人事とは人材を活用して所属する組織を活性化させるのが仕事。そう聞くと、多くの人は「人事の●●さんは人を見抜くプロだから」と思うようだ。

大嘘です。そんな千里眼を持っていれば、なにも苦労しない。人の悩みは永遠に尽きない。そんな人事がそれぞれの方法で見出した彼ら独自の視点とは?

  • 人事独自の視点?

今回紹介する会社は、カリスマ的な経営者がいて業績は右肩上がり。社風はかっちりして、採用も理にかなった、コンサルタントからするとよい意味で手のかからない中堅IT企業だ。

採用情報の伝え方

訪問先の一幕

彼らのニーズは「堅実よりスペシャルな才能」という流行りの採用基準ではなく、堅実で人柄がよければOKという古風なもの。もちろん一定の能力を有するのは大前提で、説明会→適性検査→複数回の面接→最終面接というオーソドックスな選考で進んでいく。

説明会では業界の位置づけ、事業内容、育成のプランや方針について柔らかく解説。若い人の多い会社なので、説明会に参加するスタッフ(既存社員)は多め。いろんな人に会ってもらうのもコンセプトの一つ。社風への理解もよりはかどる。

それでも最近は説明会に応募者を集めづらく、広報のコストもかかっているとのこと。

自分は下手な広報より説明会参加者に1,000円の金券を無条件で配るほうが早いと思ったことが何度もあるけれど、この業界(採用コンサルティング)そのものがシュリンクしてしまうのであえて話さなかった。

また以前と比較して、(若者が)海外へ行く機会が少ないこともあって、あえて海外研修などをちらつかせるのも良いかもしれない。入社5年目に一人15万円かけても、早期退職を防ぐことまで考えれば元が取れるような気がする。

採用試験は大事

説明会の後はお約束のテスト。 ITの適性はIT向けのテストでしか測れない。技術的支援のできないプロマネ(プロジェクトマネージャー)なども稀に見るけれど、大体はろくでもない結果をうむことになる。

  • 技術的支援のできないプロマネ

技術的裏付けなしにプロジェクトの調整などできないし、机上の空論からどれだけの悲劇が生まれてきたことか。ここは強く推奨しているし、実際この会社では導入いただいている。

採用面接は複数回

最初は若手スタッフと採用担当が面接に入る。あまりにも非常識な人や向いていない人は、ここでスクリーニングされる。同時に意欲形成も必要。ただし、意欲形成はあまりうまくいっていない。

  • 常識? 非常識?

意欲形成の基準は合格者が次の選考に進む比率で決まる。他社の選考の兼ね合いがあるにせよ、合格比率が80%をきるケースは自分の経験上改善の余地があるものだ。

2度目の面接では人事部長も加わる。疑問点が残ればもう一度面接が増えることもある。これは双方のためによい仕掛けだと思う。

面接会場へのアクセスが悪いと難しいが、都心の企業ならそれほど障害はないし、今はメッセンジャーアプリなどで遠隔の面接も可能。一度でもあったことのある人なら面接結果はネット越しでもそれほどぶれないことが多い。

採用基準は驚きの決め手

そして最後や役員も参加する最終面接。選考プロセスの分析をすると、どこの会社でも最終面接というのは一つの基準にはなかなか収まらない。そこまでにいい人を絞り込んでおいて、あとは経営者の好き嫌いで選ぶというがどの企業でもセオリーだろう。

「最終面接には魔物が住んでいる」という応募者が恐れる理由もそこになる。あるとき分析報告会のとき直接その経営者に面接の基準を聞いてみた。

自分「最終面接の基準はどのようなものですか?」
社長「ははは、そんなの運です運」
自分「はぁ」
社長「ツイてない奴がおると会社も暗くなるし、能力だけでも成功しない。最後は運がものをいうのだよ」
自分「なるほど運ですか、それはなかなか基準にあらわれないわけだ」

松下幸之助の『人事万華鏡―私の人の見方・育て方』(PHP研究所)でも運は大切と書いてあったし、欽ちゃん(萩本欽一さん)が柳葉敏郎をオーディションで選んだエピソードにもそんなこと書いてあった。
※『ダメなときほど運はたまる~だれでも「運のいい人」になれる50のヒント』(廣済堂出版)

スポーツの世界でも才能があって努力家、それでも結果が残せる人と残せない人はいる。差をつけているのが「運」だとすると重要な能力だと思う。

  • 運を見抜く?

それにしても人の運を見抜く面接力はスゴイことだなぁと思う。誰にでも真似できるものじゃない。会社も右肩上がりで、その秘訣がここにあるのかもしれない。

しかし、社長が世代交代したら、どうやって最終面接で運を見るのだろうか。

著者プロフィール

日本エス・エイチ・エルの中の人
人と仕事、人と組織のマッチングをおこなうための測定ツールを開発、提供しています。人事部門からの無理難題は大歓迎。もし自分がどこかの採用担当なら使うツールは当社一択です!