トヨタ自動車の大衆車として親しまれてきた「カローラ」が、フルモデルチェンジを経て12代目となった。車体寸法は従来の「5ナンバー」から「3ナンバー」のサイズとなり、もはや大衆車とは呼べないような外観、性能、品質を獲得した新型カローラ。その立ち位置を確認しておきたい。

  • トヨタの新型「カローラ」

    大衆車として誕生した「カローラ」は、新型になっても大衆の味方であり続けられるのだろうか

大衆車とはどんなクルマか

新型カローラの発表会にビデオメッセージで登場した豊田章男社長は、「カローラといえば『大衆車』と自分でも言ってしまうが、大衆車とは『世の中にいっぱい、あふれるクルマ』であると、その価値を理解している」と述べた。

「大衆」という言葉には「大勢の人々の集まり」という意味があり、その人たち全てに適切な車種として大衆車は存在する。似たような事例として、ドイツの「フォルクスワーゲン」は社名そのものが「国民車」という意味を持つ。

フェルディナント・ポルシェ博士が、庶民のために適切な性能と機能を備えたクルマ(通称:ビートル)を設計したのが、フォルクスワーゲンの始まりである。それ以来、国民車=フォルクスワーゲンという車名=社名は、矜持を持って語られてきた。ビートルの後、同社が生み出した「ゴルフ」というクルマは、世界の小型車の規範と称され、今日もその評価は変わっていない。

一方、初代カローラは、日産自動車「サニー」と共に、日本のモータリゼーションの成長に大きな役割を果たした。日産サニーの発売は1966年4月で、カローラの発売は半年後の10月だった。当時のカローラとサニーは、市場を二分するほどの争いを繰り広げた。

  • トヨタの初代「カローラ」

    1966年に誕生した初代「カローラ」

開発責任者の長谷川龍雄主査は、「80点主義+α」という考えで初代カローラを生み出した。全てにおいて合格点といえる「80点」を満たしながら、さらに何か、魅力的な特徴を付け足そうという考えである。象徴的なのが、エンジン排気量だ。初代サニーが1,000ccであったのに対し、カローラは1,100ccとし、100cc分のゆとりを持たせた。そのゆとりは、加速の壮快さにつながった。

また、初代カローラといえば、当時としてはふくよかな丸みを帯びたスタイルをしており、白い車体に赤の内装という色の組み合わせもあって、単なる実用品ではない華やかさをかもし出してもいた。「アウトバーン」(速度無制限区間のある高速道路)のあるドイツで生まれたフォルクスワーゲンの初代ビートルも、機能を優先させたクルマでありながら、外観はあくまで親しみやすいデザインを採用していた。この2台のクルマは、大衆車や国民車と呼ばれるクルマであっても、廉価で実用的なだけでなく、魅力的な存在になれることを示したのである。

3ナンバー化の是非

新型カローラの発表会でトヨタの吉田守孝副社長は、カローラの歩んできた歴史を「時代の要求を先取りしながら、1つ上のクラスや性能を求めて開発してきた」と振り返った。実際、20世紀から21世紀へと時代が移り変わる頃に登場した9代目カローラは、「ニュー・センチュリー・バリュー」を標榜し、デザインと機能で最先端を目指した。

しかし、その時点でカローラは、すでに大衆車としての最高到達点に至り始めていたのではないだろうか。外観や内装の質、そして走行性能も高い水準に達していて、この後、5ナンバーの大衆車としてどこへ発展していくのか、模索の時代に突入していたような気がするのである。テレビ広告には北野武(ビートたけし)、近藤真彦、平井堅、木村拓哉などの有名人が登場してカローラを語っていたが、トヨタが主体的にカローラを語らないその演出自体が、同社の迷いを反映していたのかもしれない。

  • トヨタの9代目「カローラ」

    「ニュー・センチュリー・バリュー」を掲げた9代目「カローラ」

今回の新型でトヨタは、カローラに3ナンバー車の格を求めた。

手本であり競合でもあるゴルフが、1997年の4代目から3ナンバー化したことも、トヨタは意識したはずだ。そのトヨタも2006年以降、海外向けに3ナンバーのカローラを販売してきたが、国内仕様に関しては、別仕立てで5ナンバー枠を守ってきた経緯がある。

  • トヨタの新型「カローラ」

    3ナンバー化した新型「カローラ」。価格はセダンが193万6,000円~294万8,000円、ステーションワゴンが201万3,000円~299万7,500円

トヨタは2015年の4代目プリウスから、「トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー」(TNGA)という開発戦略を採り始めた。TNGAとは、新車開発の基礎となる部分の共通化を図りながら、それによって生まれた開発費の余力を各車種の個性や特徴となる部分へ投じることにより、飛躍的に商品性を高めようとする取り組みだ。プリウスの後に登場した「C-HR」や「カローラ スポーツ」などを見れば、TNGA自体が年を重ねることで進化し、トヨタ車の商品力が大きく前進していることを実感することができる。

そうした取り組みの中で、新型カローラも3ナンバー化の道を歩むことになったのだろう。その上で、車幅はプリウスよりもさらに狭い1,745mmとし、5ナンバー枠の1.7mをわずかに超えたところで拡幅を抑えている。

  • トヨタの新型「カローラ」

    新型「カローラ」のボディサイズはセダンが全長4,495mm、全幅1,745mm、全高1,435mm。ワゴンの「カローラ ツーリング」(画像)はセダンに比べ全高が25mm高い

それでも、TNGAを活用した商品力の向上と、歴代カローラが歩んできた1クラス上の性能を求めるやり方が、果たしてカローラの進化にとって正しい方向であるのかどうか、なお疑問は残る。

変わるクルマと変わらないインフラ

初代カローラの車体全幅は、現在の軽自動車規格の車幅とほぼ等しい。それが、日本の大衆車としての出発点であった。カローラやサニーが、言葉通り大衆車として多くの人々に愛用されるようになったことと併行して、日本のモータリゼーションは進展し、社会基盤(インフラストラクチャー)としての道路や駐車場なども整備されてきた歴史がある。

それら社会基盤は、50年以上を経た今日においても、ほぼ変わらずそのままである。身近な例でいえば、自宅の車庫はこの間、大きくなってはいない。初代カローラの車幅1,485mmから新型カローラの1,745mmまで、26cmも広がった車幅分は、どこで吸収されるのだろうか。車庫から歩いて出る時、今ではカニ歩きのように横へ移動しなければならないほどの拡幅である。

車庫だけの話ではない。商店街や住宅街の道路には、なお幅の狭いところがあり、そこを行き交う人々とすれ違いながらすり抜けたり、道路わきに駐車したクルマを避けて通ったりする時には、広くなった車幅が運転に神経を使わせる。

新型カローラの発表会では、顧客の声として、「車幅が1.8mになると、すれ違いなどで苦労するのではないか」という意見も紹介された。新型カローラの車幅は1.8mを切るとはいえ、車体の拡幅を気にしている利用者は、間違いなく存在するのである。

  • トヨタの新型「カローラ」

    道路などのインフラは変わらないのに、クルマの車幅は広くなり続ける

新車が出るたびに車体が大型化する傾向は、カローラやトヨタに限ったことではなく、世界的な潮流でもある。ただ、その理由や上記のような問題に対する自動車メーカーの明快な回答はない。代表的な答えは「室内が広く快適になる」や「安全性能が高くなる」といったようなものだが、それを求めるのであれば、まさしく1クラス上のクルマを買えばいいだけのことだ。クルマが大きくなることを、どれだけの消費者が喜んでいるのかは疑問である。

カローラの原点に立ち戻るなら、軽自動車がカローラと名乗ってもおかしくないという、根本的な存在価値を改めて検証することから始めれば、カローラは21世紀の大衆車の価値を創造できたかもしれない。今のまま、ただ1つ上のクラスを目指し、豪華さと性能を前進させるだけであれば、いずれは「クラウン」の車体寸法へ近づいてもおかしくはない。実際、1970年代まではクラウンも5ナンバー車だった。

グローバルなカローラとは別に、大衆車の概念を時代に即して革新する国内専用のカローラが誕生すれば、それには老若男女が目を見張り、なおかつ手に入れたいと思うのではないだろうか。ただ「前よりいい」というだけでは、もはや所有したいという気持ちを失わせると思う。それが、「クルマは利用できればいい」という合理性を助長してもいる。

著者情報:御堀直嗣(ミホリ・ナオツグ)

1955年東京都出身。玉川大学工学部機械工学科を卒業後、「FL500」「FJ1600」などのレース参戦を経て、モータージャーナリストに。自動車の技術面から社会との関わりまで、幅広く執筆している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。電気自動車の普及を考える市民団体「日本EVクラブ」副代表を務める。著書に「スバル デザイン」「マツダスカイアクティブエンジンの開発」など。