薬にはそれぞれ決まった用法がある

薬剤師として30年以上のキャリアを誇るフリードリヒ2世さんが、日常のさまざまなシーンでお世話になっている薬に関する正しい知識を伝える連載「薬を飲む知恵・飲まぬ知恵」がスタートします。初回は薬を飲むタイミングに関するお話です。

用法・用量を守ることが治療の第一歩

医師(歯科医師)が薬についての指示を書いて患者さんや他の医療スタッフに渡す文書を「処方せん」といいます。薬物療法の設計図・計画書といえるものです。処方せんに書くべきことは法律(医師法施行規則第21条 、歯科医師法施行規則第20条など)で決まっています。

患者さんの名前・年齢・性別・使う薬の名前などはもちろんですが、薬の「用法」(いつ・どのように使うか)と薬の「用量」(数・量)も必ず書きます。これらの情報がきちんと記されていない処方せんは、正しい治療ができないため「欠陥文書」ということになります。治療を手伝う人(医師・歯科医師・薬剤師・看護師など)と患者さんが「正しく書かれたもの」を正しく守ることが、治療の第一歩となります。

薬を飲むタイミングが意味するもの

ところで、皆さんは薬をいつ飲めばよいのか、悩まれた経験はありませんか? 薬を飲むタイミング(いつ飲めばよいか)は「用法」に含まれます。使う薬ごとに「一日1錠・朝食後すぐ」「一日1錠・寝る前」「一日3錠1回1錠ずつ・毎食前」「一日3錠1回1錠ずつ・毎食間」「一日6錠1回2錠ずつ・毎食後すぐ」などと書かれているはずです。

食前、食間、食後など、食事の時間が重視されている理由は、薬が入っていく胃の状態が薬の効き方に影響を与えるからです。胃の状態は直近で食事をした時間によって異なり、薬の吸収・代謝を左右することがあるのです。一つひとつのタイミングをみていきましょう。

食前……文字通り、食事をとる前のことです。普通は食事の30分前ぐらいのタイミングをいいます。 吐き気を止める薬などは、使用目的からして食前に飲むのが一般的です。薬によっては「食直前」に飲むことを指示される場合もあります。この場合は食事をする10分ぐらい前を指します。一部の血糖改善剤(例: αグルコシダーゼ阻害剤と言われる薬で、商品名はベイスンやグルコバイなど)は、薬の効き目が現れる仕組みから考えて、食後に飲んでも血糖値の上昇を抑えられないため、特にこの服用時間を守る必要があります。

食後……用法の中で最も多い指示は「食後」でしょう。普通は食事の30分後ぐらいのことです。胃の中にまだまだ食べたものが多くある状態で、この場合は薬は比較的ゆっくりと吸収されます。後述の「食直後」ほどではありませんが、胃を荒らすことも少ないのです。内服薬の多くが食後服用と指示されるのは、胃を荒らしにくいということに加え、食事の時間と薬の服用時間をリンクさせて薬の飲み忘れを少なくするためです。「ご飯を食べたら薬を飲む習慣をつける」という感じです。

ただし、ここでいう30分とはあくまで目安で、正確に30分である必要はありません。忘れにくくするため、「食直後」に薬を飲んでもかまいません。また、一日3回飲む薬であれば、実際に食事を3回しなくても普段食事をするような時間に3回飲んでください。

食直後……食事をして(ほとんど間をおかず)すぐ後のこと。胃の中に食べたものが最も多くある状態です。食後30分に服用と指示されている薬でも、胃を荒らすことがあれば薬の吸収は少し遅くなりますが、さらに胃を荒らしにくい食直後に飲んでもかまいません。

食間(食後2時間~2時間半)……勘違いしていただきたくないのですが、食間といっても「食事をしている間に飲む」という意味ではありません。「食事と食事の間の時間」という意味で、普通は食後2時間~2時間半くらいを意味します。食べたものが胃の中からなくなり、胃がほぼ空っぽの状態です。厳密には2時間(2時間半)より長くなる場合もあります。

食間指示の薬はそれほど多くないのですが、漢方薬のように胃から吸収されにくく胃を荒らしにくい薬や、胃潰瘍の薬で胃粘膜を保護する薬は、食間に飲むように指示されるケースがあります。漢方薬は、食前でも食間でも自分の飲みやすいほうを選んでかまいません。

※写真と本文は関係ありません

筆者プロフィール: フリードリヒ2世

薬剤師。徳島大学大学院薬学研究科博士後期課程単位取得退学。映画とミステリーを愛す。Facebookアカウントは「Genshint」。主な著書・訳書に『共著 実務文書で学ぶ薬学英語 (医学英語シリーズ)』(アルク)、『監訳 21世紀の薬剤師―エビデンスに基づく薬学(EBP)入門 Phil Wiffen著』(じほう)がある。