若い世代のビジネスマンにとって、社内外でのコミュニケーションが悩みの種である人は多い。そんな人にもってこいなのが『お笑い』のスキルである。

  • 自分らしさを演出する方法

    元芸人でベンチャー企業の代表を務める、中北朋宏氏

ここでは、芸人として6年活動するもトリオを解散。その後、新たな人生のスタートとして企業コンサルや人事業務の経験を積み、芸人向けの人材サービスやお笑いを取り入れた企業コンサルを行う「芸人ネクスト」の代表取締役社長・中北朋宏氏に『スベらない仕事術』を聞いてみた。第6回のテーマは「自分らしさを演出する方法」。

自分らしさは『守破離』で磨く

前提として「自分らしさは自分の中にあるものだと思います」と中北氏は言う。「自分を探しにインドへ行く人をたまに見かけますが、自分が見つかりました! って人は聞いたことがありません」

確かにインドに行って自分で見つけるのは難しそうな気がする。では、どうすればいいのだろうか。

「それは『守破離』です。お手本を真似することで、自分らしさは作られていきます。お手本は『自分がなりたい』と思った相手です。そう感じるのは価値観が似てるからなんです。自分の中にあるからこそ、自分に影響を与え、心に刺さるわけです」

守破離とは剣道や茶道の修行の段階のことを指す言葉。「守」は師の教えを守る段階、「破」は他の師や流派の教えについて良いものを取り入れる段階、「離」は自分独自の新しい流派を生み出す段階のことを言う。

「真似をするというのは、完全にコピーを目指すのとは違います。全てを目指す必要はありません。共感する部分だけを真似るということです。他の要素は別のお手本を探せばいい。『どうしよう、どうしよう』と悩んでいる時間は無駄です。とにかくやってみる。それが重要です」

人は誰しも原石なのだと自覚すべきである。磨かないと光ることはできない。中北氏は、自身のキャラクターについて、こう語る。

「僕は『小説のような人生を歩む』をモットーに人生を歩んでいます。迷った時の判断軸として、僕の読者たちが面白いと思う選択肢を選ぶんです。『芸人を諦めたからアルバイトします』という小説は誰も読む気が起こりません。だからこそ、『就職しました。コンサルティングで部下は東大出身です』『独立して社長になりました』と、流れを聞くだけで、次はどうなるんだろうとワクワクさせたいと思っています」

選択の積み重ねが、自分のキャラクターを作り上げていくのだ。

キャラクターは自覚すれば武器になる

中北氏は、自身のキャラクターとフリの関係性について話し始める。「自分のキャラクターも、自分自身が気づかない間に相手のフリになっていることがあります。例えば、太っていること、薄毛なことなどです」

自身のキャラクターを理解することは、スベらない話術を使いこなすうえで強みになり、フリはどんどん強化される。では、どうやって自身のキャラクターを把握すべきなのか。

「自分がどんなキャラクターなのかは、他人の中から見つかります。他人と会話をすれば、自分の尖った部分が見えてきます。人と違うところこそ、自分のキャラ。自分の価値は自分で決めるのではなく、他人が決めるのです」

尖った個性を研ぎ澄ましていく作業は、自分の何が尖っているのかに気付くところから始まるのだ。

中北氏は「『ジョハリの窓』で登場する4つの窓のひとつ『盲点の窓』が大事です」と話す。『ジョハリの窓』とは心理学用語。人間関係をスムーズにするためには、この4つの窓を操る必要がある、という概念だ。4つの窓とは以下の通り。

・自分自身が知っていて他人も知っている『開放の窓』
・自分は知らないが他人は知っている『盲点の窓』
・自分は知っていて他人は知らない『秘密の窓』
・自分が知らず他人も知らない『未知の窓』

周囲から自分がどう思われているかを知る作業が、自分らしさを把握する上で最も大事なのだ。それを踏まえて、フリを自己演出する。

「僕の場合は元お笑い芸人のフリがあります。相手に『コイツ、ビジネスを知らないんじゃないかな?』と思わせるフリです。だから、ちゃんとスーツを着るようにしているんです。白いシャツに紺色のネクタイのコーディネートもお決まりです」と中北さんは、ファッションも自分を演出するうえで重要なツールだと話す。

「以前、会社で勤めているときにネクタイが黄色の日に比べ、紺色の日は受注率が20%もアップしていることに気付きました。それからずっと紺色のネクタイ。ちゃんと真面目なビジネスマンであることをアピールするだけで、元お笑い芸人のフリが効いてオチになるわけです。そして、真面目なビジネスマンのオチは新たなるフリにもなります。自己紹介で大きな名刺のボケを出すと、それが成立して笑いになるんですよ」

中北氏の名刺は、なんとA4サイズなのだ。さらにフリとオチの話は続く。

「名刺が大きいというフリのあとに、真面目なことをあえて伝えます。『名刺が大きいのはターゲティングです』と。『この名刺に対してノーリアクションな会社はうちのターゲットじゃない』と戦略的なことを言うと、すごく相手に刺さります。さらに、ここでリアクションが大きい人にはこう言うんです、『今日はいい商談になりそうです』と。すると向こうも喜んでくださいます」

全ては自分のキャラクターを把握しているからこそできるテクニックだ。

理想の自分らしさを演出するには

自分のキャラの把握方法は理解できた。だが、そのキャラが自分の求めるものでなければ、どうすればよいのか。

笑いには順番があり、流れがある。初っ端から爆笑をとりにいっても、不発に終わることが多い。それは的が外れているからだと中北氏は言う。「例えば『小学生の好きな食べ物といえば?』という問いに対し、ボケなければ『ハンバーグ』や『オムライス』。ちょっと外すとするなら『塩辛』ぐらいが妥当。ここでいきなり『養命酒』までいくと外しすぎでウケません」

この仕組みから考えると、理想のキャラとして振る舞ったときに、今の自分のキャラからあまりにかけ離れていると信頼を得ることができないということがわかる。「そんなときは未来から見た自分を考えて、自分の理想のキャラクターを演出すればいいんです」と、中北氏は言う。

「ちゃんと理想の自分に近づいているかどうかは、他者の評価と自分の評価の両輪から知るべきだと思います。だから理想のキャラを目指して積み重ねていけば、着実に近づくことはできます。かけ離れすぎていれば難しいかもしれませんが、必ず理想の自分らしさは作れますよ」

そう、自分らしさは見つけるものではなく、作り上げるものなのだ。