女性の働き方として、パラレルキャリアがいま注目されている。サマンサタバサとオイシックス・ラ・大地で働く世永亜実氏は、そんな女性の新しい働き方を体現している一人だ。世永氏が現在の働き方を始めた理由、そしてこれからの女性の働き方について考えを聞いてみたい。

  • 世永氏がサマンサタバサ・オイシックスのパラレルキャリアで働く理由

    オイシックス・ラ・大地 社長付 Special Planner/People's Advier、サマンサタバサジャパンリミテッド 非常勤取締役/Director 世永亜実氏

子どもと一緒に夏休みを過ごすために

サマンサタバサジャパンリミテッド(以下、サマンサタバサ)の非常勤取締役として知られ、現在はオイシックス・ラ・大地(以下、オイシックス)でSpecial Planner/People's Advierとして活躍している、世永亜実氏。

ひとつの企業にこだわることなく複数のキャリアを築く「パラレルキャリア」の女性先駆者として注目を集めているが、同時に二児の母親としての顔も持っている。

ヒルトン姉妹やミランダ・カーといった海外セレブを広告に起用し、サマンサタバサの世界観を描いてきた世永氏は、2019年にサマンサタバサの非常勤取締役となり、オイシックスで社長付として新たな歩みを始めている。そのきっかけは「子供と夏休みを」という思いにあったという。

「大学卒業後、芸能事務所アミューズのレコード部門で働いていて、2年目に組織変更があって飛び出したとき、たまたま転職雑誌で見つけたのがサマンサタバサでした。夢中になって働いて、29歳で長男を、33歳で長女を産んで、その間に私は執行役員、上席執行役員になりました。でも17年間勤めてきて、40歳を過ぎたころに一度立ち止まって考えました。息子が小学校の最後の年になっていて、自分の中で『夏休みはこの子と一緒に過ごしたいな』という強い気持ちが表れたんです」

世永氏は、家事こそ自分の天職だと思っていて、そんな自分を誇りに思っているという。「自分が今までビジネスパーソンとしてがんばってきた何かを、自分が好きな家事の領域でアウトプットできたら……」と思っていたところ、縁がありオイシックスと出会った。

「オイシックスは、『忙しいけど、料理も作らなきゃいけない』という、自分と同じ罪悪感を抱えている人たちの役に立ちたいという思いで働いている人が多いと感じました。それでいて、会社として『家庭の事情で5時に絶対に家にいて子どもを迎えたい人』『もっと全力で仕事をしたい人』」両方に向き合っている感じと、それぞれの考えをお互いが許容し ている感じがすごいなと思ったんです」

働き方を変えるためにその背中をフラットな考え方で押してくれたのが、サマンサタバサ創業者の寺田和正氏、オイシックス創業者の髙島宏平氏だっ たそうだ。

「すごく悩んだんですけど、寺田社長は『不安を感じているみんなの支柱として、"サマンサの母”になってくれればいいから』と席を残してくれて、髙島社長からはそんな働き方に対して『やってみなよ、むしろそういう話をしてくれて嬉しい』と言ってくれました」

  • 世永氏がサマンサタバサ・オイシックスのパラレルキャリアで働く理由

    世永氏は「40歳のとき、ちょっと歩き方を変えてみたいと思った」と話す

抱えている事情を言い出せる環境作りが一番大事

こうしてパラレルキャリアとしてオイシックスで働くようになった世永氏。最初に驚いたのは、その社風だったという。

「すごく働き方を赤裸々に話すんです。例えば『子どもが熱を出してしまったので、日中はおそらく仕事になりませんので、稼働は本日10%くらいです』なんてメッセージがSlackに流れるんですよ。制度よりも、その人が抱えている事情を言い出せるオープンな環境作りこそ、一番大事だなと思いました」

オイシックスの髙島氏は、コロナの感染が拡大し始め、リモート会議が導入され始めた際に強い口調で「リモートワークをしている側の人が『申し訳ない』という気持ちになる事例は、1つも作らないでくれ」と言ったそうだ。

「オイシックスで働き始めた当時は、一人だけリモートワークだったのがすごく心苦しかったんです。でも、コロナ禍でみんながリモート環境になってから、オイシックスへのコミット力がとても上がりました。どこにいてもパフォーマンスを発揮できるとわかったからです。パラレルキャリア人材は、企業にとって今後の要になると感じています」

仕事とプライベートは両立できなくて当たり前

パラレルキャリアの先駆者として多忙な日々を過ごしている同氏だが、一方で「実は仕事とプライベートの両立はできてないですね(笑)。両立ってなんだろうといつも考える日々です」と語る。

「でも、14年間ワーキングマザーをしてきて、"両立はできなくて当たり前"と気づいたんです。私は不器用で、両立ができずボロボロになって戦ってる姿を子どもたちに見せてきました。そうしたら思春期を迎えた子どもから、リスペクトという新しい感情を感じるんですよ。『ありのままでいいんだ』と最近はすごく思っていて、もし、今仕事と家庭の両立に悩んでいる人がいるなら『大丈夫!14年経ったらご褒美来るから!』と言いたいです。

世永氏自身、実は一人目の子どもが生まれたときにサマンサタバサを辞めようと考えたことがあるという。だが、寺田氏から「保育所を作ろうと思っているから、よかったら使って。でもあなたのために作ったわけじゃないから、別に使わなくてもいいよ」と言われ復帰したそうだ。

「復帰後、最初の仕事が都の事業所内保育第1号の表彰式でした。この再スタートがあったからこそ、いまも仕事が続けられていると思います。あまり会社が手を差し伸べすぎるのもプレッシャーになると思っていて、とにかくスタートを切れる環境を与えること、そして自分もスタートを切ろうとしてみるのが大事なのかもしれませんね」

多様性の時代、それぞれにそれぞれの生き方がある

  • 世永氏がサマンサタバサ・オイシックスのパラレルキャリアで働く理由

    自宅でWeb会議をしている姿も子どもに見せているという世永氏

女性の活躍推進が叫ばれるようになってから、すでに何十年も経過しているが、まだまだその道は半ばだ。企業における働き方は、これからどのように変わっていくのだろうか?

「やはり人それぞれ使命と生き方があって、特に女性には女性の避けられない生き方があると思うんです。私は、それぞれの生き方で活躍できれば良いと考えています。例えば、本来であれば女性の取締役比率を規則で決めずに『取締役にしたい人、やりたい人がいるから、結果的に女性が就任する』というのが理想ですよね。私もそういう働き方を体現できたらいいなと思います。これからは、そういった多様でフラットな価値観を持った企業にこそ、人は集まると思います」

そして、働き方の多様性を促す第一歩として「社内にロールモデルを作っていくこと」「マネジメント層は会社の価値観を体現してくれる人を大事にすること」を挙げる。

「オイシックスに入ったとき、周りの女性社員から『40歳を過ぎたらどういう働き方と人生になるかすごく不安でしたが、世永さんを見て『大丈夫なんだ』と思えました」と言われました。40歳を過ぎても楽しく働いているという姿が見えることが大事なんだと思います。あと、考えていることや感じていることを自由に話していいという心理的安全性を作ることですね。とくにリモートワークが増えてから、人間味のある雑談の重要性が増したと思います。いかに制度の前にこういった雰囲気を作るかが、とくに女性も働きやすい環境作りにおいては大事な気がします」

世永氏は最後に、パラレルキャリアで働くことの意義について、次のように語ってくれた。

「私の働き方 は、かっこよく言えばパラレルキャリアかも知れませんけど、『女性が40歳まで頑張って働けば、あんな生き方があるんだ』という一例だと思っていただければ嬉しいです。もちろん『こうはなりたくない』と思われても構いません。私自身が女性の生き方の一つの比較対象になることで、社会への恩返しができればと思っています」