ここ最近、男から説教されることが何度かあり、相当な勢いで辟易した。あまりに男が説教好きのようなので、若い娘にはそういうのが好きだという人もいるのかと、現役高校生に説教男が好きかと聞いてみた。すると「えーっ、いやですよ!」だそうだ。私の周りにも説教され好きはいないし、全体的に女の傾向として「説教されたい」と思ってる様子はないようだ。

そこで男友達に「男は何故説教するのか」と聞いてみた。すると「それはね、『わー、すごーい、勉強になりました~』とか言われると、男は得もしれぬ快感を得るから」だそうだ。ここでひとつわかるのは、例え男が女といて得もしれぬ快感を得たとしても、それがすなわちモテにつながるわけではないことだ。刹那的な快感は得られるが、女に嫌われるリスクが高いことを考えたら、快感は違う方法で得たほうがいいかと思うが、どうだろう。

では女たちが、どのような男に快感を覚えるか。そりゃ森太郎さまや竜助だ。草食と肉食という違いはあれど、どちらもうまくいったら女として本望というくらい、いい男である。

まずは森太郎さま。暴力反対、いつも本を抱えているようなインテリくんである。幼なじみの美少女、万里子のことが好きなのにもかかわらず、遠くで見つめるのが精一杯。しかし森太郎さまは、「ここぞ」というときになると、バイキルトがかかったように激しく行動するのだ。お卯野が命の危険にさらされたときには大げんかもものともせず、万里子が自分に気があると理解した瞬間プロポーズ。状況判断が的確で体力温存型というか、こういうところにも非常に知性を感じるのである。

そして、アメリカへ医学を学ぶために留学に行くと、日系移民たちの恵まれない状況に胸を痛め、勉学を放り出して彼らの診察に駆けつける。万里子が竜助と結婚させられそうになり、助けを求めて連絡をよこしてきたときには、「勉強を途中でやめるわけにはいかない」とかいってスルーだったのだが、人の命に関わる困り事には、簡単に志を折るようだ。万里子が「マジ死ぬかも」というSOSを出していたら、さくっと帰ってきてくれたかもな。ともかく普段はむしゃむしゃ草食ってるくせに、必要になったら狩りもするという姿勢が、心の強さを伺わせて、かっこいい。

一方の竜助。人がよくて大して稼がない草食系の森太郎さまに比べて、成り上がり者の竜助は、たった数年で貧乏小僧が莫大な金持ちになる。そして万里子の実家が窮地に立ったときにはポンと援助をして、その代償として万里子を嫁にもらう。やり方は人買いみたいだけど、その不器用なところがまたカワイイのだ。

力でバッタバッタといろんなものをなぎ倒すような男であるのに、万里子がうんと言うまで手を出さない。なんかの病気なんじゃないのか。しかも実家を継いで事業をしたいという万里子に、厳しい心構えを約束させつつ許可する。単なる人買いいばりんぼうではなく、理解もある、そして辛抱強い男なのだ。こんな男に惚れられたいものである。

そして辛抱ご苦労、万里子は竜助に強く惹かれていく。男子諸君、惚れた女がいたら、数年ひとしきりがんばってみたまえ。同時に成り上がってみたりして金持ちになったら、鉄板でものにできるはずだ。二女追う者は一女をも得ず。一途に勝る武器はないのである。

さて、そんな心震えるうらやましい男たちが登場する『ヨコハマ物語』だが、その魅力はそれだけではない。主人公の女二人については次週で述べるとして、もうひとつの魅力は、その奥ゆかしさにある。

物語前半で、何気なくテニスをしているシーンがあるが、実は日本におけるテニスの発祥の地というのはヨコハマなのだ。そのほか、居留地、混血、移民、阿片と、当時の社会問題がさりげなーくてんこ盛り。私が横浜の歴史に敏感なのは、この漫画で得た知識が魅力となって心に居座っているからだ。知識や知性は、アピールするのではなく、あふれ出てくるもの。安易にひけらかしたり、説教したりしては、魅力大激減なのである。
<つづく>