送ではカットされていたのだ。放送時間の兼ね合いもあるだろうけれど、「営団地下鉄に配慮したんだろうな」なんて想像してみるとおもしろい。
映画『サブウェイ・パニック』に登場する列車・駅
R22 | 「ペラム123」に使われいる車両。セントルイス車両製造会社で1957年から1958年までに450両が 作られた。おもに7番街線(2号系統)に投入され、その後42ストリートシャトル(6号線系統)にも 使われたという。車両番号は7300~7749。切り離された先頭車両は序盤が7339、中盤は7434。 このくらいはステッカーで統一できただろうに詰めが甘い。なお、R22は1987年引退。保存車両は メイン州の博物館とニューヨーク交通博物館にあるとのこと |
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ペラム123 | 劇中でも説明されるように、列車番号は始発駅と発車時間の組み合わせ。つまりこの列車はペラム発 1時23分。ニューヨーク市営地下鉄は12時間制を採用しているらしい |
59丁目駅 | 犯人のひとり「グリーン」が乗車。近くにソニー・プラザがあるが、劇中の地上の場面はほんの一瞬 |
51丁目駅 | 車掌指導員が下車。他の犯人グループが乗車する。セント・バーソロミュー教会の最寄り駅として 知られている。もっとも地上は描写されない |
28丁目駅 | ハイシャックが始まる駅。ダウンタウンにある。終点まで残り7駅。劇中では終点に至らず環状線に 入ったと翻訳されているけれど、おそらく4号線か5号線に進入したと思われる |