電気自動車(EV)はバッテリーに溜めた電気で走るクルマなので、暑い夏よりも、バッテリーに余分な熱を持たせなくて済む寒い冬の方が長い距離を走れそうに思ってしまうのですが、実際のところはどうなのでしょう? モータージャーナリストの内田俊一さんに聞きました。

  • ホンダのEV「Honda e」

    電気自動車の航続距離は寒いとどうなる?(写真はホンダのEV「Honda e」)

寒いとEVの走行距離は短くなる! 理由は?

冬、真っただ中。気温が低いとEVの航続距離は短くなってしまう。その理由は何だろう。

バッテリーは熱に弱く、高温になると性能を十分に発揮できない。携帯電話の電池も、高温になると充電時に制御がかかったりするが、EVでも基本的には同じだ。では、低温の冬はどうなのか。

寒いと確かに、バッテリーの温度を低く保つことができる。ただ、気温が低すぎるのもバッテリーにはよくない。携帯電話も寒いと電池の減りが早くなるが、EVも一緒だ。一説によると、バッテリーは約16度から27度の範囲が最も性能を発揮できるという。それを踏まえると、夏と冬は厳しいことがわかる。

冬の航続距離が短くなるもうひとつの理由は暖房だ。これは私自身も経験しており、冬にヒーターをつけて高速移動する際は、乗る前に表示されている航続距離の約半分程度を目安にしている。統計的にも、冬の航続距離は夏に比べ40%ほど短くなるというデータがある。

内燃機関を搭載するクルマでは通常、エンジンを回転させる際に熱が発生し、それを冷やすために水を使う(水冷エンジンの場合)。この過程で温まった水を利用して室内を温めるというのがヒーターの原理だ。しかしEVの場合は熱の発生源がないため、バッテリーを使って熱を作り出さなければならない。

EVのヒーターはPTCヒーターかヒートポンプエアコンが主流だ。PTCヒーターはバッテリーの電気を電気抵抗(ヒーター)に通して熱を発生させる。いわば電気ストーブのようなものと考えればいい。ヒートポンプエアコンは熱交換器で外気の熱を冷媒で回収し、バッテリーの電気でその冷媒を加圧、圧縮することで熱を発生させる。家庭用エアコンと原理は同じだ。

両者を比べると、PTCヒーターはすぐ暖かくなるが電費が悪く、ヒートポンプはPTCヒーターに比べ電費はいいものの、気温が下がると効きが悪くなる。いずれにせよ、どちらもそれなりに電気を必要とするので、電費の悪化は避けられない。

  • ポルシェ「タイカン」

    冬にEVの走行距離を延ばすには?(写真はポルシェのEV「タイカン」)

冬に航続距離を稼ぐにはどうしたらいいか。まずは厚着をして、ヒーターの設定温度を下げる。それと、シートヒーターやステアリングヒーターを使用して、電費の悪化を避ける。こちらの方が電気の消費量が低いからだ。充電中には積極的にヒーターを使い、室内を温めておくのも有効だ。