決まった住所を持たず、日本中を旅しながら生活しているカメラマンの南谷有美(なんや・ゆみ)さん。訪れた地域では人々とどのように交流し、どんな仕事をしてきたのか。それぞれの地域の魅力についても綴っていただきます。
今回ご紹介するのは、世界中、旅をしながら絵描きを続ける河野ルルさん。4、5年前に1度お会いして以来、私の中でもどこか気になる存在でした。今回は数年ぶりに再会をし、現在の仕事内容や生き方についてお話を伺ってきました。
ルルさんが壁画を描くようになったきっかけ
ルルさんが初めて絵を描いたのは、今から5年前。勤めていた会社を退職し、世界を旅していたときのことです。
約1年間旅をした末にメキシコにたどりつきましたが、そこで尽きてしまったお金。メキシコに滞在したかったルルさんは思考を巡らせ、宿泊していた宿のオーナーに「壁に絵を描くから、泊めてほしい」と直訴しました。それが了承され、絵を描く代わりにしばらくメキシコに滞在できることになったのだそうです。
絵を描くことは好きであるものの、勉強などはしたことがなかったというルルさん。メキシコに滞在した3カ月間、ホテルの壁やキッチンの壁、地図などさまざまなものを描きました。そのときから「絵を描くって楽しいな」「絵を仕事にできたらいいな」と思うようになったのだそうです。
日本に帰ってきてからは就職活動も試みたそうですが、やはりメキシコでの体験が忘れられず、定職につかずバイトしながら絵を描いていくことを決意。それからしばらくの間は、絵とバイトの二足の草鞋を履き、生計を立てていました。
そんなルルさんの転機となったのは、2017年に行われた「UNKNOWN ASIA」。アジア各国から集まったクリエイターの中で、見事グランプリに輝いたのです。
そこから、大阪国際女子マラソンのポスターをはじめ、大きな仕事が舞い込んでくるようになりました。そして、現在に至っています。
ルルさんのお仕事
ルルさんは今までどんなところで描いてきたのでしょうか。その一例をご紹介します。
アフリカ
アフリカに知り合いもいなければ、ツテもなかったルルさんですが、「アフリカで絵が描きたい」という一心で、アフリカの学校をネット検索。「壁画を描かせてください」とメールで直接問い合わせたところ、そのご縁が見事につながり、2018年6月、アフリカ・マラウイ共和国のマタンダニ村を訪れることになりました。
電気・水道・ガスがなく、毎朝井戸には列ができるという小さな村。日本との生活の違いにも驚かれたそうです。
メキシコ
2019年6月、再びメキシコを訪れたルルさん。今度は孤児院に絵を描きました。何と子ども達も参加し、一緒に絵を描かれたそうです。子ども達にとっても忘れられない思い出になったことと思います。
ルルさんが描かれる場所は、このように病院や福祉施設などが多いように感じられます。その理由をお聞きしたところ、自身の経験が元になっているのだとか。
ネパールを旅している途中で体調を崩してしまったルルさん。現地で病院と呼ばれるところを訪れたのですが、そこは暗くて、冷たくて……言葉にできない不安に襲われたのだそう。
休養中に、「こういうところが明るくなったらいいのに」と思ったルルさん。それから、人々が不安になってしまう場所や子どもがいる場所の壁に絵を描くようになったといいます。
旅するように仕事する
取材にお伺いしたときは、愛知県阿久比町にある「パスピ98」という福祉施設の壁に絵を描いていました。
楽しそうに描かれている姿が、とても印象的でした。下書きはせず、思いのままに筆を走らせているのだそう。見る人の心をパッと明るくするような、素敵な作品になるのでしょうね。
ルルさんに今後の予定をお伺いしたところ、2月は愛知県内の小児科、老人施設の壁に絵を描き、5月には中国での展示、6月には名古屋での展示が控えているそうです。
「大きい壁画をもっと描きたい」「海外を旅するように仕事したい」と、さらに上の目標に向けて動き出しているルルさん。今年もきっと大活躍の1年になりますね。私も世界のどこかで、彼女や彼女の描いた作品に出会えることを楽しみにしています。
南谷有美(なんや・ゆみ)
カメラマン/ライター
2018年4月に認可外保育園の園長を退いてから、各地を巡る旅人に。リモートで仕事をしながら、好きな場所で好きなことをして生活しています。