SLのことを、鉄ちゃんは「蒸機」と呼びます。蒸機を走らせることは沿線に多大な経済効果をもたらしますが、その反面、ファンが起こすトラブルも多く、人気とは裏腹に「もう走らせないで欲しい」という住民の声も出ているほどです。今回は、鉄ちゃんたちがなぜそんなに蒸機に対してアツくなってしまうのか、私なりの見解をまじえたお話をしていきます。加えて今回、次回にわたって、蒸気機関車の撮影についても解説します(記事中に登場する鉄道名や駅名などの設定は架空です)。

テツヤくんはある週末、SLマイコミ号が開通100周年を迎える近くの私鉄に貸し出されるという非常に珍しいイベントがあると聞きました。その私鉄を蒸気機関車が走るのは実に50年ぶり。テツヤくんはベテラン鉄ちゃんに撮影に誘われましたが、「わざわざ行くこともないかな」と思い、お断りしました。すると、ベテラン鉄ちゃんは人が変わったようにアツく語り始めました。

「蒸機は動く産業遺産なんだ! 今でも産業革命の頃の仕組みで動くんだぞ!! 水と火で走るんだ、近寄れば暖かいし、まるで生き物なんだだ!! そのメカの維持、機関士、機関助士の確保、訓練。重い機関車を走らせるための線路の整備、点検。さらには誘致、そして沿線住民の理解。こういった努力、熱意の積み重ねで、50年ぶりにその町に汽笛が響くんだぞ! 昔、子供の頃に母ちゃんの背中で聴いた汽笛と同じだ。嗚呼、なんて素晴らしい! これは鉄道のロマンだ!!!」

一気に話すベテラン鉄ちゃんに圧倒されてしまったテツヤくん。「なんだかよくわからないけれど、すごそうなので、行ってみよう」となったわけです。

このように、蒸機となると一気にアツくなる鉄ちゃんは珍しくありません。特に、リアルタイムで蒸機の活躍を目にしてきた世代は、その傾向が強いです。また、現在の鉄道に興味はないけれど、蒸機とその時代の鉄道だけは好きという「蒸機限定の鉄ちゃん」も多く存在します。個人的な見解になりますが、現在の鉄道から引き起こされる「撮影したい! 」という気持ちと、蒸機を見た時の感動とは、少し質が違うともいえます。憧れ、郷愁といった胸を熱くする気持ちを呼び覚ます力は蒸機特有のもので、それだけに撮影にも夢中になってしまいます。マナーの面では、「蒸機の撮影」は他の鉄道の撮影とは独立したカテゴリとして考えてもいいかもしれないと思うほどです。

マイコミ号が貸し出された私鉄の沿線は、まるでお祭り。手を振るだけの親子連れから本格的な鉄ちゃんまで。蒸機には、実に様々な楽しみ方があるのです。これだけ多様な楽しみ方をする人々が一同に会するわけですから、全員にとって都合のいい状況ができるわけがないですよね。それならば、混雑を覚悟し、自分の目的もしぼることです。

混雑度は、ある程度予想ができます。"その土地を何十年ぶりかで蒸機が走る"といった場合は特に混みあいます。逆に、定期的に運行されている蒸機なら、観光のハイシーズン以外は比較的ゆったりと撮影できます。そうはいっても、客車が変わる、ヘッドマークが付く、走る時間帯が変わるなど、少しでも珍しい要素が入ると、撮影の人は増えるものです。このようなことは出かける前にわかる情報ですから、Webサイトなどで情報を集め、覚悟して出かけるようにしましょう。

大混雑の中、ベテラン鉄ちゃんはいつもの本格的な機材ではなく、コンパクトカメラで登場。お祭り騒ぎも含めた動画を撮っていました。これも立派な鉄道の記録です。蒸機本体だけにこだわらず、雰囲気も楽しめる心の余裕を持てるといいですね。

ミニ情報
煙のマメ知識
蒸気機関車の勇姿になくてはならないもの、それは煙です。煙には黒煙と白煙があって、黒煙は石炭などを燃やした煙、白煙は水蒸気です。これらは、気温が高いとあまり出ません。しかも、肉眼ではそれなりに見えていても、撮影した写真を見るとあまり写っていなかったりもします。ですから、かっこいい蒸機の写真を撮れるチャンスは冬。今から冬のことも頭の片隅に入れて、行動するようにしましょう。