コロナによる景気の低迷、老後への不安など、さまざまなきっかけで投資にチャレンジする人は増えています。この特集では、20代前半から30代後半の個人投資家がどのように自分らしい投資を楽しんでいるのか、インタビューで紹介します。
今回ご紹介するのは、今年会社を起業したばかりの富士さん(31歳)。就職してから投資を開始して、当初100万円だった資産を800万円にまで増やしたという強者です。
一時はいわゆるブラック企業で朝から晩まで働く日々を過ごしていたという富士さんが、投資で増えた資産と知識を携えて、会社を立ち上げるまでに至った経緯をお聞きしました。
割安株を発掘するスタイルを徹底
――富士さんはいつから投資を始めましたか?
最初に投資に興味を抱いたのは、大学生だった20代前半のころです。元々自分でキャッシュ・フローを作ることに関心があったのですが、当時は資金がなかったので、就職してから投資をしようと考えていました。
それから就職して働き始め、お金も少しずつたまってきた頃、オンラインゲームで知り合った香港人の友達に、株式投資のやり方を教えてもらいました。それから、株の基礎がわかる本を読んで勉強して、社会人になって2~3年目の25歳の時に株式投資を始めました。
――最初はどんな感じで株の投資をしていましたか?
最初は100万円分くらい、リスク分散のために複数の日本株銘柄を買いました。
銘柄選びの方法は当時も今もあまり変わらないのですが、まず株主優待狙いで自分が普段から利用する店を運営している会社から選びました。そして、今株価が安くこれから上がりそうな「割安株」から選ぶことも重視していました。
特に後者の割安株を買うやり方は、ずっと変わらない自分の方針ですね。
――割安株とは具体的にどんな株なのでしょうか?実際に経験談を教えていただけますか?
5年前に、株価が暴落していたシャープの株を買いました。「複数の事業をしているから、再生したら上がり幅が大きいのではないか」と考えて購入したのですが、特に台湾の企業から資金が入って復活するシナリオが描けたときは、ワクワクしましたね。実際に株価はその後上がり、資産を増やすことができました。
――なるほど。他にはどんな割安株を購入しましたか?
株を始めた当時、不景気でも業績が落ちにくい100円ショップの株を買おうと考え、どの会社にしようか悩んでいたときに株式会社ワッツを見つけました。
当時ワッツは100円ショップでは業界4番手だったので、大手に比べると割安で、100株あたり8万円程度で買えたんです。例えば株式会社キャンドゥは当時100株あたり約15万円だったので、その差は歴然でした。
一株あたりの単価を安く、少し変わった銘柄で買いたいと思っていた私にとって、ワッツの株はまさにうってつけでしたね。
――富士さんはどうやって割安株を見つけていますか?
ワッツの株を見つけた時もそうでしたが、例えば100円ショップ関連の株を購入したいと思ったら、まずはその業界について、今買うべきかどうか調べてみます。
それから、個別銘柄のそれぞれの特徴を調べて、最小単位で複数買えるものに注目し、さらに詳しく業績や将来性について調べていきます。
そして、その株が本来の価値よりも低く見積もられていて、これから上がるなと思えたら買っています。このように、まずは全体で見て、それから個別銘柄をしっかり見るという購入方法をしていますね。
――コストパフォーマンスをしっかり追求しているのですね
そうですね。特に投資初心者の方に伝えたいのは、株には上がる時もあれば、下がる時もあるので、買う時期を見極めてもらいたいということです。各業界の動きや個別銘柄をチェックをして、できるだけ割安な状況で買うことをおすすめします。
具体的な根拠が無いものの、予測が当たりやすい経験則である「アノマリー」を知っておくのもいいと思います。
安くなっているものは、そこから下がったとしても、損する金額もしれています。一方で、今勢いがある株は、アメリカとの貿易摩擦などの影響を受けて大幅に下がり、大損する可能性もあります。
信用取引で大損! 復活の決め手もやはり割安株
――富士さんは最初100万円から始められたそうですが、6年経った今はどんな状況ですか?
現在、800万円まで資産を増やすことができています。
ワッツは100株で50%、保有していた300株で150%まで上がったので、200株を売却して残りの100株は持っておくという方法を取りました。
また、シャープも購入した時から3~4倍くらいになったので、40~50万円くらい儲かりましたね。
――とても順調な投資をされているように見えますが、大きな損失を出したことはありますか?
実は、信用取引で400万円くらい損してしまったことがあるんです。それがなければ今ごろは資産が1,000万円は超えていたのにと、悔しい気持ちもありますね。
――損失を出してしまった原因をどのように分析されていますか?
信用取引(現金や株式などを担保として証券会社に預けることで、担保の評価額の約3.3倍まで株式の取引ができる)では、高い金額で株の取引ができ、さらに割安の株を選ばせてもらえます。
ただ、2年前に私が購入した株は、会社情報が四季報で見たものと変わっていて、自分の想定と現実にズレが出てきていたんです。
そこに500万円入れていたのですが、3日連続ストップ安になるなど、大幅下落してしまいました。連日、何百万円も下がってしまい、投資してきた中で一番の大損でした。
――そこで崩れてしまわず、富士さんが持ち直せたのはなぜだったのでしょうか?
やはり、手堅く割安株を買うという、自分の本来のスタイルに戻したことがよかったのだと思います。
長期投資であれば、そんなに毎日上がり下がりを見る必要はなくて、ある一定の流れを見ておいて、上がった時にいったん売っておいて、現金にしておくことができます。
そうすると、タイミングがきた時に割安で買えるので、今はその時を待ちながら準備をしている感じですね。
株で資金と知識が増えたから起業できた
――そうした株の投資経験と資金を元に、今年起業されたんですよね?
主に中国進出の支援をするマーケティング会社を起業しました。以前中国に留学していたこともあって中国系の人脈があるので、それを生かしたいという思いがあります。
中国工場でのOEM(Original Equipment Manufacturing)製造や、海外進出前の準備として行う日本国内でのネット販売などをお手伝いさせていただいています。
起業する前は"夜中の1時から2時間ミーティング"という働き方が通ってしまうような、いわゆるブラック企業で働いていた経験もあったので、起業したからには、取引先も社員も会社も幸せになれる会社を目指したいと思って頑張っています。
――これまでの様々なご経験やご苦労があってこその起業なんですね。投資の知識も役立っていますか?
そうですね、もともと経営者になることが夢で、「なぜこの企業は儲かっているのか」を考えるのがクセになっていましたが、株式投資を始めてからはより一層意識することが増えたかもしれません。
また株式投資を通して、サラリーマンをしているだけでは得られない会社の情報なども知識として身に付いて、営業にも役に立ったり、業界などの知識は深まったと思います。その知識は、経営者になってからも、生きていますよ。
――投資で積み上げた資産も大きな力になっていそうですね
そうですね。株をして、資産を増やして、ためるくせがついたので、資本金も準備できました。株式投資でお金をある程度増やせたとか、下がる前に売ることができたことが、コツコツ自分の自信になったと感じています。少しずつ積み重ねて、自分のスタイルを確立できたということも、今の自分につながっていると思います。
――最後に、富士さんのこれからの展望を教えてください
不動産投資に挑戦して、いつかはマンションを一棟購入したいと思っています。実は今新型コロナの影響で、不動産の価格が下がっていると聞くので、チャンスだと思っています。いいものがあれば買いたいですね。
あとは、立派な人間になること。いくら成功したとしても、おごりたかぶらずに、コツコツ歩んでいきたいですね。