前回はプレゼンテーションで、説得力を上げるコツについてお伝えしました。

さて、「プレゼンで勝ちたいのですが、どうすればいいですか?」という質問をよくいただきます。そこで今回はプレゼンテーションで勝つための構成について説明します。

  • プレゼンテーションの構成を理解できていますか?

プレゼンテーションに必要な構成

まず、あなたの状況把握をしましょう。下記チェックリストで、あなたのプレゼンテーションはどうかをチェックしてみてください。

□時間オーバーすることが多い
□プレゼンテーション後、(聴き手に)アンケートをとらない
□自社が提供できる内容を話すことが何より大事だと考えている
□ライバルのプレゼンテーションを見たことがない
□お客さんの課題を明確に把握していない
□市場の競争関係を分析したことがない
□資料は自分で作っていない

チェックが4つ以上の方は、プレゼンテーションでライバルに勝てる可能性が低くなっています。

構成が勝負をきめる

プレゼンテーションで勝つには、「戦わずして勝つこと」を考えることです。そこで内容の構成が大事なポイントになります。構成で大切なことは自社(あなた)しか語れないことをテーマにして語ることです。

「自分しか語れないことなんてないよ……」と思われるかも知れません。そこで自分しか語れないことを導き出す「バリュープロポジション」の考え方が参考になります。

構成に必要なバリュープロポジション

バリュープロポジションとは、「お客様が求めていて、自分たちだけが提供できる価値」のことです。マーケティング戦略では、このバリュープロポジションがあらゆるマーケティング施策の出発点になります。

プレゼンテーションも同じです。自分たちができることだけを話しても、聴き手が知りたいことでなければ、相手には届きません。さらに相手が聴きたいことでも、ライバルも語れるメッセージであれば、聴き手は感動しません。

聴き手が求める内容を、自分しか語れないメッセージで話せば、聴衆は喜んであなたの話を聞くようになり、ライバルに不戦勝できるのです。

だからこそ、自社しか語れないバリュープロポジションを見極め、あなた自らがバリュープロポジションを語ることが必要なのです。

  • バリュープロポジションを考える

バリュープロポジションの考え方

ではバリュープロポジションはどのように作ったら良いのでしょうか? IT企業の営業Aさんを例に考えましょう。

Aさんはあるお客さんに「自社のシステムを売りたい!」と思っています。しかし他社もお客さんにシステムを売り込もうとしています。

お客さんの担当者は「他社の説明は、ITの専門用語が多くて分かり難い。でもITは必要だから聞いている」と考えていることが分かりました。

Aさんはエンジニア出身でITの専門知識があります。しかも「Aさんの話はわかりやすい」と定評もあります。

この場合のAさんのバリュープロポジションはこうなります。

(1)お客さんが知りたいこと:ITは苦手だけど、必要だから聞いている。もっと分かりやすい説明ないかな?
(2)ライバルが語れること:ITの専門用語を多用した説明。
(3)営業Aさんが出来ること:エンジニア出身でITに詳しい。しかもわかりやすく説明できる。

Aさんのバリュープロポジション:中学生でも分かる言葉で、ITを面白おかしく語ることができる。

  • Aさんのバリュープロポジション

聴き手が何を期待しているかを理解した上で、バリュープロポジションを活かした構成を考えれば、戦わずしてライバルに勝つことができるのです。

しかし完璧にバリュープロポジションを作り、上手にプレゼンテーションをしても、10人中8人以上の人たちが「致命的な間違い」をして、お客さんの満足度を一気に下げています。しかもほとんどの人がそれに気づいていません。

構成はシンプルで短めに

ある食品業界のトップ会見でのこと。有名な外資系コンサルタント会社から社長に抜擢された、プロ経営者でした。話は上手でしたが、30分間のプレゼンテーション予定が1時間かかり、予定された質疑応答はカット。隣に座っていたお客さんは「なんだ〜」とがっかりしていました。

また、私の知人が講演会をしたときのこと。話はうまくいってましたが、予定時間を7分超過。終了後アンケートを見せてもらいましたが、いつもより低評価で、「7分過ぎていた。時間は守るべきだ」というコメントもありました。

時間をオーバーすれば、お客さんの満足度は一瞬で下がります。しかし話し手は緊張したり、つい熱が入ったりして、時間がおしても「準備した内容を全て伝えなくては!」と考え、悪気がないのに時間オーバーしているケースがほとんどです。

「お客さんの大事な人生の時間をお預かりしている」という最も大切なことに気がついていないのです。

こうして、ほとんどのプレゼンテーションは予定時間を過ぎています。いくら内容が良くても時間超過すれば、意味がありません。逆に余裕をもって短めに終わるだけでも、聞き手の満足度は上がるのです。

聴き手にとっては、90分が60分になっても満足度は変わりません。勇気を持ってメッセージを精査し、全体構成をシンプルにすれば格段に分かりやすくなります。

プレゼンテーションが長くなりがちな方は、短めに資料を準備するだけで、印象は何倍にもアップするはずです。

執筆者プロフィール : 永井千佳(ながいちか)

広報・IR・リスクの専門メディア月刊「広報会議」では、2014年から経営トップ「プレゼン力診断」を毎号連載中。さらに、NHK総合、週刊誌「AERA」、文化放送、J-WAVE、TOKYO FM、雑誌「プレジデント」、日経産業新聞など、さまざまなメディアでも活動が取り上げられている。主な著書に、『DVD付 リーダーは低い声で話せ』(KADOKAWA 中経出版)がある。