人の財布が気になるときってありますね。おひとりさまは、いったい、いくら貯めているのでしょうか? そもそもいくら貯めておけば、この先、安心? データを紹介しつつ、これからの貯蓄目標の立て方を考えます。

中央値は100万円、資産がない人も3割強

「単身世帯が持つ金融資産の平均値は700万円」と聞けば、20代~30代のおひとりさまの多くは愕然とするはずだ。「えっ、みんなそんなに貯めていたの?」と。

金融広報中央委員会が行った「家計の金融行動に関する世論調査」の「単身世帯調査」(2012年)によれば、金融資産の平均値は700万円。だが、中央値は100万円となっている。平均値は、ご存じの通り、対象となる人の資産を全部合計して人数で割る。そのため、資産が多い人が何人か混じると平均値は高くなる。

しかし調査によれば、資産のない世帯が33.8%もある。この資産がない世帯も含めて、資産が少ない順に並べて行ったときにちょうど真ん中に位置するのが中央値。単身世帯の資産の中央値は100万円だ。中央値は、より実感に近い数値と考えられている。100万円という数字に安心する人もいるかもしれない。分布においても、資産がある人でもっとも多いのは1万円以上100万円未満の世帯。この調査は、全国の20歳以上70歳未満の単身世帯を対象に行われた。もう少し詳しく世代別のデータを確認してみよう。

単身世帯が持つ金融資産は?

20代、30代ともに金融資産が全くない人が一定割合いる。1人の生活なら余裕があると思われる年収500万円以上の人の中にも資産なしの人がいる。一方、金融資産を持っている人は年収が高いほど中央値、平均値ともに高くなっている。データを見て、ホッとした人、もっと貯めなきゃと奮起した人…、貯めた方がいいのだろうと思いつつも、いまひとつモチベーションが上がらない人もいることだろう。そもそも何のために貯めるのか、目的を再確認したい。

現役時代を楽しみつつ資産形成を

20代~30代の人は、自分の50代以降を想像できるだろうか? 私自身は当時、全く想像できなかった。しかし遠い先のはずが、気が付けば…。イソップ物語の「アリとキリギリス」ではないけれど、季節はめぐり、いつしか秋になっていた。冬ももうすぐ訪れる。若くて人生のもっとも楽しい時期、現役時代を充実して過ごすことは大事だ。そのために必要なお金を出し惜しみしたくないのももっともだと思う。しかし並行して秋から冬に備えることも忘れないでほしい。

寿命が延び、人生が長くなった現在、仕事をリタイアしたあとの生活費をどう賄うかは重要な問題だ。現役時代に収入の一部をコツコツと貯蓄に回し、人生後半に向けて資産形成を行っておかないと、秋風が吹く年齢になったとき、わびしさを味わうことになる。

前出の調査では、資産を持つ目的についても聞いている。もっとも多いのは老後の生活費(47.1%)、次が病気や不時の災害への備え(45.5%)、特に目的はないが資産を保有していれば安心(35%)、旅行・レジャーの資金(24.5%)と続く。

日本には公的年金制度があるが、上乗せして使える自分の資産を持っておくことは、自分らしい人生の後半を生きるために必須だ。また、そんな先でなくても、人生の方向転換をしたいとき(勉強したい、海外に行きたい、しばらく仕事を休みたい、起業したいなど)や、思わぬ災難に見舞われるなどで、まとまったお金が必要になるかもしれない。

まだ一生ひとりと決まったわけではないのだから、いずれ結婚、子育て、住宅購入のためにお金が必要になることも考えられる。資産ゼロでは心もとない。

目安は手取り収入の1.5割~2割

手取りの収入のうち最低1割、できれば1.5割~2割を貯蓄に回していくことを目標にしてみよう。毎月の手取りが25万円なら3万7,500円~5万円。仕事を始めてからリタイアするまでのおおよそ40年間、貯蓄を続けたとすると、元本だけで1,800万円~2,400万円貯まる。税引き後の年利2.4%(3%から20%の税金を差し引き、復興特別所得税は考慮せず)で複利運用すると、元利合計で3,000万円~4,000万円になる。

現在は低金利だが、これから数十年の間には、3%程度の金利は考えられるだろう。もちろん、どんな金融商品を利用するかにもよるし、今考える3,000万円と、40年後の3,000万円の価値は違うはずだ。40年の間に順調に収入が増えたなら、増えた手取りの1.5~2割を貯めて行けば、もっと大きな金額になる。ボーナスが出たらそこからも忘れずに1.5割~2割を貯める。

といっても、まるまる残るわけではない。人生お金が必要なときがあるから、そんなときにはここから取り崩して使うことになる。

仮に手取りの1.5割~2割をコンスタントに貯めながら、必要なときに使い、1割部分は残したとする。1割残るのだから40年では元本だけで現役時代の平均手取り年収の4倍が貯まる。年利2.4%の複利運用ができれば、これが手取り年収の6~7倍になる。リタイア後に生活費として取り崩していくと(公的年金の上乗せとして現役時代の手取り収入の25%を想定)、元本だけで25年程度は持つ計算になる。65歳から25年なら90歳までだ。リタイア後の資金だから安定的に年利1%程度としても、運用しながら取り崩せば、もう少し長く持つ。

これから数十年の間には、世の中も変化し、お金の価値もインフレなどにより今とは異なるだろう。しかし、しっかり働き、そこから常に一定額を貯蓄に回していけば、年齢を経るほど、ある程度の資産が積み上がる。公的年金制度の改正をウオッチしつつ、その時々の物価や、世の中の状況を考慮してお金を使っていれば、悲観することは全くないと私は思う。

40年先なんて想像できない? わかります。では、仕事人生のほぼ中間地点、働き始めてから20年後の40代あたりに焦点を定めて、計画を立ててみましょう。

貯蓄は、手取り収入の1.5割~2割が目安。

仕事やプライベートでも、40代にはこうありたいという目標を定める。

その時がきたら、状況を確認し、後半20年に向けて仕切り直しをする。

では次回は、手取りの1.5割~2割をコンスタントに貯めていくための積立の方法を、紹介します。

<著者プロフィール>

ファイナンシャルプランナー 坂本綾子

20年を超える取材記者としての経験を生かして、生活者向けの金融・経済記事の執筆、家計相談、セミナー講師を行っている。著書『お金の教科書』全7巻(学研教育出版)、セミナー『子育て力のあるお金の貯め方、使い方』『小さな消費者へのお金の教育』など。