2011年に公開された『探偵はBARにいる』は、東直己原作の小説『ススキノ探偵シリーズ』の映画化作品だ。札幌市のススキノといえば路面電車。現在公開中の映画第2作では、路面電車内でのアクションシーンもあるという。では、第1作では路面電車はどう描かれているのか……、と思ったら、物語の重要なポイントはむしろ函館本線の電車にあった。

『探偵はBARにいる』では、快速「エアポート」や札幌市内の路面電車が登場

謎の女からの依頼は料金先払い、生命の危険あり

札幌、ススキノのBAR「ケラーオオハタ」を事務所代わりにする常連の探偵(大泉洋)に、「コンドウキョウコ」という女性から電話がかかってくる。探偵の口座には、すでに同じ名義で10万円が振り込まれていた。依頼は、「ある人物を訪ねて、ひとつ質問する」という簡単な内容だ。ところが、その行動がきっかけとなって、探偵は半殺しの目にあってしまう。

コンドウキョウコは理由を明かさないまま、すでに次の依頼料を振り込んでいた。探偵は断ろうとするが、自分を痛めつけた連中へ一矢報いようと考え直す。その背後には、札幌に手を伸ばす裏社会と殺人事件があった。

真実に近づく探偵の行動に、過去のふたつの事件がリンクする……。

快速「エアポート」で「小樽から札幌まで約30分」の壁

鉄道を題材としたテーマではなく、主人公の探偵も相棒の高田(松田龍平)のポンコツ小型自動車で移動するため、鉄道風景は少ない。ただし、札幌・ススキノの風景として札幌市電は欠かせないアイテムなので、冒頭などですすきの電停付近が何度か出てくるし、探偵が路面電車で移動する場面もある。この場面はもちろん電車の貸切で撮影された。乗客はすべてエキストラ。DVDに収録されたスタッフのコメンタリーによると、背景の男子高校生は隣の女子高校生に告白するという設定で、探偵がその会話を盗み聞きしているそうだ。

重要な場面のひとつ、小樽駅

喫茶店で探偵と高田が打ち合わせする場面では、窓の外で路面電車がすれ違う。この場面も店内のスタッフと外のスタッフの無線連絡で、電車が走るタイミングを選んで撮影されたという。登場する場面は少なくても、スタッフの路面電車へのこだわりが感じられる。

ただし、第1作で重要な鉄道シーンは路面電車ではなかった。ストーリーの後半、探偵が小樽へ向かい、戻ってくる。札幌で起きたすべての事件が、札幌を離れた探偵によって、ひとつの仮説が組み上げられる。札幌と小樽は快速「エアポート」で約30分。わずか30分だが、探偵にとっては動かしがたい壁となってしまった。

帰りの電車の中、もどかしい思いの探偵が思わず叫ぶ。

コメンタリーによると、そのセリフはアドリブだったそうだ。派手な場面ではないものの、依頼人の真意と探偵の優しさが交錯する場面といえる。小樽と函館本線、721系電車がこの映画の重要な場面のひとつになっている。小樽といえば、市内に石原裕次郎記念館がある。同作品は小樽の場面の功績によって(?)、石原裕次郎賞を受賞した。

映画『探偵はBARにいる』に登場する鉄道風景

札幌市電210形~240形 冒頭に登場。背景のため型式番号までは読み取れない。車体下部が広く、丸みを帯びた札幌市電独特のデザイン
札幌市電M100形 喫茶店の背景にて、窓の外を通過する
札幌市電8500形 後半、ススキノの夜景で電停付近を走行。スタッフロール背景では8522の車番が読み取れる
JR北海道721系電車 探偵が快速「エアポート」で小樽へ向かい、帰ってくる
小樽駅 探偵がコンドウキョウコの依頼で訪ねる