昨今、リモートワークや業務効率化により、組織内での上司と部下の対話が減少しています。それにより、目先の業務以外で部下と何をどう話せばいいか分からないという上司も現れてきています。
そこで本連載では、組織内において部下の継続的成果と成長を支援し、さらにエンゲージメントを高めるために行う、対話のフレームワーク「すり合わせ9ボックス」を活用して、上司が「部下をダメにする話し方」について考察してみましょう。
すり合わせ9ボックスとは
すり合わせ9ボックスは、上司と部下が対話すべき3つの要素(業務・個人・組織)を、さらに3つの時間軸(過去・現在・未来)で分けた、計9つのテーマで構成したのです。
8回目の今回は、「理念・制度・カルチャー(組織×過去)ボックス」についてです。
会社の話をしなくなり、会社に無関心になっていく従業員
近年、組織では今まで以上に効率化と生産性が求められ、目先の仕事に追われる人も増えています。またリモートワークが増え、対面でなんとなく話せる機会も減り、コロナ渦にあって、ランチや飲みにも行かなくなりました。
そういった環境下で、従業員は「会社や組織についての話」をする機会を失っています。話をするのは目先の業務のことばかりで、隣の部署や会社で起こったことなど知ることが少なくなっています。
厳密にいえば、メッセンジャーなどのツールを介して「情報」としては知る機会があったとしても、「対話」としての機会がないので、自分ごととして興味を持てなくなっています。
一方、会社側にとっては、組織を作っていくうえで近年「従業員エンゲージメント」の重要性が叫ばれています。
一般に、従業員エンゲージメントとは、「従業員が組織に貢献していこうと思う意欲」のことを言います。ベクトルが同じ方向に向かっているイメージです。従業員エンゲージメントが高い企業には、以下のような傾向があることが、研究から明らかになっています。
・顧客満足度が高まる
・売上、利益の伸長率が高い
・高い生産性を上げ、品質の向上につながる
・離職率が下がる
エンゲージメントを高めるためには、従業員が組織理解をするために1on1などで対話していくことが重要です。対話内容は組織の現状や、未来の話があり、他には過去に焦点を当てた「理念・制度・カルチャー」も有効です。
作り上げてきた理念や諸制度、カルチャーとして感じられる習慣など、「組織が大事にしていること」への深い理解を通して組織とのつながりを感じてもらい、働きがいの向上につなげていくのです。
WhatやHowではなくWhyの話をする
そうはいっても、いきなり経営理念の話を部下にすると、主語が大きくてピンと来ないかもしれません。そこでお勧めしたいのが、既存の制度からの組織理解です。
なぜかというと、制度は「その組織の考え方や哲学」を反映しているからです。自組織の制度やルールに精通すれば、その組織の考えを知ることになり、相手の考えとのシンクロ度合いを高めることができるのです。
しかし、部下の働きがいなどについて関心がないダメな上司は、こういった話をまったくせずに「目先の業務の話しか」しません。
普通の上司は、制度がどういうものなのかという内容(What)、どうすればよいか(How)という説明を行います。
一方、デキル上司は、それに加えて制度のできた背景などのなぜ(Why)の部分や想いについて伝えていきます。
あなたは組織の評価制度の変遷を知っているか
例えば、評価制度について部下とすり合わせる際、内容だけではなく、できた背景や変遷をしていくのです。
ダメな上司
そもそも評価制度について詳しく話をしない。
普通の上司
WhatとHowを語る。「うちの評価軸は、成果:能力が1:1の割合だから、成果だけ出てもダメで能力開発していかないと評価されないよ」。
デキル上司
Why(背景や想い)を語る。「うちの評価制度は、過去10年の間に3回改定があって、急激な人員の増加によるグレードの増設や、職種の増加で実態に合わなくなる度に変えてきました。ところが、評価軸とその割合については10年間で一度も変わっていません。
つまり、成果:能力が1:1の割合について会社としての強いこだわりがあって、短期的な成果だけで判断しない。本質的な能力の蓄積が重要という10年変わらないメッセージなのです。この考えに私はとても共感していて、自分の本質的成長を考える土台になっているんだよね」。
このように、評価制度など今、当たり前のようにある制度やルールも、過去の変遷を交えて説明されると想いが伝わってきます。大事なことは、制度の裏にある想いを継承していくことです。
情報交換ではなく対話により意味を創り出す
その他、以前にあった制度やルールができた理由と無くなった理由を材料に対話を行うこともお勧めです。それらを振り返りながら、上司と部下がお互いに新たなインスピレーションが湧くきっかけになるかもしれません。
例えば、「以前は社員旅行があったが、人数の増加で来れない人も出てきたので廃止。社員旅行の目的だった一体感の醸成は、年2回の半期表彰パーティーに引き継がれた」ということを対話できていると、半期の表彰パーティーの目的や成り立ちが深く理解できて、運営に携わる時も参加者の時にも、臨む意識が変わってくるでしょう。
また、現在のコロナ禍にあって、「うちで新たにあった方がいい制度とか仕組みってどんなことが考えられるだろう?」というテーマで話をしてみて、出てきたアイデアに対して「それってうちの会社っぽいかな?」「うちの会社でやる意味ってどういうところにあるのだろう?」という形で深掘りをしていくことで、会社が大事にしていくことを考える機会になり会社理解が深まっていくのです。
つまり、組織の仕組みや制度などの内容(WhatやHow)についての話というのは、単に情報交換をしているだけですが、そこに背景や想い、らしさなど(Why)を対話していくことは、情報から部下自身にとっての意味を創出していくことにつながっていくのです。
普段はなかなか組織や会社について言及することも少ないでしょう。さらに、今後はリモートワークやより一層の業務効率化の文脈の中で、益々そういった機会は減少していくと思います。
だからこそ、1on1などのじっくり対話できる機会に、意図的にぜひ組織の過去についても対話して、部下と組織とのつながりを作ってみてください。