自動車の取材をしていると、さまざまな業界用語に出くわすことがある。中でも、響きが面白くて妙に印象に残った言葉のひとつが「エキパイ」だ。エキ……何かの液なのか? パイ……ってなんだろう? モータージャーナリストの内田俊一さんに聞いてみた。

  • トヨタ自動車の新型「GR86」

    「エキパイ」とはいったい? クルマのリア部分にヒントがあります!(写真はトヨタ自動車の新型「GR86」)

「エキパイ」の意味と役割

「エキパイ」とは「エキゾーストパイプ」を略した言葉だ。

山海堂改訂版自動車用語辞典によると、「エキゾースト」とは「①排出する、空にする。②排出するガス、排気ガス、廃気、排気装置」とあり、「エキゾースト・パイプは、排気管。マニホルドからサブ・マフラまでの前部パイプ、マフラから後の後部パイプ、中央のセンタ・パイプがある」と記されている。つまり、排出するガスを通す排気管の総称がエキゾーストパイプである。略してエキパイだ。

エンジンでガソリンを燃焼した後に排出される排気ガスは、それぞれのシリンダーから「エキゾーストマニフォールド」と呼ばれるパイプに出るのだが、それらをまとめた1本、あるいは2本のエキパイが、排出口に向かって伸びている。その排出口手前にあるのがマフラーだ。

よく、マフラーとエキパイは同じものとして語られるが、厳密には違う。マフラーは消音機の役目を果たしており、エンジンが発する爆音をこのマフラーで抑えているのである。マフラーの中には消音材としてグラスウールなどが入っている。また、マフラーの後端には、見栄えをよくするため「マフラーカッター」と呼ばれる加飾が取り付けられることもある。

  • フェラーリ「ローマ」

    「マフラー」と「エキパイ」は、厳密にいうと違うものだ(写真はフェラーリ「ローマ」)

エキパイの途中には触媒が取り付けられている。「キャタライザー」とも呼ばれるこれは、排出ガスから有害物質を取り除き、排気をクリーンなものにするためのものだ。キャタライザーは内部がハチの巣のようなハニカム構造となっており、それぞれの通路の壁面には白金やロジウム、プラチナなどの貴金属をコーティングしてある。そこを排気ガスが通ることで、壁面で化学反応を起こして浄化するしくみなのである。もともと排気ガス自体に熱があり、さらにキャタライザーでの化学反応の際に熱が発生するため、安易に触ってはいけない。

基本的にエキパイやマフラーはスチールでできているが、近年は腐食を考慮してステンレス製も見られるようになった。その結果、「エキゾーストノート」と呼ばれる排気音に変化がみられ、反響音が発生し、わずかに音が甲高くなる傾向にあるようだ。

マフラーをよく見ると1本や2本、左右に1本ずつなど、さまざまなタイプが見られる。「2本出し」は古くはスポーティーなクルマの見本のようにいわれ、それだけ高出力であるといわれていた。また、V型エンジンの場合、エンジンの左右からエキゾーストマニホールドが出るので、そのままエキパイを通して、左右に1本ずつマフラーを取り付けることもあった。

  • アウディの新型「S3」

    2本出しはスポーティーなクルマの証拠?(写真はアウディの新型「S3」)

いずれにせよ、マフラーからは排出ガスが放出されるので、この出口に立つことは避けた方がいいだろう。特に古いクルマや大型トラックなどの場合、エンジンを掛けた瞬間に黒煙を吹くことがあるので、洋服を汚すことになりかねないからだ。