前回は、ベンチャーキャピタルの投資検討と金融機関の融資審査との視点の差異について情報を整理いたしました。今回はバックファイナンスについて解説します。不動産に投資する資金を融資で調達した経験がある経営者や財務担当者から、事業資金の融資でバックファイナンスが可能か相談を受けることがあります。バックファイナンスは不動産業で物件購入費用を調達する際に利用される手法で、資金繰りが機動的になるメリットが見込めるため、他の事業でも同じスキームを活用できないか期待する人が一定数いらっしゃいます。
バックファイナンスという用語は「後から資金を借りる」という文脈で使われることが多く、定義に関する議論が進んでいないと思っております。ごく一部の範囲の人しか知らない造語だという意見も存在します。筆者が理解している内容を言葉にすると、「手元資金で先に代金決済をして、後から融資を受けること」を指すと考えています。結論を先に伝えますと、バックファイナンスを利用できる場面は非常に限定的で、実態としてほぼできないとイメージした方が良いでしょう。
金融機関の融資に対するスタンスは、資金を必要なタイミングで必要な金額だけ貸すというものです。経営上必要な物品の購入を手元資金(自己資金)で賄ってしまった場合、融資がなくても問題なかったと金融機関側に判断されたり、資金ニーズがなかったと見做されてしまうことが少なくないです。お金を先に支払ってしまっても後から借りられるでしょうと、楽観的な予想をすることは危険です。金融機関へ事前に購入計画を相談して通常の融資で資金調達できたはずなのに、後から融資を受けられないか質問するようでは、将来を予測する力も計画性もない企業だという印象を与えてしまいます。
バックファイナンスを検討するとき、資金の提供者から利回りについて質問をされることが多く、様々なリスクが借り手のコントロール下にあることが求められます。売上高の予測が容易で変動が少なく、費用構造が全て予見されていてイレギュラーな出費が無いに等しい状況において、バックファイナンスが可能です。不動産業は上記の事業構造に合致するケースがあり、バックファイナンスが成立します。他の業界では、資金の提供者が期待する水準よりも販売数量の変動が大きく予想も難しいため、検討の俎上に載らないケースがほとんどです。
バックファイナンスに対するニーズを突き詰めると、突然発生する商機を逃したくないという気持ちに行きつくと想像しています。加えて、追加の金利を支払ってまで手元資金を厚くしたくないという費用削減の動機もあるでしょう。バックファイナンスを手段として採用できない場合の代替案は、当座貸越です。任意のタイミングで融資を受けるためには、極度枠設定の仕組みを設けることが最善です。プロジェクトがないときは残高をゼロとして、金利が発生しない状況を作ることができます。当座貸越の契約期間内は極度額を上限としていつでも資金を請求できるので、急なビジネスチャンスに対応することが可能です。事業会社においてバックファイナンスを実現するための最適解は、当座貸越を利用することだと言えるでしょう。
言い換えれば、社内にどのような資金ニーズが存在するのかパターン分けしながら分析し、普段から金融機関に対しても情報共有していくことがポイントです。商品生産に必要な機械の購入資金は設備資金として、原材料の購入資金は短期運転資金として、季節性や緊急性のある商談に備える資金は当座貸越として、それぞれの金額を割り出しつつ金融機関へ融資の相談をするようにします。
バックファイナンスに関する説明は以上です。次回はレベニュー・ベースド・ファイナンス(RBF、Revenue Based Finance)について紹介いたします。
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