たまに買い物に訪れる雑貨店での話。

最近持ち歩かねばならないカード類が増えたので、この日はカードが多く入る新しい二つ折りのサイフを買いたいと思っていた。

店員さんはなぜ別の商品をすすめたのか?

今回はとにかくカードが入れられる枚数がポイントだった。メーカーや材質などにはこだわらず予算内でなるべく多くのカードが収納できればよいと思い店内を探した。

30分ほど探し回ったところ16枚入るサイフがあった。値段もお手頃だったので、これを買おうと思い店員さんを呼んできてもらった。

私:これください
店員:カードが多く入るお財布をお探しですか?
私:はい。最近持ち歩く枚数が増えて。別々に分けるのも面倒なので。
店員:例えば12枚でよろしければ、こんなのもありますよ。お値段も少しお安めです。こちらよく売れていますよ。
私:ありがとうございます。でも今回はカードの枚数が多く入らないと買い換える意味がないんです。今使っているのも10枚は入るので。
店員:そうでしたか。失礼しました。では在庫を確認して参ります。

こんな感じで会話は進んだ。結局、私は当初の品を手にした。それから2週間ほど経った。

今思うと、あの時、なぜ店員さんはあえて安くてカードの収納枚数の少ないサイフをわざわざ私に薦めたのだろう? なぜそのように私が思ったかというと、私が買った商品はカードの収納力は十分なのだが、とにかく使いにくかった。10枚以上のカードをこのサイフに入れて二つに折りたたむと、相当の分厚さになる。パンツの後ろポケットに入れにくいし出しにくい。さらに、買った時には柔らかくて手触りがよいと感じた皮革だったが、じっさいにポケットやカバンから出し入れする時に滑りが悪くてサイフの形体が歪んでしまう。

つまり、見た目や値段や機能はともかく、使い心地などはあまり「お薦め」の品ではなかったのではないだろうか。

とはいえ、客である私がすでにその気になっているものを、あえて悪く言ってまで買うのを思いとどまらせるというのも店員さんとしてはおかしな話である。そこまで買わないように「お薦め」するのならば、そもそも店で売らなければいいのではないか……という話にもなる。このあたりは店員さんとしても難しいお客さんとのコミュニケーションになる。

店員さんがなぜわざわざ他の商品を「お薦め」したのか、私がもう少し意を察して「何かこの商品に使いにくいところなどありますか?」などと、やんわりと聞いていれば、店員さんももう少し突っ込んで「お薦め」の理由を言ってくれたのかもしれない。

「売れないモノ」の理由は意外とシンプルなのかもしれない。


<著者プロフィール>
片岡英彦
1970年9月6日東京生まれ神奈川育ち。京都大学卒業後、日本テレビ入社。報道記者、宣伝プロデューサーを経て、2001年アップルコンピュータ株式会社のコミュニケーションマネージャーに。後に、MTVジャパン広報部長、日本マクドナルドマーケティングPR部長、株式会社ミクシィのエグゼクティブプロデューサー等を経て、2011年「片岡英彦事務所」を設立。企業のマーケティング支援の他「日本を明るくする」プロジェクトに参加。2015年4月より東北芸術工科大学にて教鞭をとる。