連載「ワーママのモヤモヤ整理します」は、託児付きランチサービス「ここるく」の経営者で、育休復帰・働き方改革のコンサルティングも手掛ける山下真実さんが、ワーママが抱えるモヤモヤを整理・解消に導いていく企画です。

第1回のモヤモヤ整理は、夫婦ともに転勤族で、2人のお子さんを育てている、かなえさんが主人公。子どもとの時間を優先した結果、これまで積み上げてきたキャリアとは全く別の業務をすることになり、モヤモヤしているといいます。

  • 仕事のやりがいと子どもとの時間、どちらを優先する?

    子どもとの時間を優先し、仕事のやりがいを諦めたけれど……※画像はイメージ

【今回の相談者】

かなえさん(32歳) 現在、総務・経理の仕事をしている2児の母。夫婦ともに転勤族で、新人の地方勤務時代に1人目、2人目を続けて出産。約二年間の育休を取得した。
入社以来、ずっと営業の仕事を続けてきたが、夫と実母のいる東京への転勤・時短勤務を希望したところ、今の業務に就くことになる。働き方や勤務場所に制約があることで、本来思い描いていた内容と違う業務をする日々にモヤモヤしている。

キャリアの見通しが立たない不安

山下さん: 「総務・経理の仕事をしないかというのは、誰からの打診だったんですか?」

かなえさん: 「育休取得中、地方勤務時代の直属の上司です。復職をどういう形でしたいかと聞かれたので、実母と夫がいる東京で働きたいと伝えました。すると、『子育てで働く時間に制約がある場合、今の職種では東京に戻せない。希望の勤務地をとるか、職種をとるか、どちらか選んでほしい』と言われ……

「当時子どもは0歳と1歳、誰の助けもない中で子育てをするのはちょっと無理だなと思ったので、勤務地を取りますという話をしたら、総務・経理の仕事はどうかと打診されたんです

山下さん: 「業務としては本当に一から覚える感じですか? 総務・経理のプロになる、という方向性は考えていないのかな?」

かなえさん: 「メインが総務業務で、伝票の審査とか、勤務管理とか、オフィスの電球を替えるとか、そういった内容なので、そんなにガッツリと専門業務をしているという感じでもないんです」

山下さん: 「希望を出せば異動はできそうな状況なのでしょうか?」

かなえさん: 将来的に営業職に戻すつもりでいるよと言ってもらっているのですが、その場合には、覚悟がいるよとも言われています。今は時短で働いているのですが、残業ありのフルタイム勤務や、地方への転勤も求められると思います

「今の自分の状況を考えると、母の助けがあってもいっぱいいっぱいの生活で、子ども二人を連れて地方へ行ってくださいというのは、難しいかなと思っています。でも、いつになったらできるのか、そこが全然見えません。人それぞれ、考え方は違うと思うのですが、私自身は子どもが小学校に上がってからも、時間をかけて子どもを見てあげたい、夕飯を一緒に食べたいという思いがあって……

絶対に譲りたくない条件は何?

山下さん: 「なるほど、これは結構普遍的な悩みかもしれませんね。でも私は、これまでに先例がないから、希望する仕事や働き方は選べない、というのはちょっと違うと思っています。なので、逆にどういう働き方で営業として働き続けたいかを、かなえさんが掘りこんでいくことがまずは必要で、それに周りをフィットさせていく方が早いと思うんですよ」

『毎日子どもと夕飯を一緒に食べること』だけは、絶対に譲りたくないのであれば、それを叶えられる働き方ってどんなだろう、勤務地・出勤時間・帰宅時間・部署などの制約はどこまで外せるのだろう、どういう職場だったらそれが実現できるのだろう、今の会社で実現できなければ転職も考えられるのだろうか……そうやって考えて、かなえさんが求める働き方をはめ込めるポジションを探しに行く方が、結果、周りも説得しやすいような気がするんです

かなえさん: 「確かに、優先順位の高いものが多すぎるなと自分でも思ってはいて、そこを絞るのは難しいけれど、必要な作業なのかなっていう気がしますね。子どもが病気になったときに、親と夫は絶対に必要だと思っていたし、子どもと一緒にいるには時短勤務でなければダメと思い込んでいて、ある意味別の手段があると考えたこともなかったというか……、仕事のやりがいを捨てるしか、もはや方法はないのかって、若干のあきらめがあった気がします」

山下さん: どの条件は絶対に外したくないのか、1つでいいので見えてくると、そこから紐づくようにして譲れる・譲れないの優先順位が分かりやすくなってくると思います。時短勤務は譲れないとか、両親の近くに住みたいとか、バラバラに認識しているものを体系立てていけるので、ちょっと楽になるような気がするんですよね。状況がすぐに変わるわけではないけれど、状況を変えやすくなっていくと思います

先例がないところに、踏み込む勇気を

山下さん: 働きながら子育てする女性をいかに組織の中に取り込んで、能力を発揮してもらうか、ということに、日本社会はまだまだ慣れていなくて、会社も悪気なく勘違いをしちゃう傾向にあると感じています。こちらが何も言わなければ、上司は良かれと思って『まだお子さん小さいから勤務時間短くした方がいいでしょ』『急に休んでも誰かがカバーできる職種の方が安心でしょ』と配慮してしまう可能性があります」

ママ側から『こういう風に働きたい』と伝えて初めて、『このミッションを切り分けて、少しだけ渡してみよう』とか『プロジェクトにサポート的に入ってもらい、経験を積んでもらおう』などと上司も考えられると思うので、こちらから考える材料を渡すことも必要なんですよね。『こういう風に働きたい』と伝えるためにも、優先順位をつける作業は必要なのかなと思います」

かなえさん: 「でも、そもそも私にはキャリアが足りないんですよ。先輩のワーママたちはある程度キャリアを積み上げてから出産し、東京で活躍しているので。弊社では、地方勤務で年齢の若いうちに出産して、その後キャリアを積み上げている人ってほとんどいないんです……

山下さん: ほら、また『先例がない』っていう思考になってる!(笑)

かなえさん: 「本当だ……。私、すぐ会社に合わせようとしちゃうんですよね、会社の都合のいいように自分を変えなくちゃって思っちゃうんです。思考が社畜になっているのかもしれないですね(笑)。気を付けたいなと思いました」

山下さん: 時代はどんどん変わっていくので、やっぱり、先例のないところに、多かれ少なかれ踏み込んでいかないといけないと思うんですよね、先例にとらわれちゃうともったいない。かなえさん、キャリアが足りないっておっしゃるけど、私には、未来への可能性にあふれているようにしか見えないですよ、本当に!」

山下真実

株式会社ここるく 代表取締役・社会起業家・2児の母
米国留学によるMBA取得、米系投資銀行・金融コンサルを経て、ママになったことをきっかけに子育て支援という全くの新領域へ。人気レストランから選べる託児付きランチサービス「ここるく」を2013年にスタート。サービスを通じて集まる働くママのインサイトと、MBA・コンサルで得た専門知識の両面から、ママ向けサービス開発や育休復帰・働き方改革コンサルティングなども手掛ける。
『第14回女性起業家大賞』、三菱UFJ銀行主催『Rise Up Festa』最優秀賞受賞。