• 今の楽しい時間を大切に守り続けることが、将来への積み重ね

チャンネル登録者数16万人超。暮らし系YouTuberとして活躍する奥平眞司さんは、現在も1DKのアパートに住み、月15万円で家計をやりくりしている。「暮らしを楽しむこと」を最優先に生活を組み立て、ぶれることがない奥平さんの〝哲学〟はどのようにして生まれたのか。学生時代の教えから、今後トライしてみたいことまでを自由に語る。

未来について思い悩むより、いまの楽しさを守りたい

休日は地元の街を探検したり、美術館や映画館に行ったり、一人でふらっとキャンプに出かけたりしています。一人キャンプの行き先は奥多摩や富士山方面などが多く、コンパクトにまとめた荷物を積んで自転車で出発。テントを張って寝床をつくり、焚き火をおこして食事を準備します。ふだんの日常とは勝手が違う料理や寝床はとても新鮮です。思うように行かないことも多いのですが、そんな「ちょっとした不便さ」も楽しんでいます。

旅行は好きですが、僕の場合は観光よりも「見知らぬ土地で暮らすこと」に魅力を感じます。いつかは海外で暮らしてみたいと思っていて、その練習を兼ねて一昨年、台湾に行きました。1週間ほど貸しアパートに住み、近くの市場に買い出しに行って料理をしたり、珍しい食材を探したり。日本との文化の違いや共通点もわかり、とても有意義な旅でした。次はどこに行こうかな。ただ、「楽しく暮らす」ことが前提なので、治安のいい国がいいですね(笑)。

日々の生活、仕事、そしておもてなしや旅行などのイベントごと。ときたま「将来のことはどう考えていますか」と訊かれますが、僕にとっては今の楽しい時間を大切に守り続けることが、将来への積み重ねだと考えています。将来への不安はあまりありません。明日なにが起きるか、どうなるか誰にもわからないし、未来にはいいことも悪いこともあるに決まっています。だから、考えても意味がないことで悩むより、むしろ何があっても大丈夫なように、自分の中に「ぶれない軸」を持ちたいと考えています。

当たり前を疑い、既成概念を壊す

自分の軸となる考え方や哲学を追求したいと思うようになったのは、デザインの専門学校時代です。ある授業で「既成概念を打破する」という視点を叩きこまれました。たとえば、キッチンにはシンクがあって当たり前ではなく、まずキッチンのあり方そのものからゼロベースで発想する。衝撃でした。僕も「リビングにはテーブル」といった概念にとらわれていたのですが、作品が何度も「ダメ出し」されるうちに殻が少しずつ剥がれていきました。当たり前を疑うこと。そんな物の見方を身につけたことが転機になりました。

僕にとって揺るぎない軸は、暮らしを楽しむこと。そのために必要なお金を細かく計算し、最低で月15万円あれば生活が成り立つとわかりました。当初は15万円をアルバイトで賄う予定でしたが、幸いなことに専門学校生の頃から続けていたYouTubeチャンネルが支持されるようになり、卒業から1年あまり経った今では、その広告収入などで暮らしていけるようになりました。でも、いくら動画の閲覧数が増えても「月15万円の家計簿」は変わりません。どんなことが起きても、今の暮らしを維持できるよう生計を組み立てています。

一般に、学校を卒業したら会社で働くのが「当たり前」です。僕が就職しなかったのは、暮らしをゆっくり楽しむ時間を確保したいためですが、もうひとつ、アルバイト時代を通じて会社員には向いていないと悟ったからです。僕は集団の中にいると、どうしても人に頼ってしまいがちな性格。このままでは、本当の意味での自立もおぼつかないと思いました。

日常のワクワクポイントを発見する

僕は人よりストレスに敏感なのかもしれません。ストレスを我慢して働くより、一人のほうが向いていると思ったので、収入も時間も自分でコントロールできるフリーランスになりました。ただ最近は会社員としての働き方も多様化しており、自分に合ったライフスタイルを実現できる仕事が、見つけやすくなっているかもしれません。

もし僕が会社員だったら。やっぱり「ストレス感」があると続かないので、何事にも楽しみを見いだそうとするでしょう。ささやかな楽しみを発見することにかけては筋金入りだと思っていますから、ラッシュアワーの満員電車の中でも、乗客の様子とか車体のデザインとか、何かしら自分なりのワクワクポイントを探しあてると思います。どんな仕事でも、楽しいことはきっとあるはず。ただし無理は禁物です。心が悲鳴を上げないよう、自分を大切にしてあげてください。

暮らしのベースはもちろん、自分が食べて寝て、寛ぐ自宅の空間です。疲れを癒し、次の日のパワーをチャージするために快適な部屋を整えましょう。そして、その入り口となるのがモノ選びです。自分にとって本当に必要なモノ、意味のあるモノを選ぶ行為を通して、自分がどんな人間なのか、あらためて見つめ直すことができると思います。