日本食ブームが世界で巻き起こる中、同時に注目を浴びているのが日本酒。大人ならたしなんでおきたいお酒ですが、種類が多すぎてどれを選んでいいかわからない人も多いのでは? そんなあなたに朗報です。

今回は10月1日の「日本酒の日」に合わせて、世界で唯一の“きき酒師の漫才師”「にほんしゅ」がシーンごとに外さない、とびっきりの1本を紹介。ツッコミ担当の北井一彰・ボケ担当のあさやんによる軽快な会話で、お酒の味わいはもちろん人につい話したくなる小噺まで教えちゃいます!

キーワードは「水」! 山口県下関市に誕生した日本酒「天美(てんび)」の物語

  • 「天の恵みを醸す」ということから「天照(あまてらす)」と「美禄(びろく)」からひと文字ずつとり命名された日本酒「天美」(写真提供:長州酒造)

あさやん:いろんな職場に日本酒通の上司の人っておるやん?

北井:そうやな。いろいろな銘柄を知っていたり、「純米酒」とか「生原酒」みたいな専門用語にも詳しかったりね。

あさやん:そういうちょっとめんどくさい上司の人を「ギャフン!」と言わせる日本酒が無いかなと思って。

北井:ギャフンと言わせてどうすんねん。お酒に詳しいのはええことやし! アッと言わせて、それをきっかけにさらに親交が深まるみたいな気持ちでいこうや!

あさやん:あ、そうそう、それが言いたかってん。日本酒ってちょっとした知識やストーリーを話しながら一緒に飲むことですごい良い時間を作ってくれるやん。上司と部下の関係性もより発酵され、熟成されるというかさ。

北井:うまいこと言うなぁ。今回は魅力的なストーリーを持ちつつ、洗練された味わいで美味しい山口県下関市の日本酒「天美」をご紹介します!

あさやん:おぉー「天美」か! ええなぁ。

  • 「天美」の長州酒造で杜氏を務める藤岡美樹さん(写真・左)と! 2019年に建設中の酒蔵を見学させていただきました

北井:「天美」の長州酒造さんの親会社は太陽光発電システムなどを手がける山口県の企業、長州産業さんなのですが、過去に手がけていた事業の一環でチョウザメの養殖をされていました。チョウザメの養殖には良質なお水が大量に必要で、山口県内をいろいろと水質調査をしていたところ「ここだ!」という場所に出会いました。その場所にあったのが廃業を考えられていた酒蔵、下関市菊川町にある児玉酒造さんでした。

あさやん:なんとまぁ、読者の皆さんここ大事ですよぉ! ここを聞き逃したらダメですよ! さぁ、北井さん、続きをどうぞ。

北井:おい、話しにくくなる相づちを打つなよ! ブドウの果汁100%で仕込むワインと違って、日本酒は良質な仕込み水を大量に必要とするお酒。いいお水を探していたら酒蔵のある場所にたどりついたそう。これはすごい!

  • 浸漬(お米に吸水させる)の工程。酒造りの序盤からお水は重要な役割を果たします。浸漬はストップウォッチで吸水時間を計るほど緻密な作業です(写真提供:長州酒造)

あさやん:全くの畑違いの企業さんが「水」を接点に酒蔵と運命の出会い! さぁ、続きをどうぞ!

北井:その相づち話しにくいねんって! 児玉酒造さんの蔵元のお話を聞いているうちに「地域にとって大切な日本酒造りという伝統産業の灯を消したくない」と長州産業の社長が一念発起。チョウザメを育てるのではなく酒造に関する免許を譲り受け、酒造りをすることを決意。

あさやん:これがすごいよな! 元々酒蔵を買収して酒造りをやりたいっていう希望を持ってたわけじゃないもんな。

北井:そう、だけど前途は多難。老朽化した酒蔵は取り壊して新築するしかない。さらには誰が製造を担ってくれるのかなど、新設酒蔵には課題だらけ。そこで白羽の矢が立ったのが、香川県の酒蔵で杜氏を務めたこともある経験豊富な藤岡美樹さんだったのです。

あさやん:酒造りに対する情熱を猛烈に感じさせる人よな。

  • 「麹室(米麹をつくる部屋)はここにするつもりです」などと建設中の蔵の説明にも熱がこもります!

北井:そう。美樹さんの酒造りへの情熱はすごいんです。その分、無謀にも見えるこのお話に最初は乗り気ではなかったようですが、社長の本気度が上回り家族で山口県へ引っ越して新設酒蔵の設計から携わることになりました!

あさやん:すごい! 杜氏さんってお酒の味わいの設計はしても、蔵の設計からすることはまず無いもんね。「お水」をきっかけとしたほんまに壮大な物語や!

ほとんどが酒造り初心者の蔵人!? 不安だらけの船出

  • 見事に完成した長州酒造の新設酒蔵! 手前にある和釜は前身の児玉酒造のもの。下関市菊川町で続いてきた酒造りを受け継ぐ思いを表し、オブジェとして活用(写真提供:長州酒造)

北井:さぁ、蔵が建ったはいいものの、新人蔵人さんたちと酒造りを進めていくための仕組みが何もない!

あさやん:そこも大変や。お酒の設計・蔵の設計・酒造りチームの設計。美樹さんよく倒れずに前進されたよなぁ。ほんまに。

  • 蒸したお米に種麹をふりかける美樹さん。米麹づくりは重要な工程です(写真提供:長州酒造)

北井:ほんまにタフよなぁ。美樹さんにそのあたりのお話も聞きました。「ひとつひとつ丁寧に美味しいお酒をつくるやり方を組み立てることが大変で、はじめの頃は仕事が朝4時から夜8時までかかりました。私はこんなお酒にしたいという気持ちはあれども、そのお酒が本当にできるのかという不安があり、1本目を搾る(日本酒が完成する)までは不安でたまりませんでした」とのこと。

  • 酒造りはチームプレイ。ひたむきに頑張ってくれる蔵人さんたちと懸命の仕込み作業が続きました(写真提供:長州酒造)

あさやん:気苦労もすごいなぁ。最初の頃の超ハードワークに加えて、新たな設備や初めて使う仕込み水とか不安な要素が多かったはず。それがどんなお酒に仕上がったんでしょうか。

日本酒ファンからも称賛の声相次ぐ「天美 純米吟醸」はどんな味わい?

  • 洗練されたデザインの白いラベルが美しい。蔵の看板日本酒「天美 純米吟醸」(写真提供:長州酒造)

北井:そして、ついに2020年11月に第1弾がリリース! 2021年にかけてさまざまな製法の「天美」が続々と販売されています。蔵の看板はこの「天美 純米吟醸」。

あさやん:どれどれ、味を伝えなあかんからな。しょうがないから、ちょっと味見させてもらうわな。

北井:お前は飲みたいだけやろ。

あさやん:ふむふむ。香りは派手ではないが、ほのかにフルーティさを感じさせ爽やか。口に含むとぴちぴちっとしたガス感をかすかに感じ、フレッシュで洗練された味わい。白ブドウや白桃のような果実感があるが決して甘すぎず、日本酒らしい優しい甘味・旨味もあるバランスの取れた素晴らしい味わい!

北井:おい、めちゃくちゃええコメントするやないか! えぇ!?

あさやん:常温にしておちょこで飲むのもいいですが、1番のおすすめの飲み方はお酒を冷やしてガラス製の器で飲むことかな。ワイングラスもいいでしょう。爽やかな香りと洗練された味わいがより明確に楽しめます!

北井:確かにそうやな。

あさやん:この洗練された爽やかな味わいにぴたっと料理を合わせようと思ったら、軽やかな旨味と爽やかさがある料理がよさそうです。ゆずポン酢で食べる「てっさ」なんか最高でしょうね! 下関といえばふぐですし、ささみのタタキなんかもいいでしょう。あ、梨・シャインマスカットなどの果物をつまみながらもすごく美味しいと思いますよ。

北井:お前のコメントでめちゃくちゃ「天美」飲みたくなってきたわ!

あさやん:ここで美樹さんからコメントをいただいています。

北井:ラジオのDJか! あさやんに完全に主導権とられた!

あさやん:「お客さまは癒やしや喜びを求めてお酒を飲むので、造り手の私たちがイライラした気持ちで造るとそれがお酒に入ってしまう。だから、自分の一番大切な人に飲んでいただくつもりで酒造りや掃除をしようと蔵のみんなにいつも伝えています」とのこと。

  • 手を抜かない丁寧な仕込みは味わいとして表現され、飲み手にも伝わるものです(写真提供:長州酒造)

北井:素晴らしい! 小さなところにも手を抜いていないお酒って飲めばわかるもんな。

あさやん:お酒造りが好きで好きで仕方がなくて、運命のように酒造りに向き合う美樹さん。俺らの酒漫才もそんな気持ちでやっていこうな!

北井:うん、その通りや!

あさやん:丁寧に心を込めて仕込まれたこの「天美」を飲めば「自分の仕事で人に喜んでもらえて心からうれしい!」という初心を誰でも思い出せるでしょう。あ、そうこうしているうちに四合瓶が空っぽに。

北井:おい、飲むの早いな!

あさやん:皆さんも「あっ!」というまに飲み干してしまうお酒「天美」で日本酒通の上司を「アッ!」と言わせてみませんか?

北井:めっちゃええまとめするやないか! コラムタイトルにもうまいことかけてるし! 皆さんがお世話になっている上司の方に、ぜひこの誕生ストーリーと共に「天美」を贈ってみてくださーい! 今夜は日本酒で乾杯!