「ゲームソフトを借りていった友人が翌日に引っ越しをし、ゲームソフトが戻ってこなかった」――。こういった理不尽な状況に遭遇して沸々とした怒りを覚えた経験を持つ人もいるのではないだろうか。
このケースのように、日々の生活において社会通念上、「モラルに反するのではないか」と感じる出来事に遭遇する機会は意外と少なくない。そして、モラルに欠ける、あるいは反していると思しき行為であればあるだけ、法律に抵触しているリスクも高まる。言い換えれば、私たちは知らず知らずのうちに法律違反をしている可能性があるということだ。
そのような事態を避けるべく、本連載では「人道的にアウト」と思えるような行為が法律に抵触しているかどうかを、法律のプロである弁護士にジャッジしてもらう。今回のテーマは「試食品の食べすぎ」だ。
35歳の女性・Fさんは有名百貨店の総菜売り場でパートとして働いている。Fさんが勤める店は、「行列のできるデパ地下店」としてテレビをはじめとする各種メディアに何度も紹介されている人気店。Fさん自身もその店で働けることに誇りを感じており、自身の業務に責任を持ちながら日々、接客や販売にあたっていた。
ある日、クリスマス商戦の只中とあり、Fさんも目まぐるしく動き回っていた。そんな中、ふいにショーケース前に立っていたある中年女性が目に入り、Fさんはある違和感を抱いた。「あれ……あの人10分くらい前にもいなかったっけ?」。注意深くその女性を見ていると、その日のおすすめ総菜であるミートローフを細かく刻んだ試食品をパクパクと何個も食べている。ひとしきり味わうと、女性は何も総菜を買わずにその場を去った。気になったFさんがその後、仕事をしながら店舗に来る客の顔を一人ひとりチェックしていると……また来た! さっきの中年女性だ。先ほどと同じように試食用のミートローフを何個も食べ、やはり何も購入することなく踵を返した。Fさんが試食品コーナーに目を向けると、ミートローフはすべてなくなっていた。「さっきの女性がほとんど食べたのじゃないかしら……」と思いながら、Fさんは新たなミートローフを補充した。
「もしかしてまた来るかも……」。そう思ったFさんの予感は当たった。3分と時間を置かずに店に舞い戻った中年女性は、「あら、このミートローフおいしいわ。この値段なら買ってもいいかもね」などと白々しくコメントしながら、またもや何個もパクパク。揚げ句、「うーん、やっぱり今日の夕食はお魚にしましょう」と独り言を言ってスタスタと店前から去っていった。その姿を見たFさんはちょっとした怒りを覚えたと同時に「私はあんな行動をとらないようにしよう」と胸に誓った。
このようなケースでは、中年女性は何らかの罪に問われるのだろうか。安部直子弁護士に聞いてみた。