企業の経営層は、過去にどんな苦労を重ね、失敗を繰り返してきたのだろうか。また、過去の経験は、現在の仕事にどのように活かされているのだろう。そこで本シリーズでは、様々な企業の経営層に直接インタビューを敢行。経営の哲学や考え方についても迫っていく。

第6回は、スポーツの教育的価値を高めるべく、選手自身で分析できるサービスを開発・提供しているSPLYZAの代表取締役 土井寛之氏に話を聞いた。

  • 毎日をワクワク過ごせる人生を送るために起業した土井寛之氏

    SPLYZAの代表取締役 土井寛之氏「失敗談」「苦労話」を聞いた

経歴、現職に至った経緯

まずは経歴について。現在、スポーツに関する事業を手掛ける土井氏だが、学生時代は「数学好きで、スポーツはやっていなかった」という。そんな土井氏がスポーツの面白さにはまったのは、大学卒業後、静岡県浜松市のソフトウェア開発会社に勤めていたときのこと。

「友人に誘われ、浜名湖で初めてウィンドサーフィンを体験し、魅了されました。スポーツの『正解のない問題』を解く面白さにはまったんです」

土井氏は、30歳のときに「人生が1週間の連続なのだとしたら、7分の7、つまり7日中7日をワクワクする人生にする」と目標を定め、会社を退職。オーストラリアの西海岸で1年間ウィンドサーフィンに明け暮れる生活を送った。

しかし、あるとき車ごとウィンドサーフィンの道具を盗まれてしまう事件が発生したのを機に、スポーツに関わる仕事での起業を決意したという。そんな土井氏が気づいたのが、アマチュア向けの簡易かつ安価な映像分析のアプリケーションが存在しないこと。そうして誕生したのが、「アマチュアスポーツマンの『もっと上手くなりたい』を叶える」をスローガンに掲げるSPLYZAだ。

SPLYZAについて

SPLYZAの設立は2011年。スポーツ・教育の分野で、中高生を中心としたアマチュアスポーツ向けの映像分析ツールの開発と販売を手掛けている。サービスのコンセプトについて、土井氏は次のように説明した。

「従来、分析は指導者が行うものとされてきました。しかし、我々が提供しているサービスのコンセプトは、選手が分析を行い、選手の考える力を育むこと。スポーツは『正解のない問題』。親しむ中で課題発見力や課題解決力が身に付き、社会に出てから必要な力を育むことができるのです。また、自分で考える力を磨くことで、スポーツをより楽しめるようにもなります」

3年を費やして開発したアプリが、わずか3ヵ月でクローズ

SPLYZAは、土井氏を含めたプログラマー3人により設立された。最初のサービス開発では、自分たちがほしい機能をひたすら開発することに注力していたという。メンバー全員が開発スキルを持つことは強みだ。しかし、開発好きの集まりであるがゆえに、いつまで経っても開発が終わらない事態を引き起こしてしまったと土井氏は振り返る。

「開発するのが楽しいので、ほしい機能のアイディアが次から次へと出てくるんですよ。その結果、最初のリリースまでに3年もの時間を費やしてしまいました」

それだけの時間を要してリリースしたサービスであるにも関わらず、結果は失敗に終わる。ユーザーの登録数が伸び悩んだ上、数少ないユーザーもアプリをほとんど利用しなかったのだ。失敗した理由について、土井氏は次のように語った。

「まず、マーケティングや営業経験者が一人もおらず、開発していた3年間、初期ユーザーを得るための施策を何もしなかったこと。さらに、開発した機能は『自分たちがほしい機能』であり、ユーザー目線ではなかった。ユーザーの本質的な課題やニーズを把握できていなかったため、利用増に繋げられなかったのです」

大型の資金調達も実現したものの、開発に使ってしまい、ユーザーの増加には繋げられなかった。結局、最初にリリースしたアプリは3ヵ月でクローズ。苦い経験となった。

最初の失敗から得た教訓とは

最初の失敗を振り返り、土井氏は「あらゆる挑戦に失敗はつきもの。ただ、いかんせん私たちは失敗するのに時間がかかり過ぎました。3年という時間のロスは非常に大きい。この反省を教訓に、2回目以降の製品開発は2ヵ月〜半年程度でリリースできるように進め、失敗の回転率を上げることにしました」と語る。

また、最初の失敗の要因となったユーザー目線の欠如についても、土井氏は「サービス開発の目的は対価を払ってくださるユーザーの課題解決であると認識するようになりました」と認識を改めた。

自分たちの開発したい機能についてではなく、ユーザーの課題やニーズについて議論を交わすように。その結果、ユーザーの本質的な課題への理解を深められ、課題解決に繋がる機能を提供できるようになったという。この変化は数字にも表れ、サービスの利用頻度は10倍以上に成長。ユーザーから感謝の言葉をもらえるまでになった。

反省から変わった点は、もう一つある。それは土井氏の役割の変化だ。

「それまでは浜松オフィスで開発に携わっていたのですが、失敗を機に開発から外れ、スポーツ関係者やメディアへの人脈作りに力を入れることにしました。新たに社員を雇用する余裕はなかったため、私が動こうと思ったんです」

まだそれほど売上が出ておらず、東京出張の交通費を捻出することすら厳しかった時期だったが、「今までやらなかったことをしなければ、何の変化も起こせない」と考え、実践。最終的には1年で1,000名との名刺交換を果たせるようになり、それを3年間続けたのだという。

「繋がりを増やせたおかげで、さまざまなメディアで取り上げていただけるようになり、次のサービスはリリース当初から150チーム20種目に登録してもらえました。私個人と会社、双方の成長に繋がりましたね」

少数精鋭時代を乗り越えたSPLYZA。今では、営業・マーケティング・広報・広告など、必要な役割に応じた採用を行えるまでに成長を遂げている。

  • SPLYZAの代表取締役 土井寛之氏「失敗談」「苦労話」を聞いた

就活生・若手ビジネスパーソンにメッセージを

最後に、就活生・若手ビジネスパーソンに向けてメッセージをもらった。

「社会人となり、ビジネスサイドの職種に就いた場合、基本的な仕事を覚えたあとは、正解のない問題の発見・解決を行うことが仕事の大半となります。これは失敗することが当たり前の世界です。そこで重要となるのが、失敗の回転率の早さ・次の打ち手を考える力・それを試す実行力の3つです。このとき、やったことしかしない、できないようでは、次の打ち手が限られてしまう。経験の有無に関わらず、柔軟に考え、バイアスを打ち破りましょう。むしろ、試したことがないからこそやる価値があるといえます。たとえ失敗に終わったとしても、そこから得られるものはある。何にも挑戦せず失敗もしていない人より、たくさんトライしてたくさん失敗した人になってほしいですね」

失敗は成長の糧となる。だからこそ、早い成長には失敗のサイクルが早いことが重要だ。「PDCAサイクルを回す」という言葉があるが、土井氏が失敗から得た教訓の話は、その大切さをあらためて実感するものだった。