【あらすじ】
コマガール――。細かい女(ガール)の略。日々の生活において、独自の細かいこだわりが多い女性のこと。細々とした事務作業などでは絶大な力発揮をするが、怠惰な夫や恋人をもつとストレスが絶えない。要するに几帳面で神経質な女性。これは世に数多く生息する(?)そんなコマガールの実態を綴った笑撃の観察エッセイです。

先日の夜、"いつものように"夫婦喧嘩が勃発した。山田家では些細な言い争いも含めると、1週間に3回ぐらいはこういうことが起こる。お互い、引かない性格だからだ。

僕が分析するに、喧嘩の原因のほとんどはチーのリピート現象だと思う。(チーの主張とは違うかもしれないが)僕が常々「これはやっちゃダメだ」と言っていることを、チーが何度も繰り返すからだ。「何度も同じことをリピートするな」。それが僕の言い分である。

たとえば、ソファーの上に荷物を置く。僕としては、これをなるべくやめていただきたい。もちろん一時的に置くぐらいは気にならないが、チーは帰宅するなり荷物をソファーに置き、そのまま何時間も放置するということを何度もリピートするわけだ。

こうなると、ソファーのくつろげるスペースが非常に狭くなってしまう。だから僕はその荷物をどかしてから腰を下ろそうとするのだが、そうしたらしたらでチーは「ああ、(荷物を)触らないで。今、しまおうとしてたところなんだから」と下唇を剥き出しにしながら注意してくる。「だったら、最初から荷物を置くなよ」と僕が言い返しても、一向に改善されない。この一連の流れが、何度も何度もリピートされるだけなのだ。

また、片っぽ靴下という問題もある。チーは洗濯術に細かいこだわりがあるわりに、なぜか靴下を2つ揃えることには無頓着だ。先日など、奇跡的だった。乾いた洗濯物を取り込んだとき、僕の靴下が7足あったのだが、それがすべて片っぽだったのだ。

チー曰く「適当に靴下を洗濯したら、たまたまそうなった」らしいが、もしそうだとしたら驚異的な確率だ。その後、まだ洗ってない洗濯籠の中を見ると、見事にそれらの相方である7足分の片っぽ靴下が出てきた。狙ってやったとしか思えない業だ。

実はこれも今に始まったことではなく、僕は以前から「片っぽ靴下絶滅運動」をチーに提唱していたのだが、それでも一向に改善されない。つまり、前述したリピート現象につながるわけであり、これも夫婦喧嘩の原因になったりする。

さらにもっと深刻なリピート現象は、頭部へのタッチである。現在30代半ばの僕は、近年頭髪の減少と生え際の後退に悩むデリケートな薄毛予備軍だ。だからして、当然毎日のシャンプーにも人一倍気を遣っており、自分で自分の頭髪を触るときでさえも、まるで脆弱なガラス細工を扱うときのように、優しく慎重に両手両指を動かすようにしている。

そんな気持ちも知らず、チーは平気で僕の頭髪を触ってくる。「あれ? 髪になんかついてるよ」。そう口で教えてくれるだけでいいのに、チーはわざわざ僕の髪に手を伸ばし、それを取り除こうとする。こういうとき、僕は「自分でやるから触らないで」とチーの手を振り払うようにしている。乱暴に扱って一本でも抜けたら、どうしてくれるんだ。

だから僕は、以前から「髪を触ってはいけない」という情けなくも深刻な指令をチーに出している。チーもそれを了承しており、「絶対触らない」と約束してくれた。

ところが、である。ある週の土日、チーはそれを2日間で3度も破ったのだ。

まずは土曜日の夜中である。その前の金曜日の夜に会社の同僚と飲みに行っていたチーは、日付をまたいだ深夜(つまり土曜日の夜中)に酔っぱらって帰宅した。その日は僕も仕事が忙しく、チーが帰ってきたときには疲れてぐったりしていたわけだが、そんな僕の萎れた頭髪を酔っぱらったチーが「ただいまー」と豪快に撫でたのだ。

「やめろよ! 」。思わず声を荒らげた。酔っぱらっているからといって、頭髪タッチ禁止条例を破っていいというわけではない。むしろ、酔っているときは扱いが乱暴になりがちなため、余計に気をつけてもらいたい。我が頭髪は、刺激に弱いのだ。

「ごめんごめん、つい触っちゃったー。もう2度としません」とチー。口では反省を示したが、顔は笑っていた。だから、なんとなく信用できなかった。

すると案の定、チーは数分後にまたもリピートした。「髪の毛、乱れてるよ」と言いながら、無神経に僕の頭髪をかきあげたのだ。しかも、結構荒っぽく。

「だから、同じことを繰り返すなって! 」。さすがにブチ切れた。さっきの反省はなんだったんだ。舌の根も乾かないうちに、またも同じことをリピートするとは。

さらに、翌日もチーはリピートした。仕事から帰宅した僕に「おかえりー」と声をかけながら、頭髪をなんのためらいもなく撫でたのだ。昨夜、あれだけ怒ったのに。

「髪の毛を触らないでって、何度も何度も言ってるでしょ! 」

僕はなぜかオネエ系みたいな口調で怒鳴ってしまった。2日で3度のリピート現象。怒りを通り越して、泣きそうになった。もはや頭髪がどうこうで怒っているわけではないと自覚していた。約束したことを何度も繰り返し破ることに、哀しみを覚えたのだ。

その夜、さすがのチーも落ち込んだようだった。「なんで同じことを繰り返しちゃうんだろう……」と独り言を呟きながら、自分を責めていた。どうやらチーは無自覚らしい。頭ではわかっていても、つい体が勝手に動いてしまうとか。

うーん、どうすればいいのだろう。失意のチーを見ていると、僕の中にもみるみる罪悪感が湧いてくる。僕がもっと寛大になるしか手はないのかもしれない。

<作者プロフィール>
山田隆道(やまだ たかみち) : 作家。1976年大阪府生まれ。早稲田大学卒業。おもな著作品に『雑草女に敵なし!』『Simple Heart』『阪神タイガース暗黒のダメ虎史』『彼女色の彼女』などがある。また、コメンテーターとして各種番組やイベントなどにも多数出演している。私生活では愛妻・チーと愛犬・ポンポン丸と暮らすマイペースで偏屈な亭主。チーが几帳面で神経質なコマガールのため、三日に一度のペースで怒られまくる日々。
山田隆道Official Blog
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