ドル/円は先々週、先週と続落してきました。しかし目先もう一段下がるけれども、結局は上がるという意見が強いように思われます。まず、この目前の相場の状況をドル/円の1時間足で見てみましょう。

ドル/円 1時間足

先週金曜のロンドンオープンの頃からジリジリと下げ、ほぼ安値圏でニューヨークを終えています。このジリ安の理由として一番に上げられるのが、値頃感(ねごろかん)からの買い下がりだと思います。

「値頃感」とは、特別な根拠はないけれどそろそろ買い場だと思って買うなり売るなりすることで、実はこうして相場にエントリーしてくるマーケット参加者は多いと言えます。

しかし、例えばジリ安になっていることにはそれなりの理由が必ずあるわけです。

多くのマーケット参加者が同じようにジリ下げ地合い(じあい、局面)を買い場と見て、買い下がっていることが多く、そのため相場は下がり続けてもマーケットに存在するロングの総量は減るどころか増えていき、そして自分の重さに耐えかねてもう一段下がるということを繰り返すことになります。先週金曜の海外時間のドル/円はまさにその典型と言えます。つまり、ドルの先高を見ているマーケット参加者がいかに多いかということです。

たしかに、例えば米国もECBも利上げ方向の既に動いていたり、これから動こうとしていたりするのに対して、ドル/円は、金利は低位を維持するとなれば金利差拡大、即ドル買い円売りとなるはずです。しかし、それが実際にならないところに問題があるわけです。

相場は気合いでは動かない

相場を見ていく上で、特に気をつけなくてはならないことがあります。それは、相場は気合い(精神論)では動かないということ。そして、実際にフロー(資金の流れ)がなくては動かないということです。先ほどの例に戻りましょう。

「米国、ECBは利上げで、日本は低位を維持」、これはまさしく頭で考えれば円からドルやユーロに資金が流れるはずです。しかし、実際は大きく資金を動かず機関投資家は、動かしたとしても少額で、むしろ投機的に買ったマーケット参加者の方が圧倒的に多いと思われます。

投機筋にはアキレス腱があります。買えば、必ず利食いか損切りで売らなくてはなりません。逆に売れば、必ず利食いか損切りのために買わなくてはなりません。つまり、ポジションは、長くは持てないということです。

今回のコラムの冒頭で、「目先もう一段下がるけれども、結局は上がるという意見が強い」と申し上げましたが、目先の一段の下げとはつまり投機筋の買い下がりによってできたロングが、いったん投げないと下げ止まらないということだと思います。

しかしその後結局上がるためには、ロングを投げただけでは上がりません。なぜならロングを投げた段階で、マーケットのポジションをほぼスクエア(ノーポジ)になるだけで、上げの原動力になるショートが積み上がっていないからです。この点がドル/円が抱える大きな問題点だと言えます。

多くのマーケット参加者が、ドル高を期待しています。しかし、その相場が上がるために必要なパワーは我先に買おうとする買いです。ただし、我先に買うという状況は何でしょうか。新しくポジションを持つために買うときはできるだけ良い持ち値にしようとしますから、我先にという買い方ではなくていねいに買うものです。

では、我先に買うのはどういうときか? それはロスカット(損切り)のときです。できるだけ損失を最小限にしようと我先に買おうとし、相場を急騰させるのです。ドル/円の上昇期待の欠陥は、実はここにあるわけです。

買い持ちポジションが投げても、それではポジションをロングからショートにひっくり返すことはほとんどないため、マーケットが、大きくショートに偏ることはないと言えます。したがって、下がって反転する場合でも、大方の場合新たに買い上がってくるだけなので、またしてもロングになり下げるという悪循環を来しているわけです。

執筆者プロフィール : 水上 紀行(みずかみ のりゆき)

バーニャ マーケット フォーカスト代表。1978年三和銀行(現、三菱東京UFJ銀行)入行。1983年よりロンドン、東京、ニューヨークで為替ディーラーとして活躍。 東京外国為替市場で「三和の水上」の名を轟かす。1995年より在日外銀に於いて為替ディーラー及び外国為替部長として要職を経て、現在、外国為替ストラテジストとして広く活躍中。長年の経験と知識に基づく精度の高い相場予測には定評がある。なお、長年FXに携わって得た経験と知識をもとにした初の著書『ガッツリ稼いで図太く生き残る! FX』が2016年1月21日に発売される。詳しくはこちら