「お仕事なにされているんですか?」

この質問をされたことがない社会人はいないだろう。きっとこの記事を読んでいる読者の方もされたことがあるはず。

「会社員」「フリーランス」と大きく括ってしまえば簡単だが、日本国内の職種は細かく分類されており、厚生労働省によると、2万種類にも近い職種があるとされている。

筆者は新卒で編集部に配属されたため、業務としては編集者・記者の仕事しか知らないが、仕事柄、さまざまな仕事をしている方に会うことが多い。

新商品発表会に参加すれば「マーケティング部」や「商品開発部」、入社式や研修の取材に行けば「人事部」、工場見学に行けば「工場長」といった役職者に会うこともある。

その中でも記者として1番身近な職種が、取材のサポートをしてくれる「広報部」だ。

しかし考えてみると「広報部」がどんな仕事をしているのかイマイチ知らない。広報というのだから「広く」「報じる」ことを仕事にしているのだろうが……

この連載では「広報部」の仕事に着目。普段は取材の裏方として活躍しているさまざまな企業の広報担当者に取材を申し込んでみた。

第2回目となる今回は、日本を代表するIT企業である「NEC」。NEC コーポレートコミュニケーション統括部 広報の松田美生さんに「広報の仕事」について聞いた。

  • 今回、話を聞いたNEC コーポレートコミュニケーション統括部 広報の松田美生さん

    今回、話を聞いたNEC コーポレートコミュニケーション統括部 広報の松田美生さん

日本有数のIT企業の技術を広める「技術広報」ってどんな仕事?

NECは『海底から宇宙まで』をモットーに、AIやセキュリティ、生体認証など最先端のデジタルテクノロジーを活用した、さまざまなサービスや技術を展開している総合IT企業。

PCやネットワーク機器、決済端末など、身の回りで「NEC」の社名を見たことがある人も多いだろう。そして同社は、小惑星探査機「はやぶさ2」の全体のシステム設計も担った企業でもある。

そんなNECの広報部には、大きく分けると、事業部ごとに担当者がつく「事業広報」、新しい技術を広める「技術広報」、会社全体の取り組みを紹介する「コーポレート広報」という3つの役割がある。

その中でも、松田さんが担当しているのは「技術広報」。新技術の開発に伴ってその技術を世に知らしめるのが主な役割だ。

NECといえば、保有特許件数が4万件を超えるほどの技術力を持つITメーカーとして有名だが、そんな日本有数の技術の情報が埋もれず、正しく世に伝わるように広めていくのが松田さんの仕事だ。

「仕事のスケジュールとしては、出社後に事業部との打ち合わせで新技術のプレスリリース相談を受けたり、オウンドメディアである『NEC Stories』での記事企画を検討したりします。その後は、広報メンバーでの定例会議で各自の担当案件の進捗状況や連携が必要な事項について情報共有を行ったり、プレスリリース作成などの実務を行うことが多いです」(松田さん)

  • 1日のスケジュールを語る松田さん

    1日のスケジュールを語る松田さん

実際に筆者が取材に伺った日も技術担当者との打ち合わせの真っ只中だった。この日は、最新のテクノロジー動向をテーマとした「NECテクノロジーブリーフィング」というイベントの最終打ち合わせの最中だった。

イベントでどんなことを話すかを中心に、イベントの趣旨の再確認や注意事項などを漏れがないように確認していた。

  • 研究所メンバー打ち合わせを行う松田さん

    研究所メンバー打ち合わせを行う松田さん

自身が関わるイベントや記者会見では、会の当日の司会進行を担当することも多いそうで、今回のイベントでは松田さんが司会を務めていた。

  • 「NECテクノロジーブリーフィング」の司会を務めた松田さん

    「NECテクノロジーブリーフィング」の司会を務めた松田さん

技術広報の仕事は「翻訳」すること

専門性の高い内容を扱う技術広報。文系出身の松田さんは技術知識の習得に苦労することも多いそうで、自社や他社の過去のプレスリリース、研究者の公開記事を読み込み、研究者との打ち合わせで理解の答え合わせを繰り返しているのだそう。

「技術広報の最大の難しさは、専門性の高い技術を一般向けに『翻訳』することです。研究者から技術説明を受ける際、まず自分が理解する必要があり、その後メディアや一般読者に分かりやすく伝える表現を考えるのが、技術広報のやりがいであり、難しい部分でもあります」(松田さん)

仕事のやりがいについても「複雑で難しい技術を分かりやすく伝え、メディアや読者に興味関心を持ってもらえた瞬間に最大のやりがいを感じる」と語っており、文系出身という経歴が、逆に一般読者目線で「この言い方だと難しい」という視点が持てるため、アイデンティティとして活かされている部分も感じているという。

また松田さんは、子育てと仕事を両立しながら働いていており「広報」と「母親」の二足の草鞋を履いている社員でもある。

「NECの制度と周囲の理解にかなり支えられています。テレワークやフレックス制度によって場所や時間を選べる働き方が可能で、さまざまな年代の社員がいるため理解を得やすい環境があるのがありがたいです」(松田さん)

フレックス制度を活用して夕方に帰宅することが多い松田さんだが、コミュニケーションは広報の要と捉えているそうで、「関係部署とのコミュニケーションに関しては絶対に怠らない」ことを心がけているという。 

「広報活動に協力してもらう他部署の社員との関係構築では、自己開示、迅速なレスポンス、お礼と報告の徹底を重視しています。自分のキャリアや携わった仕事を伝えて理解を促したり、仕事の進捗や困っていることをマメに報告・共有して、ピンチの時は適切なサポートを求められるようにしています。家族の事情を理由に、どうしても即座に対応できない場合もありますが、一次返信などで相手に不安を与えないように配慮しています」(松田さん)

「最先端技術といえばNEC」という認識を定着させるために

そんな松田さんが広報の仕事に就いたのは9年前。

新卒の就職活動では人材系の企業に入社し、法人営業として、求人広告の販売や、転職相談を受けて企業に求職者を紹介するキャリアコンサルタントの仕事を5年間担当した。

「法人営業やキャリアコンサルタントとして働いたあと、2017年に同社の広報室に異動となり、コーポレート広報と事業広報を5年間経験しました。元々、オウンドメディアの運営を手伝ったり、個人でブログやSNSを積極的に運営していたことを役員にも知ってもらっていて、異動の声掛けをもらいました」(松田さん)

営業を経験したことで「営業活動にとっても認知度やイメージが重要な要素になる」ということを実感したそうで、「広報はさまざまな事業の根幹にあたる『会社のイメージを作る部署』。会社全体の成長に貢献できる点に魅力を感じている」のだという。

最後に、松田さんに「広報から見たNECの印象」を聞いてみた。

「NECはとにかく『研究者が熱い』です。技術広報の仕事を通じて、研究・技術開発への情熱があり、社会の役に立ちたいという純粋な思いを持つ真摯な方が多いと常に感じています」(松田さん)

その一方で、研究者たちは謙虚すぎる傾向があり、世界初の技術を開発しても「特別な技術ではない」と控えめに発言してしまうことが多いという。

広報としてはこの現状を「歯がゆいですね」とした上で、優れた技術の強みや優位性を適切に発信していきたい考えだという。

そのため松田さんの今後の目標は「最先端技術といえばNEC」という認識を定着させること。IT企業間の競争が激化する中、120年以上にわたる研究・技術開発の蓄積という強みを活かした情報発信を行っていきたい、と教えてくれた。

「先端技術といえばNEC」が当たり前になる日まで。松田さんの挑戦は続く。