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狭きながらも楽しい"我が家"。B寝台でカーテンを閉めてみた(暗くてすみません……) |
寝台特急「なは・あかつき」は、門司までED76、門司 - 下関間はED81、下関 - 京都間はEF66と機関車を2回かえて、京都まで走っていく。寝台特急の旅はまだ始まったばかり。なは・あかつきが3月14日でなくなってしまうことに気付かぬまま、とりあえず自分のベットに潜り込み、博多駅で買った缶ビールを開けてグビグビッと飲み干す。
私のベッドは開放式B寝台で、何というか……非常に狭い。ベッドを囲むように取り付けられているカーテンを閉めると、まるで押し入れの中のような状態である。しかし。実は、この雰囲気が好きなのだ。秘密基地のようで、ちょっとワクワクする。単にツインやシングルデラックスに乗ったことがないためかもしれないが……。気分が高揚してきて眠れなくなった私は、再度列車内を散策することにした。
B寝台といっても色々ある
昔、寝台列車を利用した人で、食堂車を懐かしむ方は多いだろう。しかし現在、なは・あかつきをはじめ、ほとんどの寝台列車に食堂車はついていない。東京から北に向かう「北斗星」「カシオペア」「トワイライトエクスプレス」のような豪華寝台列車にしか、食堂車はないのだ。なは・あかつきは、機関車+レガーシート車(1両)+寝台車(9両)+荷物車から成り、そのうち「なは」が荷物車+1~4号車、「あかつき」が5号車~10号車(10号車はレガーシート車)という構成で、機関車はあかつきの10号車と連結している。
2つの列車の連結部分、すなわちなはの4号車とあかつきの5号車部分は通路として通ることができ、列車のマークをそれぞれ見ることができる。この姿は併結で残っている寝台特急の現状を象徴しているようで、寂しさとちょっとした不安も感じた(この時点では、まさか3月で廃止になるとは思いもしなかったので)。
引き続き、車内の散策。まず向かったのが隣の4号車・B寝台デュエット(オハネフ252108)である。もともとB寝台は1人用しかなかったが、国鉄民営化以降、車両を改装して様々な寝台車がつくられた。B寝台デュエットはその名のとおり2人用寝台車で、上段と下段に分かれており、それぞれ入り口は異なる。開いているドアから中をのぞくと、2台のベッドが並び、ラジオや鏡なども設置されていた。ベッドには転落防止の短い手すりが設けられている。
その隣の3号車はB寝台ソロ。デュエットと同じように、上段、下段に分かれている。こちらはカプセルの中に入っているような感じ。4、5号車とも、開放式B寝台以上に乗車率が低いようだ。「これで採算が合うのだろうか……」と心の中でつぶやきながら、自分のベッドに戻り、眠りについた。
朝、「カーテンあけてもいいですか」と、隣のベッドの若い男が話しかけてきた。若い頃のジョニー・デップに似ている。黒のジャケットと耳のシルバーピアスが印象的なその若い男は、長崎から乗ってきたらしい。「京都と大阪、どちらが先に止まるんですか」と聞かれて、想定外の質問内容に激しく戸惑ってしまった私。しかし、私も最近まで明石と三宮と神戸の位置関係を把握していなかったのだから、人のことは言えない。
「清水寺に行きたい」と彼は呟く。どういう目的かはわからないが「お気をつけて」と声をかけ、私は先に大阪駅で下車した。列車での旅は偶然の出会いがあり、見知らぬ人との会話にも花が咲く。それが楽しみの1つでもあるのだ。
そういえば先ほどの若い男性、私の知っている誰かに似ていた。そうか、東京・表参道のアートカフェのバーテンだ。彼も九州出身だったし……。「東京に戻ったら、また飲みにいこうか」と思いながら、大阪駅をあとにした。