介護生活が最大の未知数

基本的な生活費を把握してもなお、未知数なのが「介護」です。最大の要介護5の方の1割負担は約3.6万円です。介護保険の限度額を超えて介護を受ける方の比率はわずかなようですので、自宅で介護を受ける分には費用は想定できます。内閣府の平成28年版高齢社会白書によると、平成25年度の75歳以上の要支援率は8.8%、要介護率は23.3%です。

いつ・どんな介護が必要になるかわかりませんが、75歳から80歳くらいは要支援2や要介護1で月々1.5万円、90歳くらいまでは2.5万円/月、平均余命を超えたら要介護5になると仮定すると、生涯当たりの介護負担は1人につき800万円以上必要です。ただし、その他の生活費はあまりかからなくなるでしょう。

しかし、施設に入居するとなったら、相当の費用を覚悟する必要があります。夫婦のどちらかが施設に入居となると、入居金だけでなく月々の生活費も倍増するでしょう。介護付きの有料老人ホームの場合は入居金800万円、月々の費用25万円程度を用意しないといけません。

医療費の計算

高額療養費制度によると、70歳以上の1人当たりの外来の自己負担限度額は、年間14万4,000円(収入区分「一般」)です。75歳以上の後期高齢者医療制度の場合は、世田谷区では同じく年間14万4,000円(収入区分「一般」)、手術および世帯全体では5万7,600円/月で多数回は4万4,400円になります。

手術を除く1人当たり治療費限度額は、70歳から30年間で432万円です。この金額に手術代や差額ベッド代、健康保険の対象ではない治療費などを加えて算定してみてください。

資源に恵まれた国での老後

「老後の準備」を思案するとなると誰もが気が重いでしょうが、私は広く大きく構えればよいと思います。日本は気候もよく、水が豊富で海に囲まれ、えり好みしなければ、魚資源に困ることはないでしょう。小さな庭でも自分たちの食べる野菜はある程度作れます。基本的には恵まれた国なのです。

私自身は田舎に小さな小屋が借りられれば、老齢基礎年金(約6.5万円/月)だけで夫婦でも単身でも、日々の通常の生活は半自給自足的に考えれば暮らしていけると感じています。そのうえで、より暮らしの可能性の範囲を広げるため、できることを着々と進めればよいのではないでしょうか。

■ 筆者プロフィール: 佐藤章子

一級建築士・ファイナンシャルプランナー(CFP(R)・一級FP技能士)。建設会社や住宅メーカーで設計・商品開発・不動産活用などに従事。2001年に住まいと暮らしのコンサルタント事務所を開業。技術面・経済面双方から住まいづくりをアドバイス。