ビタミン剤
妊娠初期に注意すべきなのがビタミンAの過剰摂取です。ビタミンAのような脂溶性(脂に溶ける)ビタミンは肝臓や脂肪組織に蓄積されていくため、摂(と)りすぎると過剰症になる危険があるのです。ビタミンAの過剰摂取によって、胎児に奇形リスク(水頭症や口蓋裂など)が数倍上昇するという報告があります。
ビタミンAには「レチノール」と「βカロテン」の2種類があります。注意しなければならないのは動物由来の前者です。βカロテンは体の中で必要な量しかビタミンAに変換されず、残った分は抗酸化物質として作用するのでビタミンA過剰症になる心配はありません。
ちなみに妊娠初期のビタミンAの推奨摂取量は「650マイクログラム RAE(レチノール活性当量)」(※30歳以上は700マイクログラム RAE)となっています。つまり「ビタミンAは妊婦にも必要なものですが、摂りすぎに注意してね」ということです。
便秘薬
妊娠~出産まで、可能な限り避けましょう。妊娠中はさまざまな原因で便秘になりやすくなります。ところが便秘薬の成分には、妊娠中に服用するのに適さないものが含まれているケースがあります。妊娠中でも飲める薬もありますので、種類や量などを医師・薬剤師に相談しましょう。安易に薬に頼らず、適度な運動や排便習慣、食物繊維の多い食事などの工夫も忘れずに。
胃腸薬
「抗コリン成分」を含む胃腸薬は妊娠~出産までやめておきましょう。これも妊婦には好ましくない作用が出ることがあるからです。
鎮痛解熱薬・風邪薬
アスピリン
出産予定日12週以内の服用は避けましょう。添付文書に「出産予定日12週以内の妊婦には投与しないこと。妊娠期間の延長、動脈管の早期閉鎖、子宮収縮の抑制、分娩時出血の増加につながるおそれがある」と書かれているのです。
アセトアミノフェン・イソプロピルアンチピリン・イブプロフェン
妊娠後期は避けましょう。
そのほかに気をつけたい薬
「赤ちゃんへの影響が心配される(風疹などの)ワクチン」「男性ホルモン作用がある薬」「妊娠中は必要がない(はずの)排卵誘発剤」「経口避妊薬」「抗ウイルス薬」「抗リウマチ薬」「抗凝固薬」「抗潰瘍薬」「高コレステロール血症用薬」「甲状腺作用薬」など。
ワクチンを除く各種医薬品は、一部に注意が必要な成分が含まれているため、使用の際には医師や薬剤師に相談した方が確実です。妊娠中の女性(または配偶者)に医師から薬が処方された場合は、その薬の必要性や安全性、その薬が選ばれた理由について医師や薬剤師からよく説明を受け、納得したうえで飲むようにしましょう。わからないときは、生まれてくる新しい命のためにも積極的に質問をするように。
妊娠中の喫煙・飲酒は厳禁
薬から少し話題が離れますが、妊娠中はタバコやアルコールは控えるべきでしょうか。妊娠中のタバコは早産や未熟児が生まれる原因になるという研究があるため、やめるべきです。
お酒も避けた方がよいでしょう。アルコールは胎盤を自由に通過します。つまりお母さんがお酒を飲むと、おなかの赤ちゃんもお母さんと同じように酔った状態になるのです。多量に飲めば赤ちゃんの発育に悪い影響が残ることは明らかでしょう。少量であれば安全とも考えられていますが、どの程度なら安全だと言えるのか、基準が定まっていないのです。
妊娠中は、薬もお酒も「必要に応じ、注意しながら飲む」ということを心がけてくださいね。
※写真と本文は関係ありません
筆者プロフィール: フリードリヒ2世
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薬剤師。京都薬科大学薬学部生物薬学科卒。徳島大学大学院薬学研究科博士後期課程単位取得退学。映画と海外ミステリーを愛す。Facebookアカウントは「Genshint」。主な著書・訳書に『共著 実務文書で学ぶ薬学英語 (医学英語シリーズ)』(アルク)、『監訳 21世紀の薬剤師―エビデンスに基づく薬学(EBP)入門 Phil Wiffen著』(じほう)、『共訳 患者は何でも知っている(EBM ライブラリー) J.A.ミュア・グレイ著』(中山書店)がある。