何年か前まで、私には「使いっぱのジョージ」という便利な生き物がいました。いや、べつに飯を奢らせたり車出させたりしたことはない。むしろ奴が学生のころは奢ってやったし、車持ってるのは私のほうだったし。じゃあなんの使いっぱかというと、精神安定剤的な。

例えばジョージに電話をしたとき、留守電だとかになると「バーカバーカ!」とメッセージ(?)を入れておく。するとジョージから「どうしました? おなかが空いているのなら、7時前後にかかってくるはずだから、あの時間にあの留守電ってことは、男ですねっ!? いつにしますか?」と速攻電話がかかってきたものだ。

そう。ちなみに今、あらぬ妄想をしている男子は反省してほしいが、私は彼氏とうまくいかなくなったり、別れたりするたびにジョージに泣きついていたのだった。逆に言えば、ジョージがいたから心おきなくレンアイができたとも言える。恋が終わるときは痛いもんだ。心がすれ違うこと、ひとりになること、夢見ていたキラキラの未来が壊れて、淋しくて悲しくて、振られたときなんかは、自分の存在価値さえ疑ってしまう。そんなときに、一番効くのが男薬。しかも、エロの絡まない男薬(見目良かったらなお可)は、最高に効く。ジョージは、本当に最高の薬だった。

キャンディにも、男薬が登場する。アルバートさんだ。ニールやイライザにいじめられたとき、アンソニーが死んだとき、タイミングよく現れてはキャンディを慰めて帰っていく……便利だ。しかもこのアルバートさん、記憶を失って、ついついキャンディと同棲なんかしてくれる……もちろん、エッチはなしだ。少女漫画だから。

『きみはペット』でも、同棲しているのはペットのモモ(イケメン男子)だが、レンアイするのはハスミ先輩とだった。会社でのストレスを解消してくれるのは、ハスミ先輩ではなくモモだった。ドキドキもするけど、痛いことも多いレンアイは外でやって、家には癒しがあるなんて、夢のような生活だ。エロの絡まない男薬は、傷もつかない、セックスという代償も支払わなくてもいい最高の癒しなのである。

ちなみに同棲というと、『マリーベル』のマリーベルも、彼女に惚れ従うジュリアンと同棲を始める。が、どうやらなーんもなかったようで、ある日思いあまったジュリアンがマリーベルを押し倒すと、天地もひっくり返るほどの大騒ぎをし「ロベールならこんなことしない!」などと初恋の男を引き合いに出されて拒絶されてしまう。そりゃロベールとあんたが一緒だったころは10や12の子供のころだったんだから、なんもしなかったでしょうよ。しかし同棲までしといてイヤだとは、なんと勝手な。しかし少女漫画ではそれが許されるどころか、拒絶こそ正義なんである。

引き替えアルバートさんは完璧な男薬であるため、余計な劣情はもよおしません。テリィと本格的に別れることになり、傷心のキャンディはタイミング悪く、親友のアーチーやアニーにその胸のうちを告げることができなかった(ステアが出兵しちゃって大騒ぎだったのだ)。そこでキャンディは思う存分、アルバートさんの前で泣く。いくらレンアイで痛い目にあったって、男薬があるならなんぼでも来いじゃないかと、ジョージがいたころの自分を思い返す。

『きみはペット』のドラマの最終回は、グダグダで気持ちの悪いオチだったけど(人間的成長が少女漫画の基本であるが、ドラマのラストは停滞でしかなく、正直萎えた)、漫画ではスミレとモモが結婚することになる。これは少女漫画的にはかなり正しい結論である。だって、さんざん自分を癒してくれた、自分をさらけ出せた相手なんだもん。一緒になったら、そりゃ幸せだよ。ということから、仰天のラストを迎えた『キャンディ・キャンディ』だが、私的にはアルバートさんとくっつくのかなーと妄想しているのである。

ちなみに、使いっぱのジョージは、いつしか彼がひどく人を見下したような、バカにした態度を取るようになったため、縁を切ってしまった。私が少々甘えすぎたのかもしれないが、現実はこんなもんである。
<『キャンディ・キャンディ』編 FIN>